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アルゼンチンからやって来た、ユーモアたっぷりの反逆者 Ca7riel & Paco Amoroso「PAPOTA」【21歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

アルゼンチンからやって来た、ユーモアたっぷりの反逆者 Ca7riel & Paco Amoroso「PAPOTA」【21歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

21歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」

今回紹介するのは、アルゼンチンの幼馴染デュオCa7riel & Paco Amoroso。昨年世界中の音楽ラバーの心を掴んだ伝説級のTiny Deskを生み出した彼ら、ユーモラスで素敵なバイブスにあなたもきっと夢中になるはず!

Tiny Deskで見つかった、アルゼンチンの最高デュオ

Ca7riel & Paco Amoroso。見慣れない文字の並びに、「えっ、なんて読むん?」となってしまいそうだが、「カトリエル アンド パコ アモロソ」と読む。

このアルゼンチン出身の幼馴染2人組のユニットは、昨年10月にYoutubeで公開されたTiny Desk Concertでのパフォーマンス映像で、瞬く間に世界中の音楽好きのホットトピックとなった。現時点で3000万回以上の再生回数を叩き出し、まさに世界的なバズとなったので、SNSで彼らを見かけたことのある人も多いだろう。

再生した瞬間から目を惹く癖のあるルックスと、グルーヴィなラテン・ファンク調の組み合わせはとてもクールで、なんといっても彼らのユーモラスな歌詞がまた魅力的。

Tiny deskでの2曲目、メロウな雰囲気の「EL ÚNICO」は、首元にタトゥーの入った黒髪の魅力的な女性に二股(どころではないかもしれない)をかけられているかもしれないと気づいたPacoが、電話でCa7rielに愚痴っていると、Ca7rielもまったく同じ特徴の女性と昨晩、遊んだと言う。「ちょっと待って、俺たち同じ女の子とXXXしてるじゃん!!」と、そんなこんなで2人とも同じ女性に遊ばれたことが発覚すると言う、めちゃめちゃ笑える最高のバンガーだ。


赤いメッシュのヘアスタイルでハートのベストを着ているのがCa7riel、水色のキュートなファーハットを付けているのがPaco。

 

長い下積み期間に裏打ちされた実力

彼らのアーカイブでおそらく最も古いものは13年前、Astorというバンドをやっていた頃のスタジオライブ映像で、2人がまだ10代だった頃のもの。ひたすらライブをやり続けていたという彼らだが、活動はアンダーグラウンドなもので、音楽的成功を掴む為ヒップホップシーンに場を移した。

そこから着実にファンを増やし、少しずつヒットシングルを出していく。22年にはCa7rielのソロアルバムがラテン・グラミーにノミネートされるまでに。Youtubeに上がっている彼らのライブ映像を見ると、観客の熱狂ぶりにアルゼンチン本国での人気が伺える。

Tiny Deskのイメージのまま彼らの過去の音源を掘っていくと、トラップやオートチューンが効いたラップ、ドラムンベースなど、ヒップホップを基盤に様々なジャンルをミックスしていて、それはとても今風なアプローチに見える。

そして昨年、Tiny Deskのラテンミュージック月間に出演。

アルゼンチンで活動をともにしたバックバンドに加え、ブラスバンドやバックシンガーも含んだ大所帯で、2人の少しおどけたような態度の中、飛び出るラップはタイトで只者ではない感じが見て取れる。
終始余裕感漂うハッピーバイブなパフォーマンスは、音楽と長い間向き合い続けた彼らの高い実力と自信あってのものだろう。

個性的なファッションもこのバズにひと役買っているように思う。2人のキッチュなスタイルもそうだが、Ca7rielとPaco、演者本人のセルフィーがでかでかとプリントされたTシャツをバックバンドが来ていたり、なんだか手作りっぽい変なサングラスをつけているベーシストだったりと、思わずツッコミたくなるようなスタイルで、先ほど紹介したYoutubeの17分間だけでも見どころが渋滞している。

