世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、アフリカ在住のライターが、エジプト人にラマダンについてインタビューした内容をお伝えします。
ラマダンについて
イスラム教を信仰する人々(ムスリム)は、世界で18億人にのぼります。米統計サイト、Wisevoterによると、アフリカ大陸においては、人口の半分がムスリムだという推定も出ています。そんなムスリムが年に一度行う一大イベントがラマダンです。辞書では、以下のように説明されています。
ラマダーン(Ramaḍān)
イスラム暦第9月。この1か月の間、イスラム教徒は夜明けから日没まで断食を行う。断食月。ラマダン。
出典 小学館デジタル大辞泉
日本に暮らしていると、「ラマダン」イコール「断食」とだけ認識して、つらくて苦しいものを想像する人も少なくないかもしれません。しかし、その実態はもっと多層的です。そこで今回は、ラマダン中のエジプト人に密着して、その実態を調査してきました。
日常のありがたみを理解するための期間
ラマダンの目的とは、日の出から日の入りの時間帯に断食することによって、貧しい人やごはんを食べられない人を理解し、改めて日常のありがたみを感じることだとされています。断食のみを想像する人が多いと思いますが、日の出から日の入りまでは、食べ物を断つ以外にも、喫煙や性行為も禁止されています。これは、ラマダンが自立のために「欲望を抑え、規制する」といったことも目的としているからなのです。
ラマダンは男女ともに、15歳くらいから始まります。病気の人や生理中の人、旅行をしている人などは、断食をするのが困難であるため免除され、他の日に埋め合わせをおこなうようです。
国全体で昼夜が逆転する1か月間
アフリカの国々であるモーリタニア、チュニジア、ソマリア、アルジェリアでは、国民の99%以上がムスリムとされています。筆者がラマダン期間を過ごしたエジプトも、国民の大半がムスリムで、ラマダン期間は生活だけでなく、街の様子も変化します。
まず、飲食可能な時間が日の入りから日の出の間だけであるため、多くの人が夜中まで起きていました。日の入り後の最初の食事が朝食となり、日の出前の食事が夕食で、1日2食にする人が大半です。
エジプトの街中のレストランやカフェは、日中の営業をせず、日没後から営業を始めます。そのためラマダンの期間中は、深夜になっても街中に、食事や水タバコを楽しんでいる人でいっぱいいます。
この期間中は、ラマダンに集中することが重要視されるため、業務時間を「12時から18時間まで」などと短縮する会社がほとんどだそうです。
豊かなものは他人に与えよ
人々はラマダンの間、貧しい人や助けを必要としている人、借金をしている人に、ごはんを分け与えます。ラマダンは他者の痛みを知るだけでなく、日常に感謝することや他人に優しくすることも目的であるからです。これはイスラム教が信仰されている国の、豊かなものが他人に富を分け与える国民性によく似ています。
ムスリムが大半を占める国ではもちろん、筆者の住むウガンダや隣国のケニアなど、キリスト教徒や土着宗教が共存している国でも、ラマダンは行われています。そして、ムスリムは相手の宗教を問わず、「豊かなものは他人に与える」精神を大事にしているのです。たとえイスラム教が少数派であったとしても、他教徒もムスリムの信仰と生活様式を、当たり前に受け入れる環境ができています。
約1か月間のラマダンが終わると、人々はモスクに行ってお祈りをして、友達や親戚を訪問します。中には旅行やピクニックをして、豪華な食事でお祝いするエジプト人も多くいました。
エジプト人に、ラマダンが終わる際の心境を聞いてみると、「ラマダン期間は信仰心を清められる特別な日々だから、終わってしまうのが寂しい」と答えていました。外から見ると「断食なんて大変そう」と思うのではないかと思いますが、ラマダンをしている本人たちは、案外楽しんでいるようです。
アフリカから学ぶ共存のための知恵
「共存が当たり前」のアフリカにおいて、隣に住む人や同級生と宗教が異なることは、めずらしいことではありません。それもそのはずで、植民地以前から、アフリカには多様な民族がいて、共存していたのです。だからこそ、「民族、言語、信仰は異なるのは当たり前」という考え方が、人々の間で浸透しているのです。
日本にも移民や観光客が増え、さまざまな宗教への理解が必要となってきているいま、アフリカの「共存する社会」から、学べることがあるのではないでしょうか。
References:
wisevoter「Number of Muslims in the World」
statista「Muslim population in Africa as of 2023, by country」
statista「African countries with the highest share of Muslims as of 2023」
Text:Hao Kanayama