
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、スーパーの食品廃棄問題の解決を目指しておこなわれた、バース大学の実験についてご紹介します。
世界では10億5000万トン以上の食品が廃棄されている
近年、世界的な問題のひとつとして注目されている「食品廃棄」。国連環境計画(UNEP)の『食品廃棄指標報告2024』によると、2022年には世界で10億5000万トンの食品が廃棄されたそうです。さらに、この廃棄量は、2030年までに21億トンにまで倍増するともいわれています。
特に先進国では、国内の食品量に余裕があるため、簡単に捨ててしまうことも少なく、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業では、製品の外観を一定に保つための基準である「外観品質基準」の影響を受け、見た目が悪いものを捨ててしまったり、世の中のニーズ以上に商品を大量に陳列するがゆえに廃棄が生じてしまったりする点も問題視されています。このような背景があり、世界の小売業における食品廃棄量は1億3100万トンにものぼっているのです。
解決の糸口になるか?バース大学が実施した『一本のバナナ実験』
そうした小売業の食品廃棄問題を解決するために、イギリスのバース大学経営学部は『一本のバナナ実験』を実施しました。一般的に房で売られているバナナですが、なかには房の一部(数本)のみ欲しいという人もいます。すると、消費者が必要な本数のみを持ち帰った後、売り場には単体のバナナが残ってしまいます。
しかし、単体のバナナはそのまま売れ残ることが多く、廃棄されたり、肥料になったりするそうです。これまでの研究においても、単体のバナナが、小売店での食品廃棄の大きな割合を占めていることが分かっています。
今回の実験では、単体のバナナが入ったカゴを3つ用意し、その横にそれぞれ異なる看板を設置しました。ひとつ目の看板には、笑顔のバナナのイラストと「We are happy singles and want to be bought as well.(わたしたちは幸せな独身者です。わたしたちも買ってもらいたいです。)」というメッセージを。ふたつ目には、悲しげなバナナのイラストと「We are sad singles and want to be bought as well.(わたしたちは悲しい独身者です。わたしたちも買ってもらいたいです。)」というメッセージを。そして3つ目には、「Here are single bananas that want to be bought as well.(こちらのシングルバナナも買ってほしい。)」という、単に購入を勧める内容のメッセージだけを記載した看板を用意しました。今回の実験では、この3つの看板を1時間ごとに入れ替える形で、消費者の反応を測定。2店舗のスーパーマーケットで、8日間12時間ずつ実験がおこなわれました。
1本のバナナを売るために、どの看板が効果的だったのか?
表情のあるバナナの絵や情に訴えかける文章が、はたして消費者の購買意欲にどれほどの影響を与えたのでしょうか。結果からお伝えすると、メッセージのみを記載した看板より、イラストが描かれた看板のほうが購入してもらえました。特に、悲しい表情のイラストと悲しさを伝えた文章を載せた看板が最も効果が見られたそうです。
ちなみに、メッセージ表記のみの看板の場合は、バナナは1時間あたり 2.02 本しか売れませんでした。対して、悲しい表情のイラストが描かれた看板は3.19 本売れたため、売り上げが58%増加したことになります。また、笑顔のイラストが描かれた看板の際は2.13本、5.4%増加しました。
つまり、笑顔より悲しいイラストのほうが50%ほど効果的、ということになります。たしかに、悲しんでいる人を見かけると気になりますし、「どうにかしないと……」と思う気持ちが働くものです。この実験は、人間のそのような心理に働きかけているのかもしれません。
『一本のバナナ実験』のようなユニークな取り組みが広がることを期待
バース大学経営学部が実施した『一本のバナナ実験』は、設置する看板を少し変えるだけで売り上げ増加と食品廃棄問題の解決が期待できるという結果となりました。看板に工夫を加えるという取り組みは、小売店としては準備する際の負担も少なく、続けやすい点が、メリットといえます。今後、このようなユニークな取り組みが広がり、食品廃棄が減ることを期待したいですね。
Reference:
World squanders over 1 billion meals a day – UN report
Anthropomorphic Sad Expressions Reduce Waste of “Single” Imperfect Food|Svenja Gerecht, Lisa Eckmann, Daniel Wentzel, Jan R. Landwehr
Empathy with ‘sad’ bananas compels shoppers to reduce food waste, shows research|UNIVERSITYOFBATH
Text:Yuki Tsuruda