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心の傷との向き合い方に悩んでいる人に。Steenzブックレビュー 【本と私と。】

心の傷との向き合い方に悩んでいる人に。Steenzブックレビュー 【本と私と。】

「書評アイドル」として執筆活動しながら、モデルなど幅広く活動している20歳の私、小春による書評フォトエッセイ連載企画 “Steenzブックレビュー。

今回は、「心の傷との向き合い方に悩んでいる人」ににおすすめの1冊『包帯クラブ』です。今回も私と同じく以前10代名鑑に出演されていた写真家の村山莉里子さんに撮影をいただいて、「感情と風景が交差するところ」をコンセプトに、新しい本との出会いをみなさんに届けられたらと思います。

外の景色と心の中の景色はつながっている

この前、中学校の合唱祭の会場だった文化ホールにライブを観に行った。会場に入った途端、ふと足がすくんだ。理由はすぐに思い当たった。あまり良い思い出がない場所だったからだ。合唱祭は、賞ももらったし、表面的にはいい思い出だった。でも、当時の私は受験勉強、人間関係に悩み学校に行くのもやっとという日々を送っていた。あの場所に入った瞬間、忘れていたはずの6年前のそんな思い出が一気に押し寄せて来て体が反応してしまったのだ。記憶と場所ってこんなに結びついているんだって驚いた。

ネガティブな経験、気持ちは忘れたくても忘れられないし、いい思い出に上書きしても無くなるわけじゃない。本当に厄介でしかない。辛かった記憶とどう向き合えばいいんだろう?

そんなことを考えているときに読んだのがこの本。登場人物の高校生たちは、「包帯クラブ」というグループを作って、自分たちが傷ついた場所に包帯を巻いていく活動をしていく。きっかけは、包帯を巻くことでモヤモヤした気持ちが傷であるということ気づいて心が楽になったことだった。例えば、告白して振られた場所である病院のベンチや、離婚する前に両親といったデパートの屋上遊園地のパラソルなど、それぞれの思い出の場所に包帯を巻く。

「傷ついた」って言えない

もし、現実にこの「包帯クラブ」があったら、ベンチやパラソルに包帯を巻いていくような活動は、不思議に思うかもしれない。でも、どんな小さなことでも目で見える形で傷だと認めてくれる優しさがあるとわたしは思う。

わたしは、傷ついたら「傷ついた」と言えない。もっとつらい想いをしている人はいるし、これが傷だと言えるのか自信がない。言っても何もならないと思ってしまう。登場人物のディノは、「もっとつらい想いをしてる人だっているんだから」というよくある言葉を、相手の思いやり欠ける精神の怠惰だ、と言う。たしかに、もっとつらい想いをしている人もいるっていう線引きはどこにあるのか誰も知らない。自分の気持ちを人と比較して自信を無くす必要なんてないのかも。

傷を傷と認めてあげたい!

この本を読んで、傷は皆が抱えているそれぞれのもので、誰にも図られるものでもないから傷だと認めても良いと思えるようになった。心の傷を完全に癒すことは難しいけれど、場所に包帯を巻いていったように、傷だと認めて前を向いていくことはできる。多分、私が未だに文化ホールで足がすくんでしまうのも、ネガティブな気持ちを無かったことにしようとしたからだ。だから、もう苦しかった記憶をなかったことにしないで、心の中で「傷があったんだ」と認めてあげることから始めようと思う。その優しさを、自分にも周りの人にも向けたいな。

今回紹介した本

包帯クラブ

包帯クラブ』/天童 荒太 著/河出書房新社

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Keisuke Watanabe

プロジェクトリーダー

Steenzの発起人・プロジェクトリーダー。10代の頃は、新潟県の進学校から上京し、テニスサークルの部長、スタバでバイト、コピーバンドを組む「凡庸な大学生」をやりきった

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