「気になる10代名鑑」の827人目は、河原永昌さん(19)。中学3年生のときに地元大学のプロジェクトに参加したのをきっかけに、寄生バチについて研究を始め、国内外のコンテストでの受賞も。「もっとワクワクさせるような研究をしたい」と語る河原さんに、活動のきっかけや今後の目標について聞いてみました。
河原永昌を知る5つの質問
Q1. プロフィールを教えてください。
「中高生の時は、環境保護や土壌汚染の観点から農薬を使わなくても良い世の中にできないかと考えていました。野外における害虫駆除は寄生バチなどを用いた生物学的防除だけではうまくいかない理由を解明することで、農薬などの化学的防除資材を使わずとも、寄生者である寄生バチのみで害虫で宿主であるガの幼虫を生物学的防除のみでの防除をできないかと考えました。
中高の全てを懸けた研究活動の結果、一定のフィールド内で宿主に対するハチの寄生率が100%にならない要因として寄生バチの中に未寄生宿主に対して何度も産卵管を刺して複数箇所に毒液を注入するハチが関与しているのではないかと結論づけました。そしてこの行動が一部の宿主を残存させ、結果的にこの寄生バチの一部を保存する役割を担っていると結論付けました。
研究論文を発表したころ、日本学生科学賞で最高賞である内閣総理大臣賞をいただき、世界最大の科学コンテストである国際学生科学技術フェア(ISEF)2022にて日本代表として出場し、この年の日本代表の最高成績となる動物科学部門の世界3位を受賞しました。これらの結果を受け、文部科学省より文部科学大臣表彰、伊勢市より功労者表彰(市民文化賞)、志摩市より功労者表彰(一般賞)を受章させて頂きました。
現在は慶應義塾大学で、先端生命科学研究所に所属しおもしろい新たな研究活動に取り組むことと共に、ISEFに挑戦する後輩の支援の為NPO法人日本サイエンスサービスや地元の志摩市のプロジェクトに参加させて頂いてます」
この投稿をInstagramで見る
Q2. 活動を始めたきっかけは?
「図鑑とか見るのが好きで、もともと科学が好きでした。同時に現状のこんな世の中がもっとガラッと変わってしまえばいいと思ってました。
何か勉強だけの科学じゃなくてもっと自分で研究したいなと思っていた中、田舎の公立の中学校で3年生の時に自分の理科の授業の担当の先生が隣の市の地元の大学の皇学館大学での小中学生対象の未来の科学者育成プログラム「三重ジュニアドクター」があることを教えてくれたんです。高校受験が控えていましたが迷わずに申し込みました。
そこで寄生バチの講座を受けて実際に寄生をさせてみたりして、寄生に魅せられました。外部刺激に対して単純に応答しているに過ぎない精密な機械である寄生者が自己利益の為あたかも意志を持っているかのように宿主の代謝や免疫応答、さらには行動までも高度に操ってしまう。そんな機構が共進化によってなされたものだと言葉で説明できたとしても表しきれない面白さがあると思いました。
そんな時、自分の地元にちょうどたまたま世界大会に行った先輩が居たんです。その作品は実験手法から試行回数、実際に楽しんで半端じゃない熱意でこれを作っていることが伝わってきて。見ているこっちも楽しくなっちゃうような引き込まれる作品で本当に憧れたんです。そんな身近な憧れから僕も日本代表として世界大会にこの研究で行きたいなと思って努力してきたわけなのですが、何とか念願叶ってて結果を出すことが出来ました」
Q3. これまでの活動のなかで、影響を受けた人物は?
「指導していただいた先生方や先輩ですね。中学から研究していたのですが、いくら時間をかけてもずっと行き詰まってばかりで、やっと成果と呼べるものが得られたのは、高2の夏でした。自分がやっている研究はそもそも正しいのか、本当にゴールはあるのか。常に悩みと隣り合わせなので、続けていくのは簡単ではないと思いますが身近な憧れみたいになりたいという気持ちです」
Q4. 活動するうえで、大切にしていることは?
「わからなくても飛び込んでみること。特に、中高生のときに取り組んだプログラムは、いまの自分をつくった出来事です。ちょうど受験を控えたタイミングだったのですが、迷わず飛び込んでよかった。振り返ってみると、中高生のときって、最強だったなと思います。中高生にしかないプロジェクトや発表のチャンスが多かったので。
それに学生の期間は、まだ何ももっていないことがほとんどなので、知りたいという貪欲さがあれば、手を差し伸べてくれる大人がいる。それに感謝し敬意を持つことは前提としつつ、教えていただくということに対して、遠慮しなくていいんだと気づいてから、尊敬して会いたい人にどんどん会いに行って、学びを得るように心がけています」
Q5. 今後の展望は?
「高校の時の世界大会では理論的な科学的な視点と社会実装を行い社会にどれだけインパクトを与えられるかという工学的な観点が求められました。私自身もそれに合わせて構成や強調する部分を変えましたが、海外の高い評価を受けている学生は研究の実用化まで漕ぎつけており、社会実装すれば世界が変わるような内容が多かったのに衝撃を受けました。自分も大学では新しく社会実装を前提とした研究がしたいと思い、実学を重視しているこの大学に入りました。
僕はやっぱり熱を持って科学を、未来を語って創っていく人に憧れたんですよ。ここからもっと面白くて、優しい世界に変わってしまうんじゃないかって、そんなどうしようもない熱に魅せられてここまで来ました。
見ているこっちも楽しくなっちゃうような引き込まれる作品を作れるような。もっとワクワクさせるような僕もそんなかっこいい人になりたいなっていう一心です」
河原 永昌のプロフィール
年齢:19歳
出身:三重県志摩市
所属:慶応義塾大学先端生命科学研究所(IAB)、慶応義塾大学環境情報学部、NPO法人日本サイエンスサービス、志摩市ホープロータリークラブ
趣味:博物館、水族館、散歩
大切にしている言葉:出来るときにする。
河原 永昌のSNS
この投稿をInstagramで見る
Photo:Nanako Araie
Text:Chihiro Bandome