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ITの力で「持続可能な森林」を次世代へ。林業・木材業界の課題解決に挑むスタートアップ企業【Steenz Breaking News】

ITの力で「持続可能な森林」を次世代へ。林業・木材業界の課題解決に挑むスタートアップ企業【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、ITの力で林業や木材業界の課題解決に挑むスタートアップ企業についてご紹介します。

国土面積の3分の2が“森林”の日本。実は世界有数の森林国だった

8月11日は「山の日」。山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する。そんな意味が込められた日だったのです。

そんな祝日をきっかけに、改めて国内の自然環境に思いを馳せてみると、日本には実は山や森、林が多く存在し、日本は世界有数の森林保有国であることに気づきます。

林野庁の資料『森林・林業・木材産業の現状と課題』によれば、日本は国土面積の3分の2が森林で覆われている、まさに「森林国」。約2,500万ヘクタールもある森林の総面積は、OECD加盟国の中でいえば、フィンランド、スウェーデンに次ぐ第3位にランクインしています。

また人工林も多く、こちらはOECD各国の中で8位に入るほど。CO2排出量削減、住宅の建築、観光など、さまざまな観点から、大きな価値をもつ森林資源が豊富にあるのです。

危機に瀕する日本の林業

しかし、そうした森林資源を活用する「林業」の担い手は、この20年で大幅に減少しました。

先述の林野庁の資料を見てみると、林業を営む経営体は、2005年時点では約20万件あったところ、2020年には約3.4万件へと減少。ひとつの経営体が手がける森林の面積と生産する素材の量が増加していることが明らかになっています。

また、担い手の減少と連動するかのように、国内の木材自給率も年々、低下の一途をたどっています。コロナ禍真っ只中の2021年に発生した世界的な木材需要の高まりや海上輸送運賃の上昇により、ここ2~3年は国産木材の流通量が増えているようですが、それでも木材自給率は、1980年代の3分の1で約40%です。

国内の木材自給率が低い要因のひとつには、サプライチェーンの断絶があるといわれています。昔は町に1軒の割合で存在していた材木屋が次々と廃業してしまい、木材を扱いたい人たちがどこで、誰に相談して手に入れれば良いのか分からない状態となってしまっているのです。

その結果、国産材を使う人の減少に歯止めがかからず、国産材の需要減少と林業従事者の高齢化が相まって、林業経営体がどんどん減っていくという悪循環に陥ってしまっています。

さらにいえば、林業の担い手が減るということは、単にひとつの国内産業が廃れていくという話にとどまりません。山に生えた木々には貯水機能があり、多くの生物の住処となります。山を管理する人がいなくなり、森林が荒れてしまうと、山の貯水機能は崩壊し、大雨のたびに人里に洪水が及んだり、生物多様性が壊れていったりすることになるのです。

ITの力で持続可能な木材の生産・流通をアシスト

そのような国内における森林・林業の抱える課題の解決に挑戦しているのが、株式会社森未来しんみらいです。同社は「Sustainable Forest」をミッションに掲げ、産業的にも環境的にも持続可能な森林と社会の実現を目指し、各種サービスを展開しています。

その中でも主軸となっているのが、木材情報プラットフォーム『eTREE』です。このサービスでは、誰もが木材情報に簡単にアクセスでき、木材の調達から加工・施工までを一環して実現することが可能です。

また、取り扱う木材にも特徴があり、「違法伐採ではないか」「伐採や搬送プロセスの中で人権侵害を起こしていないか」「木材調達の各種プロセスに高い透明性があるか」「国際認証の森林認証など信頼性の高い第三者機関の認証も取得している木材か」といった観点から厳しい基準を設け、それらをクリアした木材だけを、「eTREE」の中で流通させています。

伐採・森林管理の部分から、持続可能なモデルで木材がつくられ、それを「eTREE」を通じて、かつての材木屋さんのように、木材を必要としている人に届けていく。こうしたサイクルを生み出す「森未来」のサービスからは、「持続可能な森林の実現」を徹底的に追求し、自社のビジネスでそのミッションを叶えていくのだという強い覚悟が感じられます。

バンドマン、IT企業を経て、社会課題を解決する起業家へ


では、そんな森未来の事業は、どのようにして生まれたのでしょうか。

森未来の創業者・浅野純平さんは、もともとは林業とまったく関係のないところにいた人物でした。浅野さんが高校卒業後に夢見たのは、音楽での成功。大学には行かず、上京してバンド活動に打ち込んでいたそうです。

しかし、夢破れてIT企業へと就職。営業職として仕事を開始すると、たちまち能力を花開かせ、副部長や支店長を任されるまでになりました。ところが、宮城県で支店を任されていたとき、東日本大震災が発生。

そこでの被災経験から、もともと興味のあった起業に挑戦し、社会性の高い事業で環境問題や地方創生、社会問題への解決に貢献したいと考えるようになったそうです。

その後、しばらくはサラリーマンとしての生活が続きましたが、年齢を重ねる中で「35歳までに起業しなかったら一生後悔する。たとえ失敗して借金まみれになったとしても、挑戦した人生を自分は歩きたい」と感じたことから一念発起。IT企業を退職して東京都あきる野市の木材協同組合などで経験を積み、2016年に森未来を創業しました。

今後はカーボンクレジットに関する事業なども手がけていきたいという浅野さん。森未来が手がける事業は、“森林”という生育に時間のかかるものを扱うからこそ、20年から50年という長期スパンで未来を見据えることが必須です。森林資源を育て、活用しながら、人間社会が豊かに森林と共存していく。そうしたエコシステムを次世代へと残していけるよう、浅野さんは遠い未来まで目を凝らし、いま取り組むべきことを事業として手がけているのです。

TextTeruko Ichioka

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Teruko Ichioka

ライター・編集

フリーライター。好奇心の強さは誰にも負けない平成生まれ。得意領域もスタートアップ、ビジネス、アイドルと振れ幅が広い。

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