
22歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」。
今回は6月に初の来日公演を行ったUKエクスペリメンタル・バンドMoin(モイン)を紹介します!
UKポストパンク〜エクスペリメンタル最重要バンドとも言われるMoinが、6月初旬、初の来日公演を行った。個人的に今年もっとも楽しみにしていたライブであり、彼らのかっこよさをどうしても伝えたくて、今パソコンに向かっている。2026年、今こそ本当に「これ聴いて!」と思うバンドのひとつだ。
どうして今、最重要バンドと呼ばれるのか?

Moinは、実験的グライム〜エクスペリメンタルデュオとして活動していたRaimeのTom Halstead、Joe Andrewsと、インディー・サイケデリックバンドVanishing Twinのドラマーとしても活動し、実験音楽における女性やクィアのアーティストを紹介する書籍プロジェクト「Basta Now」の出版など、多岐にわたって活動する女性ドラマーValentina Magalettiから構成される3人組バンド。
鋭く、まるで踊るためにあるかのようなValentina Magalettiのドラミング。90年代のエモーショナルなギター・ロックが反映されているようなリフはノスタルジックで胸を打つ。バンドサウンドというよりも、Valentina Magalettiの作る、複雑な人力四つ打ちの反復の上に、まるでダンストラックが作り上げられているような感覚。コラージュされる叫び声や、ロンドンの曇り空(行ったことないけど!) のような陰鬱さは、世界中が感じている閉塞感に共感し、エッジの聴いたスリリングさは轟音の中に、陶酔と癒しの瞬間をも産み出す。
「制作プロセスそのものがコラージュに影響を受けています。コラージュとは、異なるものを並置し、そこから何か新しいものを見つけ出すことだからです」とメンバーが話すように、Moinの作る音楽は、奇妙で、違和感さえ生むサンプリングが自然とひとつのトラックに溶け込んでいく。
なんか、聴くのが疲れるなー。と思うのがむしろ正解というか、そんな部分が癖になるというか。なんならその難解さも含めたグルーヴ感がめっちゃ「今」で最高!
例えばそれは、This Heat が今、ラップトップを持って現在にいたら……なんて想像してワクワクさせてくれるものでもあって、いわゆるインディー・ロックとは一線を画す音楽性と実験性はポストパンク精神の真の継承者と言っていいと思う。
また、作品をリリースしている音楽レーベル『AD93』はロンドンが拠点で、昨年Pitchforkのレーベル・オブ・ザ・イヤーに選出されたこともあって、インディー・ミュージックの世界で今もっとも影響力を持っていると言っても過言ではない。ここから発信できているということも、時代の音に敏感な早耳のリスナーを惹きつける要因のひとつだろう。
初の来日公演
今回の来日公演は、メンバー三人に加え『AD93』でのレーベルメイトであり、Valentina Magalettiのとのユニット、HolyTongueとしても活動するDJ、コンポーザーのAl Wootton(昨年末に出た個人名義の『Glorias』は必聴!)がサポートに入った4人編成。
6月6日、恵比寿、LIQUIDROOMでの公演は、アルバム『You Never End』で見られるシューゲイズ的な幽玄さや、陰鬱なギターポップの美学を存分に浴びさせてくれたような印象で、2曲目の『Melon』でAl Woottonの操作するサンプラーから流れるポエトリー、「You don’t know me. But I know you. I sure as fuck know you.(あなたは私のことを知らない。でも私はあなたのことを知っている。間違いなくあなたのことをクソ知っている。)」が、自分の居場所を見つけられず鬱屈しがちな我々20代前半の心の叫び(というかわたし)のようで、オープニングからこれかよ、と、少し泣けた。

今回の公演では、Moinの持ち味のひとつであろう、Valentina Magalettiのトランシーなドラミングに対して、他メンバーがどうアプローチしていくのか? という実験的な試みが控えめに見えた部分だけが少し残念だったのだけど、その違いはライブと音源の違いとして捉えるべき部分なのだろうか?
また、今回の対バン相手であったgoatは、関西を中心に活動する音楽家、日野浩志郎率いるリズム・アンサンブル。日野は、彼自身のソロプロジェクト、YPYでValentina Magalettiと共作もしていて、大阪公演ではYPYとして対バン相手を努めた。そのライブは、メンバー個々が異なったリズムを反復させ、そのレイヤーを少しずつ重ねていくことで緊張と緩和、興奮を産み出し、魔術的なトランスミュージックが生まれていくというものだった。おそらく両者とも作曲をする上での考え方は似ているものの、ライブではそのアウトプットの違いが顕著に現れているように見えた。Moinにはサンプラーを使った飛び道具的な面白さと、楽曲自体が訴えかけてくるエモーショナルな美しさがあり、goatにはレイヤー状に重なる楽曲構築をなぞっていく有機的な面白さがあって、その対比を楽しめるのも興味深く、楽しい夜だった。
「Post-Whatever(=ポスト・何とか)」

最後に、どうして彼らが今最重要バンドと呼ばれているのかについて、再度戻ってみたい。
その理由の一つには、彼ら自身がMoinの音楽性に名付けている「Post-Whatever(=ポスト・何とか)」という単語に示されるような、グランジの郷愁やエッジさ、ノイズ、ポスト・ハードコアの激しさとトランスミュージック的陶酔感、などなどなどなど(Whatever)を細かく切り刻み、肉体性と反肉体性とをごちゃ混ぜにし、どちらかといえばDTM的な考え方が、「バンド」という形体のもとに行われていることがある。音楽を作っていく上でのそのコンセプト自体が実験的であり、リスナーや、後発のアーティストに新しい感覚や発見をもたらしているということがあるのではないか。
ライターの端くれ的には、「Post-Whatever」という言葉は恐ろしいものである。だってもうだいたいのジャンルに境界なんてないんだもん。じゃあもうなんでもありじゃないか! となってしまうのだ。しかし、そんな恐ろしい言葉を定義し、実践してしまうのが、Moinの凄さである気もするのだ。
また、今回Moinを招聘した実験音楽プラットフォーム 「MODE」は、過去にはPatti Smith、Still House Plantsなど大御所から注目の若手まで、世界各地のアヴァンギャルドなアーティストの来日公演をキュレーションしており、もう公演は終わってしまっているが、Moinの他にも、劇伴を多く手がける前衛作家、Daniel Blumbergと70年代から活動する日本のアングラシーンの精神的ドン、灰野敬二のコラボレーション公演など、注目すべきプログラムが目白押し。凄い。今後ともお世話になりたいプラットフォームなので、みなさん要チェックです。
引用:
「制作プロセスそのものがコラージュに影響を受けています。コラージュとは、異なるものを並置し、そこから何か新しいものを見つけ出すことだからです。」
Edit: Himari Amakata
Writer: 渡辺青






