世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、2024年11月にアゼルバイジャンの首都バクーでおこなわれた「国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)」について、ご紹介します。
そもそもCOPってなんだっけ?
気候変動への関心が高まっている近年。「COP」という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。COPとは「Conference of the Parties(締約国会議)」の略語です。つまり、どんな条約でも、条約を締約した国が集まった会議であれば、COPということになります。ただし、日本では一般的には「気候変動枠組み条約」に締約した国の会議を「COP」と呼ぶことが多くなっています。環境の分野では「生物多様性条約」でもCOPが開催されますが、こちらは「CBD-COP」と略されることが多いようです。
「気候変動枠組み条約」は、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際会議(通称・地球サミット)」にて作られた条約です。地球温暖化やオゾン層の破壊など、地球規模で発生する環境破壊に対して、世界規模で取り組むべきである、として、国際的な枠組みを定めました。
発効※の翌年である1995年から、定期的にCOPが開催されています。これまで、COP3(1997年)で「京都議定書」、COP21(2015年)で「パリ協定」などが取り決められ、CO2の削減の具体的な数値目標が取り決められてきました。
特にパリ協定では、締約国すべてが参加。世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2℃以内にとどめる、かつ可能な限り1.5℃までに抑えることが決まりました。これにより、先進国であろうが、途上国であろうが、参加している196の国と地域すべてで、地球温暖化対策に取り組んでいくことが決まったのです。
※発効:条約が法的な効果を持つようになること。
そうした流れのもとに、2024年の開催地となったのは、アゼルバイジャンの首都バクー。カスピ海に面し、ロシアやジョージア、アルメニア、イランなどと国境を接している国です。主要な産業は原油や天然ガス、またそれらを加工した石油製品など。昔から原油も天然ガスも採掘されていて、バクー近郊の「燃える丘(ヤナル・ダグ)」では天然ガスが地面から噴出・自然発火し、2000年間も燃え続けていると言われています。
温暖化について語る会議が、産油国でおこなわれるということについて、少し不思議に感じる方もいるかもしれませんね。しかし、参加している196か国すべてが当事者として、温暖化対策に先進的な地域だけでなく、取り組みが遅れている国もまた、主体的に参加する必要があるのです。
COP29の会場の様子は?
ここからは、一般社団法人Media is Hopeが開催した、メディア向けのCOP29報告会での講演をもとに、COPの会場の様子をお伝えします。
全体の様子を伝えてくれたのは、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES) 上席研究員の藤野純一さん。COPは政府間交渉もありますが、NPOや企業、先住民団体、若者団体などの参加も多く、今回の参加者は5万5千人にも上ったのだそう。各国のさまざまな団体がセミナーやセッションをおこない、アイディアを共有したり、ステイクホルダーとして連携を図ったりしたのだそうです。
今回のCOPでは「最終的には、開発途上国に向けた資金拠出の目標を、2035年までに年間3,000億米ドルとする合意がされた。しかし、現在の状況と、必要とされる資金の間に大きなギャップがあるとして、途上国の間では失望したという意見が多かった」と、藤野さんは語ります。
途上国側が必要だと主張していたのは、1兆3000億米ドルでしたが、従来は年間1,000億米ドルの拠出だったので、3倍の金額になっていることと、「COP15では妥結もできなかった」(藤野さん)ことを考えれば、少しずつでも前進していると言えそうです。
そして、資金のことだけでなく、透明性の担保や後発国の支援に関する規定、生物多様性戦略との統合、ジェンダー平等や先住民、若者の意見を包摂していく方針などが、広く話し合われました。
若者はどう見た?COP29に参加した大学生の目
報告会では、COP29に参加した若い世代の方々も登壇。今回のCOPは、若者たちの目にはどのように映ったのでしょうか。
まず最初に報告してくれたのは、COP15に参加した日本のユースにより設立された団体「Climate Youth Japan(以下「CYJ」)」副代表の関口政宗さん(東京大学)。CYJは、全国各地から集まった中学生から社会人までの60名が、「ユースが気候変動を解決に導くことで衡平で持続可能な社会を実現する」ことを目的に活動しています。今回も現地参加し、パビリオンでの意見発信や、省庁や専門家に加え、海外ユースとのネットワーキングの構築、ユースカウンシルに関するアンケート調査などをおこなったそうです。
参加してみて、まず、ユースの意見の扱われ方の違いに驚いたのだそう。「各国のパビリオンでは、ユースの意見を取り入れようというイベントが必ずおこなわれていて、ユースの声を聞こうという意向が強かったです」(関口さん)
また、交渉の仕組みが不完全であり、開催国の振る舞いによって結果が変わることに危機感を覚えたとも語りました。さらには、南半球に位置する新興国・途上国であるグローバルサウスの方々が、気候変動は身に迫る命の危機であると訴える様子も、日本国内での気候変動の扱いとは違うと感じたそう。一方で、日本は遅れていると言われていても、技術力はあり、取り組めている部分はあるのだと認識したと言います。
次に登壇されたのは、CYJ政策提言部門統括をしている和田優希さん(奈良女子大学)です。和田さんが注目したのは、気候変動条約の下に「YOUNGO」というユース団体があること。公式的にユースの意見を取り入れる仕組みがある強みを生かし、将来を担うユース世代の意見を取り入れていく動きに、日本も乗って行くべきだと思ったそうです。
COPに参加する前から、気候変動のことを伝えられる気象キャスターになりたいと考え、気象予報士の資格を取っていたという和田さん。しかし「COPに参加して、より現地向けの仕事がしたいと考えるようになりました」と話されていました。
続いて登壇した橋本 輝さん(東京科学大学)は、SDGsに取り組む若者団体「Japan Youth Platform for Sustainability(持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム/以下「JYPS」)」からCOPに参加。JYPSには高校生から社会人まで30名が参加していて、SDGsに関する若者の声を集約し、政策として日本政府や国連、市民社会に届ける活動をしています。COPには4名が現地参加し、会議やイベントへの参加や、省庁や途上国のユースとの意見交換、日本のユースに向けた発信、海外のユースの参画状況の調査などをおこなったのだそう。
橋本さんは「日本の気候変動問題と世界の気候変動問題は視点が全く違うことに気が付いた」と語りました。「例えば、同じ森林についての話題でも、日本では線状降水帯に代表される短期的な降雨に伴う土砂災害についてが多いですが、世界では森林火災に伴うCO2排出量の大きさになります。日本では森林火災の話は出ないので、全然違うと感じました」(橋本さん)。
また、国際交渉の場において、日本のユースの意見をどう反映させていくか、考える機会になったのだそう。COPが開催される前に国内でユースの意見を聴取して、日本の意見として反映されるような仕組みを作っていくことが必要だろうと提言されました。
少しずつでも進む、世界の取り組み
およそ200カ国のさまざまな思惑が渦巻く、COPの会場。それでも、会場にいる人はみな「なんとかしなくちゃいけない」という意識で集まった人たちであることに、ユースの方々は刺激を受けたようです。また、決して気候変動への取り組みが進んでいるとは言えないアゼルバイジャンですが、街の人もCOP開催のことを知っており、「対策は大事だよね」と声を掛けられることもあったそうです。自国開催でそうした意識が涵養されるのも、COPの大切な役目なのかもしれません。
References:外務省 アゼルバイジャン基礎データ
Photo:©Media is Hope
Text:Itsuki Tanaka