世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、牛から排出されるメタンガス削減に関する取り組みについてご紹介します。
牛から排出されるメタンガスと地球温暖化の関係性
地球温暖化の原因のひとつに、牛が関係していることをご存じでしょうか。その原因のひとつが、牛のゲップ。メタンガスなど、地球の表面温度を上昇させる「温室効果ガス」が含まれています。メタンガスには、二酸化炭素の25倍の温室効果があるといわれており、1995年に開催された第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP)でも、「牛や羊などの反芻(はんすう)動物のゲップに含まれるメタンガスが地球温暖化の原因である」と指摘されました。家畜が排出するメタンガスは、全世界の温室効果ガスの約4〜5%(CO2換算)を占めるているそうです。
環境プロジェクト「The Blue COWbon Project」が始動
そんな現状を受けて、牛を含む家畜から排出されるメタンガスの量を抑える取り組みが、世界各地で行われています。そのひとつが、今回ご紹介する「The Blue COWbon Project」。このプロジェクトでは、海藻の一種である「カギケノリ」の海上養殖の技術を開発し、育てたカギケノリを飼料に混ぜることによって、牛のゲップに含まれるメタンガスの排出削減をめざしています。
カギケノリと牛に関する研究はオーストラリアでも行われており、飼料にカギケノリを約0.2%混ぜたところ、牛から発生するメタンガスが、なんと最大98%も減少したという報告もあります。
「The Blue COWbon Project」では、藻類の培養技術の研究・開発を行う日本のバイオ企業、株式会社アルヌールと、近隣海域にカギケノリが生息する、鹿児島県指宿市の山川町漁業協働組合が協力しておこなっています。家畜牛から排出されるメタンガスの削減はもちろん、磯焼けによって減少した藻場の回復拡大、さらには環境に優しい和牛の商品化などをめざします。
広がるメタンガス排出量削減への取り組み
メタンガスの排出量削減に向けては、他にもさまざまな研究機関や大学が活動しています。
例えば、家畜の研究を行っている農業・食品産業技術総合研究機構(以下:農研機構)では、研究を進めるなかで、「個体によってメタンガスの排出量に差があること」や「排出量が少ない牛の胃には、特徴的な微生物(嫌気性細菌)がいる」ことを発見。農研機構は、2025年までに研究を確立し、2030年には市場に展開したいと考えているそうです。
#2022年農業技術10大ニュース
農研機構は、乳用牛の第一胃から、メタン産生抑制効果が期待される新種の嫌気性細菌を発見しました。
この菌の機能を詳しく調べることで、牛のげっぷ由来のメタン排出削減に貢献すると期待されます。
(2021年11月プレスリリース)https://t.co/nBD8EJzUyv pic.twitter.com/JA2NkbzVKS— 農研機構 (@NARO_JP) January 16, 2023
また、北海道大学大学院農学研究院では、カシューナッツの殻を粉砕・圧縮して採取した液を牛の飼料に混ぜることによって、メタンガスの生成を、20〜30%低減できることを実証しました。メタンガスの削減以外にも、カシューナッツ殻液に含まれている成分が、特定の病気を引き起こす細菌のみを壊すこともわかっており、牛の病気予防も期待できるそうです。
牛にも優しい対策が求められる
地球温暖化の原因のひとつとして、危惧されている牛由来のメタンガス。地球のためにも排出量を抑えることはもちろん、その過程で、牛やその他の家畜に負担がかからないように配慮することも忘れてはいけません。そういった面を考えて、カギケノリやカシューナッツ殻液のように、天然の素材を活用した取り組みが増えるといいですね。
Reference:
温室効果ガスの用語解説|気象庁
牛のげっぷと地球温暖化|国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
アルヌール、山川町漁業協同組合との海と牛の環境プロジェクトを開始!|PRTIMES
【研究成果】新たな牛のメタン排出量算出式を開発しマニュアル化~牛のゲップ由来メタン削減技術開発の加速化に期待~|広島大学
牛のルーメン機能を改善する天然素材を発見 北大と共同で|農業協同組合新聞
カシューナッツ副産物給与によるウシからのメタン生成削減|北海道大学大学院農学研究院 小林 泰男
(研究成果)乳用牛の胃から、メタン産生抑制効果が期待される新規の細菌種を発見|国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
Mitigating the carbon footprint and improving productivity of ruminant livestock agriculture using a red seaweed|ELSEVIER
Text:Yuki Tsuruta