
23歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」。
今回はロンドンを拠点に活動するアーティスト、Raisa Kを紹介します。
みなさん、気づけば9月。涼しくなってきましたが、いかがお過ごしですか?
わたしは今年もフジロックに行ってきました。わたしが行った日は一日中雨が降っていて、HP削られまくり、もう超疲れたのですが、普段、生で見るチャンスが少ない海外のアーティストを一気に観ていけるというのはやっぱり嬉しいです。(もちろん、国内アーティストも素敵な方々がいっぱいいます。)
このコラムは、最終的にわたしの好きなアーティストが日本(フジロックとかね!!)でライブをするきっかけのひとつになったら……という、ささやかな草の根運動的な側面もあり、今回は誰を書こうかな〜と数分思索した結果、今いちばん好きなアーティストを書いてやろうという結果に辿り着きました。
というわけで今回紹介するのは、ロンドンのアヴァン・ポップ界隈で静かに活動を続けるRaisa Kです。
ロンドンの片隅で静かに活動を続けるアーティスト

Raisa K、ことRaisa Khanはこれまでロンドンの片隅で、静かに、しかし確かな存在感を持って活動を続けてきた。2013年には、UKインディーシーンの中核を担うレーベル、Ninja TuneのサブレーベルであるTechnicolourからEPを発表。また、UKのアンダーグラウンドなエレクトロ・ミュージックシーンを追うものなら避けては通れない音楽家、Mica Levi(彼らは名門ギルドホール音楽学院の同級生)と共に、アヴァン・ポップバンド、Good Sad Happy Bad(以下、GSHB。)でボーカリスト/キーボーディストとしても活動。Raisa K自身のデビューアルバムとなる『Affectionately』の中でもMica Leviが数曲ギターで参加しており、GSHBのメンバーでMount Kimbieでも活動するドラマー、Marc Pellも一部制作に関わっている。
他にも独立系ラジオ局、NTSでの毎月他アーティストをフューチャーして行うレジデンスDJや、昨年にはロンドンのアヴァンポップバンドSTEREOLABのサポート・アクトにブッキングされるなど、シーンの中でコミニュティに根付きながらも、独自の音楽性を育てているように思う。けれど、アルバム制作当時、彼女は恐らくフルタイム・ミュージシャンではなかったようで、仕事の休憩時間や電車での移動中、子どもたちを寝かしつけているベッドの中など、日々の暮らしと共に制作されている。
愛を込めて、日々を描く

タイトル、『Affectionately』=愛を込めて は、彼女自身の世界への眼差しのように見える。「Tall Enough」では、我が子の成長に驚きつつも、その成長自体に自分自身が付いていけない親の姿が描かれ(彼女自身のエッセイのようだ。)、「Both Still」は、「本音を言えというけど、わたしが本当のことを言ったら引いちゃうでしょ?」という矛盾と、お互いの違いを認め合えることができる理由は、世界は君を中心に回っていないからだよと、皮肉ぶってみせる。
盟友エクスペリメンタル・ポエトリーリーディスト、Coby Seyとのデュエット、「Stay」では、お互いを深く思いやりながらも、すれ違ってしまう関係性を描く。MVでは、2人が扮する名もなき男女が、最後まで目が合うことなく、近づき、そして離れていく様子がロンドンの街並みをバックに映される。他人に過度な期待をしてしまうことへの恐れや、空気を読んで生きることの息苦しさをシニカルに、あるいはたしなめるように描く歌詞が彼女の深い洞察力をうかがわせる。愛情を込めて世界を見ることは、なんでも盲目に褒めちぎることではない。
また、1曲目と2曲目は繋ぎ目がなく、BPMを半分に落としただけの同じビートを使っていて、遊び心と客観性が同居しているような作り方も面白い。インディーポップ的な聴きやすさを持ちながら、硬質なマスタリングが全体に施されたことで、他とは一線を画す独特の音響世界が作られる。そして、彼女の最大の特徴のひとつと言える、冷たい海の中にいるようなくぐもった独特のボーカル加工は、無機質ながら幽玄なイメージを引き起こす。エフェクトはこのアルバムだけでなく、GSHBのボーカルなどでも共通してかけられていて、まさにRaisa印と言えるものだ。
幻想的でありながらソリッドで、どこか無機質に聞こえる音響感は、『Affectionately』のリリース元であるコペンハーゲンのレーベル、15 loveの他の作品群に共通する意識のように思える。同地拠点のエクスペリメンタル・ポップ作家であるML Buchやチェロを片手に現代音楽とアヴァン・ポップを行き来するCTMなどを筆頭に、コペンハーゲンの実験的な音楽シーンを代表するレーベルである15 loveは、配給するアーティストの大半が女性、また、フォーキーで静かなニュアンスのあるリリース群のどれもが実験的で新しいアイデアに満ちていて、個人的にもいつも新作を楽しみにしているレーベルだ。
サウスロンドン数珠繋ぎ

また、彼女を知る上で欠かせないのは、SPEAKERS CORNER QUARTETや、Tirzah、Mica Levi、Coby Seyらを中心としたサウスロンドン周辺で活動するアーティスト群で、彼らのリリースを追っていくと、こことここは前にコラボしていて、そのアーティストはまた別のアーティストのプロデュースを……と、数珠繋ぎのようになっていく。
例えばTirzahの絶賛された21年作、『Colourgrade』のリミックスアルバムである『Highgrade』は良い例で、ショーケース的とも評されるこのアルバムには、TirzahのパートナーであるKwake Bassが所属するSPEAKERS CORNER QUARTETや、その彼らともコラボレートするWu-Lu、またMica Levi、Coby Seyと共にキュレーターコレクティブ、CURLのメンバーだったTONEが参加していたり(Raisa Kもメンバーだった)、また、そもそも『Colourgrade』はMica Leviがプロデュースに入っていたり……なんて具合。彼らのジャンルはジャズやR&B、ポエトリーリーディングやロックと様々だけれど、みんなジャンルの新たな地平を切り開かんとするアーティスト達だ。
彼らに共通して流れる空気感。それはロンドンの曇り空のような荒涼としたニュアンスと、自分のルーツを見つめながら作品にアウトプットしていくアーティストが多いこと。他民族都市であるロンドンのなかで、一言では括られないアイデンティティを持った仲間達に囲まれながら活動を続けるRaisa Kが、「Both Still」の歌詞で、シニカルながらも「わたしたちはお互いに穏やかなままでいられる」と歌うことは納得いくものがあると思うのは少し飛躍しているだろうか。
あまり日本で語られている印象のないサウスロンドン界隈も含めて、今回はRaisa Kの紹介をしてみた。毎回書いている気がするけど、本当に日本に誰か呼んでくれないかなぁ……。
耳心地の良さとアヴァンギャルドさが共存した音世界は、Juana MolinaやAstrid Sonneのようなアーティストが好みだったら刺さるはず!シーンも含めてぜひ聴いてみて!
Edit: Himari Amakata
Writer: 渡辺青






