Steenz Breaking News

人口約230万人の小国なのに…。自殺率が世界平均の10倍となるレソト王国が抱える構造的な病理とは【Steenz Breaking News】

人口約230万人の小国なのに…。自殺率が世界平均の10倍となるレソト王国が抱える構造的な病理とは【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、南アフリカに四方を囲まれた小国・レソトでの自殺問題についてお伝えします。

欧米やアジアの先進国と並んで自殺率が高いレソト

四方を南アフリカ共和国に囲まれていて、人口約230万人の内陸国、レソト王国。全土が海抜1000m以上と高地で、年間平均気温は12.38℃と、寒いときには雪も降る国です。

レソトは、四国より少し大きいくらいの面積をもつ小国ですが、自殺率が世界平均の10倍にのぼり、大きな社会問題になっています。OECDによると、世界で自殺率が高いのは韓国、ハンガリー、日本、ラトビア、アメリカなど、欧米とアジアの先進国が目立ちます。そんな中、なぜレソトは、自殺率が高い国になってしまったのでしょうか。

この疑問を解き明かすべく、アフリカ在住である筆者のレソト人の友人に話を聞きいてみました。そこから浮かび上がってきた3つの問題点をお伝えします。

小国ならではの経済の弱さが若者を苦しめる

ひとつめの問題は、貧困です。レソトは国土全体が山岳地帯のため、耕作可能地が少なく、盛んな産業がありません。小国で経済も小さいため、職がなく、多くの人が出稼ぎ労働者として、南アフリカに出て働いています。

実際、筆者がレソトに滞在していたときも、仕事を探して南アフリカに渡航するレソト人や、将来的に南アフリカに住みたいと考えているレソト人に多く出会いました。

レソトは南アフリカの中に位置しているため、そのアクセスは非常に容易です。しかし、働き手が南アフリカに行ってしまうため、国内経済が活性化せず、貧困を脱却する道筋が見えないのが現状です。

例えば日本では、生活困窮者に対する公的援助や職業相談といった、長期間での将来を見据えた支援が存在しますよね。しかしレソトでは、そうした公的な支援の仕組みは整っていません。助けが必要な人に対して、政府の支援が行き届くことがなく、さらに深刻な貧困に陥るという負の連鎖が繰り返されてしまうのです。

また貧困が原因で学校に通うことができず、その結果、若くに結婚して子どもをたくさんつくり、その子どももまた、貧困に苦しむというループが起きています。

貧困は教育や生活に支障をきたすだけでなく、裁判でも汚職によって公正な司法が機能しないなど、社会システム全体に影響しています。このように貧困から抜け出せない構造が、精神的に人々を苦しめ、自殺率の上昇につながっていると考えられます。

世界で2番目に高いHIV感染率

ふたつめは、HIV/AIDSの感染率の高さです。UNAIDS(国連合同エイズ計画)のデータによると、レソトのHIV感染率は21.1%と、世界第二位です。実際にHIV /AIDSは、平均寿命にも大きな影響を与えています。日本の平均寿命が女性87.14歳、男性81.09歳であるのに対し、レソトは57.80歳と、世界で最も平均寿命が低い国のうちのひとつです。

HIV/ AIDSに感染しても、貧困がゆえに適切な治療を受けられない人が多くいます。一部の感染者は、身体的な理由や差別を避けるために、人とのコミュニケーションが減り、孤独を感じるようになります。そうしたことが精神疾患を巻き起こす原因になっていると考えられます。

ジェンダー差別が引き起こすプレッシャー

3つめは、アフリカの多くの地域で根強く残る性差別です。性差別は男女ともに影響があり、ウガンダ人の友人も「生まれたころから性差別は常につきまとう」と話していました。

性差別は身体と精神の両方に支障をきたします。女性の場合、強制結婚や児童婚が発生する原因となります。また、社会的地位が低いことや、性教育がまったく浸透していない環境であるため、強制的な性交渉や性犯罪の発生につながりやすく、女性の心身に危害を与えてしまうのです。

こうしたジェンダー観に蝕まれるのは女性だけではありません。男性にとっても、「一家の大黒柱になるべき」といった固定概念が強く残っているため、精神的に大きなプレッシャーを受けています。「弱音を吐いてはいけない」「仕事がなくても家族に相談できない」といった環境であり、多くの家族を養わないといけないプレッシャーもあって、精神疾患につながる原因のひとつだと考えられます。

特にレソトのような小国では、村をはじめとした小さなコミュニティで生活をする人が多く、こうした伝統的な考え方が根強く残っているのです。

まだ認知されていないメンタルヘルスの存在

このように、さまざまな理由で自殺に追い込まれている人が多い一方で、アフリカにおけるメンタルヘルスの浸透は不十分です。クリニックが不足しているうえ、自殺や精神疾患について話すことはタブー視されており、不都合な真実には蓋がされているのが実態です。メンタルヘルスについてオープンに話せる環境をつくることが解決につながるのではないでしょうか。

References:
外務省「レソト王国」
Climate Change Knowledge Portal「Lesotho」
WHO「Suicide in Africa, a neglected reality…」
OECD「Suicide rates」
UNAIDS「UNAIDS DATA 2022」
Worldometer「Life Expectancy of the World Population」

TextHao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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