新たなスターは反逆者

そんな勢いの中、今年3月にリリースされたのがEP「PAPOTA」。全9曲の内、前半4曲が新曲、後半はTiny Deskの録音が収録されており、全体的にジャジーな雰囲気でTiny Deskから彼らを知ったわたしたちには嬉しい内容。

そんな「PAPOTA」ではいきなりスターになってしまった2人の数ヶ月の体験が、シビアに、そして皮肉たっぷりに描き出されている。

環境の変化や周りからの重圧にうろたえるさまを赤裸々に告白する「IMPOSTER」から始まり、「#TETAS」では商業的成功ばかりを求める音楽業界に対して、笑っちゃうようなやり方で反抗していく。

「俺は夢を叶えた、けれどその代償はいくらなんだ?」という歌詞から始まる「RE FORRO」では、期待やイメージに対して鏡の中の自分に苦悶する気持ちが、しんどいくらいに伝わってくる。そんな、なかなか世知辛い感じの曲達は、聴いてるこちらがちょっと照れくさくなってくるくらいの大・友情感謝ソング「EL DÍA DEL AMIGO」で締められる。

全編を通して爽快感のあるラテン・ファンクに、切れ味抜群のリリックがのったこのアルバムは、Tiny Deskでの世界的バズの後、のしかかったプレッシャーに対して大いなるおふざけと反逆者的な態度で打ち返す、なんともスカっとする1枚になっている。

是非、そんな彼らのアティチュードを存分に感じられるショートフィルムを一度見てから聴いてみて欲しい。

コーチェラ、そして世界ツアーへ

彼らのコーチェラでのパフォーマンスについても触れておきたい。

約50分のショーは、初めから待ってましたと言わんばかりの盛り上がりで、観客のシンガロングが止まらない。中にはTiny Deskでの2人の衣装のコスプレをしている観客もいたりして、ファンの熱量の高さが伺えた。

Tiny Deskを踏襲したバンドスタイルのショーだったのだが、中盤になると突如暗転、バンドメンバーが去り、Ca7rielとPacoの2人だけが残る。重低音の聴いた「SHEESH」とそれぞれのソロ曲、「McFly」「Todo el día」と続き、会場はクラブ状態に、そしていつの間にか戻っていたバンドメンバーとジャジーな世界に舞い戻りフィナーレへ、前述した「EL ÚNICO」で会場の盛り上がりは最高潮に。

個人的にはCa7rielが観客に見せないよう後ろを向いて涙を堪えていたこと(がっつり中継カメラには抜かれていた)が印象に残った。

彼らの10年以上に渡るキャリアの集大成のようでもあり、彼らを見つけたばかりの世界に対するプレゼンテーションでもあるような、素晴らしいショーだった。

そんな彼ら、世界ツアーを敢行中で、日本でもフジロックに出演する予定だ。音楽ラバーは今年、絶対に見ておくべきアーティストだろうし、わたしもめっちゃ見たい。

ローリングストーン誌でのインタビューで「俺たちはすぐに飽きるから、毎回なにか新しいことをやろうとしてる」とCa7rielは語っていた。これからまた、どんなことを見せてくれるのか、注目し続けたい。

 

※Coachella

世界最大規模の音楽フェス。アメリカ、カリフォルニアの砂漠地帯で週末の三日間、2週続けて開催されている。今年は日本からXGが参加。毎年YouTube上で無料配信が行われているので、日本からでも豪華なラインナップのライブを楽しむことができる。時差がある為、視聴には早起き必須。

 

※Tiny Desk Concert

アメリカの非営利公共ラジオ局、NPRが配信している人気音楽コンテンツ。Tiny Desk(小さな机)と謳っているように、NPRのオフィス内の一角の小さなスペースで一発撮りで撮影される。ファンクの大御所から新進気鋭のロックバンド、民族音楽、まで幅広いアーティストのライブを提供する、音楽好き必見のライブコンテンツ。

Edit: Himari Amakata

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WATANABE AO

ライター

渡辺青(わたなべ あお) 2003年生まれ。家業の大家を継ぎつつシェアスペース「空き地さんかく」の主宰&レコード屋と古本屋で働くなど、一体何屋なんだか不明な生活を送る。2025年の目標は、DJをできるようになる事。

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