タイムリーな話題から、リアルに響くカルチャー、さらには社会問題まで、さまざまなテーマについて、ティーンたちの声を聞き、届けていくシリーズ、「10代リアルVOICE」。
今回のテーマは「人生で影響を受けた小説」。活字離れが進んでいるとはいわれていますが、現代を生きる10代は、どんな作品に心を動かされ、刺激を受けているのでしょうか。5人のティーンが答えてくれました。
1. ゆう猫さん「未来も悪くないかもしれないと思えるきっかけをくれた一冊」
『PSYCHO-PASS サイコパス 上』/深見真
「アニメのノベライズ作品です。アニメ自体もすごく大好きなんですけど、第1期の上巻に、近未来の社会において、同性同士の恋愛がどう扱われているのか、明言されているんです。小学生とき、セクシャリティに悩んで、すごく落ち込んでいたので、同性同士の恋愛を書いてくれたことを嬉しく思って、未来も悪くないかもしれないと思えるようになりました。
LGBTQ+のエンパワーメントを意識して書いているように感じない、ただのSF作品で、こうした描写が見れたことが、自分に大きな影響を与えていると思います」
2. 片山知香さん「人とのコミュニケーションのとり方を考え直すようになった」
『手紙』/東野圭吾
「犯罪者の家族の目線で書かれた本。何事にも正解があると思いがちだったけど、正解のない問いなんていくらでもある、ということを、この小説で再認識できました。
また、被害者家族が理不尽な差別・逆差別に見舞われる描写も、印象的でした。現代の社会には、いろいろな差別があるけど、人にはさまざまな背景があり、その背景を知らないがゆえに差別をしてしまうことがたくさんあると思うんです。この小説を読んでから、人と関わるときには性格だけでなく、その人の背景を知るように努力をするようになりました」
3. ももさん「表舞台に憧れを抱いていた自分が、裏方の尊さに気づかされた」
『空飛ぶ広報室』/有川浩
「ドラマ化もした、航空自衛官に焦点を置いた作品。中学校1年生のときに読みました。私は小2のとき、関東で東日本大震災を経験したけど、当時は『なにか異常なことが起きている』程度にしか物事を考えておらず、自衛官やマスメディアなど、より安全に、よりよく被災者の方が過ごせるように尽力している方に対して、想像を働かせることもなくて。しかし、この小説を通じてどんな物事にも裏方がいて、見えない努力があってこそ、見える社会があるんだということに気づきました。それまで私は表舞台に出る人に憧れをもっていましたが、この作品を読んだ中1のころから、裏方の尊さに憧れを抱くようになったと思います」
4. 中村眞大さん「気づいたら、クマオタクになってしまいました」
『羆嵐』/吉村昭
「吉村昭が1915年12月に北海道苫前村で起きた三毛別羆事件を取材し、その実話を基に書いた小説です。小6か中1のころに読んで、衝撃を受けました。この本、とにかく怖いんです……。
ヒグマが開拓民の暮らす山村を襲って村人たちが食べられてしまう話で、なにしろ実話なので、いつまでも頭から離れませんでした。それと同時に、クマへの興味が湧いてきました。日本最大の獣の生態はどうなっているのだろう? 人とどう共存しているのだろう? ばったり会ったらどうすれば良いのだろう……?
ボーイスカウトをやっていたのもあって、山にはよく行っていたので、クマに会うリスクも他の同世代の人たちよりは高く、図書館でクマ関連の書籍を漁って勉強して、自由研究のレポートにまとめました。中2の夏には、家族に頼んで北海道苫前の事件現場にも行きました。この小説がきっかけで、クマにとりつかれたように『クマオタク』になってしまいました」
5. 山下彩夏さん「自分もやっていたけど、あらためて駅伝の魅力に気づかされた」
『風が強く吹いている』/三浦しをん
「同じ寮の住人たちが、弱小大学から箱根駅伝を目指すお話。さまざまなメンバーがそれぞれの思いから、精一杯努力していく様子が見られます。なぜ車のほうが早い道のりを走るのか、なぜ無理をして限界を突破してまで勝ちたいのか、主人公たちが絆を深めてぶつかり合いながらも団結する様子に、とても感動しました。
私も小中高と駅伝をやってきて、走ることのつらさや楽しさ、仲間との絆を学んできましたが、改めて絆や努力の素晴らしさを感じた一冊です」
主人公に自分を重ねて、生きる勇気を得たり、物語から新しい世界の一面に気づいたり……。それぞれ、小説からさまざまなことを学んでいました。
現代の10代がどんなカルチャーや作品に影響を受けてきたかは、以下の記事からもチェックできます。
Photo:Eri MiuraText:Ayuka MoriyaEdit:Takeshi Koh