世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、エベレストの環境問題についてご紹介します。
深刻化するエベレストのごみ問題
ネパール東部と中国国境に接する場所に位置する世界最高峰の山、エベレスト。比較的天候が安定しやすい4~5月の「プレモンスーン期」が、登山シーズンのひとつとされています。
その登山シーズンが本格到来した4月14日から、ネパール軍によるごみ収集がスタートしたというニュースが報じられました。
近年エベレストでは、登山者によるごみ投棄が問題になっており、その対策として、世界最大級の消費財メーカーである「ユニリーバ」と提携し、2019年から収集作戦が行われています。ちなみに、開始から2023年までに集めたごみの量は110トンにものぼり、今回も10トン以上のごみが収集される予定とのことです。
エベレストの環境問題はごみの不法投棄だけではない
現在エベレストでは、ごみの不法投棄以外にも、排せつ物の問題に悩まされています。原因としては、年々増加傾向にある登山者数と、エベレストの過酷な環境で微生物が働きにくく、登山者の排せつ物が、自然に分解されづらいことにあります。こうした問題を改善するために、2024年より登山者に対して、排泄物の持ち帰りが義務化されました。
ネパール山岳協会は、1枚で6回使用できる、排せつ用の袋を2枚ずつ配布します。この袋には、排せつ物を固めて無臭化する化学物質が入っているそう。登山者の荷物は増えてしまいますが、美しいエベレストを次世代に残すためには必要なことでしょう。排せつ物の持ち帰りを義務化することで、実際にどれほどの効果が得られるのかも気になります。
雪解けにより遺体の発見数も増加
また、ネパール軍の収集作戦では、ごみと一緒に、遺体の収容もおこなわれるそう。1953年、ニュージーランドの冒険家、エドモンド・ヒラリーと、登山者のサポート役であるシェルパのテンジン・ノルゲイが初登頂を果たして以来、多くの人々が登頂しているエベレストですが、厳しい気候と地形のため、アタック中に帰らぬ人となるケースも少なくありません。
それに加えて、遺体をエベレストから運び出すことはとても困難であり、危険が伴う作業となります。そのため、多くの遺体がその場に残されてしまうのです。過酷な環境の中、弔われることなく雪下に眠っている遺体は、推定200体にものぼるとのこと。
しかし近年、地球温暖化による気温上昇が原因で山中の雪どけが進み、遺体が姿を現すという事態が発生しています。そのような経緯もあり、遺体の発見数が増加傾向にあるのです。
今回、ネパール軍は、2023年に帰らぬ人となった5名の遺体を収容する予定です。また遭難者の増加を防ぐために、今年から登山者に向けて、捜索救助活動の際に役立つ追跡チップの発行も開始しました。
日本では富士山の環境悪化が問題になっている
こうした山岳の環境悪化は、エベレストに限ったことではなく、日本の富士山も例外ではありません。
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もともと日本は、自然環境の悪化に対して、昭和54年ごろから国や周辺の県、市町村、民間団体などが協力して、清掃活動をおこなっていました。またそれ以外にも、環境配慮型トイレを民間の山小屋に整備するなど、排せつ物問題にも以前より取り組んできました。その成果もあり、少しずつ問題解決に向かっていました。
しかし2013年、富士山がユネスコの世界文化遺産に登録されたことにより、国内外から登山者が増加。それにより、捨てられているごみの量も増えていきました。2023年の9月に、山岳ガイドの人々が清掃活動をおこなった際は、2022年の1.5倍の量のごみを回収したそうです。
美しい自然を守るために。登山客に求められるマナー
美しい景色を眺め、普段ではできない体験を味わえる登山。しかし、山の美しさを保つことは、国や地域住民の努力によって支えられるものではなく、登山をするすべての人間が、その責任を負っているといっても過言ではないでしょう。
もしも訪れる際は、持ち込んだものはすべて持ち帰るという強い意識と、それを達成するために、必要以上に荷物を用意していないかなど、しっかり確認しましょう。
Reference:
モンスーン|プロ登山家 竹内洋岳 公式サイト
ネパール軍がエベレストのごみ収集作戦 遺体収容も|CNN
エベレスト登山者に糞便の持ち帰り義務付け、深刻化する排泄物問題に対応|CNN
Why Mount Everest Is Littered With The Dead Bodies Of More Than 200 Fallen Climbers|All That’s Interesting
世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」における環境省の取組について|環境省
世界遺産について|富士山世界遺産センター
Text:Yuki Tsuruda