清澄白河にある東京都現代美術館で、11月5日まで開催中の「あ、共感とかじゃなくて。」で、おしゃべりに興じているのは、アート好きなティーン・溝口元太さん(15)、望月春希さん(16)、キキさん(15)です。
展覧会の感想から、はるか昔の人類の話まで、四方八方に広がる奥深きアート談義をのぞいてみましょう。
今回のテーマ:「アートって身近じゃなくない?」
元太:展示、すごく面白かった!
キキ:うん、新鮮で面白い順番だった。でも、普段から美術館に行く身からしても、なかなかにスパルタな構成だったなとも思う(笑)。
春希:スパルタ(笑)! なんでそう思ったの?
キキ:パブリックなものって、たくさんの人に理解してもらうことが前提にあると思うんだよね。アートも同じで、例えばわかりやすい展示からスタートして、徐々に考えさせていくっていうのが一般的だと思うけど、この展覧会は、最初から頭をフル回転しなきゃいけない不思議な展示から始まっていて。ある意味、最初の作品がいちばんわかりづらいっていう……。
元太:確かに、最初の有川滋男さんの展示は、なかなかインパクト強かったよね。ひとりで来たときは、いくら考えても理解できなかった。
春希:僕は反対に、「仕事」っていう身近なテーマが、わかりやすいとも感じたんだよね。人によって感じ方はやっぱ違うね!
キキ:それでいうと、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)さんの作品は、人によって感じ方が違うんだなって。でも、どの作品からも、「共感してほしい」とか、逆に「共感しなくていいから……」とか、伝えたい心の叫びみたいなものを感じて……。その複雑さにしびれた(笑)。
春希:全体を通して、はっきりとした形や輪郭はないんだけど、ゆっくり楽しめるような展示だったよね。無理に「共感」しなくていい、そんなフラットさが馴染みやすくて、見ていて楽しかった。
元太:奇妙な仕事道具を触ってみたりとか、巨人の歯と寝たりとか、一緒に来た人と体験できるのもよかったし。途中の月の展示みたいに、ぼんやりと意見を交換できるスペースがちゃんとあるのもいいね。
キキ:展示ではないけど、最後の吹き抜けの空間で、感想を言い合えるのも楽しかった!
元太:ひとりで来たときにはわからなかったことも、今日みたいに、キキや春希の感想を聞けると、そのぶん視野が広がる気がした。いつもよりも充実した時間を過ごせたなぁ。
「映える」からアートを好きになってもいい!
春希:美術館に行くとき、誰と行くことが多い? それともひとり?
元太:基本はひとりかな。展示会の情報を見て、これ行きたいなって思ったら、フラッと行っちゃうことが多いかも。
キキ:僕も同じかな。興味がある子がまわりにそんなにいないっていうのもあるけど
春希:ふたりとも、ひとりで行くことが多いんだね。僕は、ほとんど行かない。
元太:確かに、春希は行っているイメージない(笑)!
キキ:どうしても美術館って、大人が行く場所ってイメージだけど、最近は若い人も気軽に入りやすいような展覧会も多くなっている気がする。
元太:確かに! この間も、ちょうどここでディオールの展示が開催されていたんだけど、ここは渋谷か原宿かな?って錯覚するほど、同年代の女の子がたくさんいてびっくりした(笑)。
春希:僕もそうなんだけど、アートって別に「かわいい!」とか「かっこいい!」がきっかけになってもいいと思うんだよね。
「この展示は映えるから好きかも〜」ってなって、作家さんについて調べてみたり。別の展示に足を運んでみたり。そういう体験の繰り返しで、同年代の子たちもアートを身近に感じられたらいいなとは思う。
キキ:名古屋には、そもそも美術館自体がそんなになくて、首都圏の子たちと比べると、アートに触れる機会は少ないんだよね。
元太:日本全体で見ても、海外と比べると、アートに触れられる機会は少ないよね。
キキ:アートに詳しい人って、特殊な立ち位置で見られるけど、知ってるか知ってないかの違いだけだよね。だからまずはアートに触れる環境から整っていけばいいなって。
アート好きのティーンは変わり者?
春希:確かに、“アート好き=変わっている”、みたいなレッテルが貼られがちなのが悲しい。
キキ:アニメとかアイドルが好きなのと同じだけなのに、変わり者として見られちゃう感じはある。
元太:僕は美術部に入っているんだけど、美術部自体、そういう目線で見られない?
キキ:すごくわかる。運動ができる、勉強ができる、とはまた違った立ち位置っていうか……。
元太:いい大学に入るために、大きい企業に入るために勉強を頑張ってる人からすると、美術を学んでどうするの?って不思議がられているのかもしれないね。
春希:現実的じゃないって思われてしまったり、他の子を見習いなさいって言葉で片付けられたり。なんでアートが好きなのかとか、この作品についてどう思ったのかとか、自分の中をもっと見てほしいなって思う。
キキ:やっぱり、アートが一部の人のためだけのものっていう考えもまだあるのかもしれないね。
元太:最近、『サピエンス全史』という本を読んだんだけど、人類は抽象的なものを崇拝できる想像力があったから、ここまで進化できたんだって書いてあった。その抽象的なものこそがアートなのかなって思って。
春希:生活の中では、どうでもいいことに見えるアートも、こうやって現代まで受け継がれてきている……。実は、生活の中で、すごい大切な要素なんだろうね。
キキ:アート好きは変わり者っていう話に戻るけど、実はアートが発信しなきゃいけない相手って、アート好き以外の人たちじゃないかなって。
例えば、好きなアイドルのアルバムのジャケットとかポスターがダサい……みたいな感覚って、みんなあるじゃん? そういうのからでもいいと思うんだよね。
春希:わかる、「ディオール、かわいい!」みたいな、そういうちっちゃい美意識が大事。
キキ:アートに携わる側も、そういう小さなきっかけで美術館に足を運ぶような人たちに、ついマイナスな感情を抱きすぎなのかも……なんて思ったり。
元太:うんうん。アートはただの嗜好品じゃなくて、より生活に近いものだったっていう原点に戻って、もっと気軽に同世代とアートについて語れたらいいよね。
「あ、共感とかじゃなくて。」開催概要
会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
観覧料:一般1300 円 (1040円)/ 大学生・専門学校生・65 歳以上900円 (720円) / 中高生500円 (400円) /小学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
Photo:Kaori Someya
Text:Sayuri Otobe