これまでのインタビューで、「好きになる力」と「やり抜く力」の大切さを教えてくれたハヤカワ五味さん(26)。第3回は10代にとって大きな選択の一つ、進路について。自身の受験期を振り返りながら、進路に迷う10代に心強いエールをいただいた。
美大進学のきっかけは、ラフォーレ原宿と佐藤可士和さん
高校時代は成績優秀で、国立難関大のA判定も出ていたというハヤカワさん。しかし周囲の反対もなんのその、選んだのは、多摩美術大学への進学。そもそもハヤカワさんが美大進学を志望したのはなぜ?
「ロリィタファッションにハマってたころ、聖地・ラフォーレ原宿で、吉田ユニさんのポスターを見かけて惹かれたのが、デザイナーに憧れたきっかけです。いまもですが、当時からラフォーレの広告というのは、アートディレクターの登竜門的な感じで、いろいろな注目デザイナーの作品が掲示されていて。通いながら見ているうちに、『自分もこういうものをつくりたいな』と思うようになって」
中でも、進学先を決める上で大きな影響を与えた人物がいたそう。
「多摩美術大学のオープンキャンパスに行って、佐藤可士和さんの講演を聞いたとき、本格的に多摩美に行きたいと思うようになりました。
実際にお話を聞いて、『私がやりたいことは、可士和さんのように、企業や社会の課題、誰かの悩みを、デザインで根本的に解決することだ!』って」
美大受験の予備校で、PDCAの習慣を獲得
中学3年生の時点で美大進学を決意したハヤカワさん。受験までの約4年間、美術系の予備校にも通う生活を送っていたが、この時間で、いまも役立つ力を得たと振り返る。
「美術予備校の時間は、過酷でした。常に順位がつけられて、毎日のように先生から『この絵がいい』『ここがダメ』などとみんなの前でレビューされて……。私は実技より学科試験のほうが得意なタイプだったんで、全然できなくて、泣いた時期もありました」
しかし、美大進学という強い想いがあったからこそ、諦めず、壁を突破した。
「上手な同級生の作品を分析して、描いた作品を先生に見てもらって……。それを繰り返すなかで、だんだん評価を獲得するという、成功体験ができました。PDCAをまわす重要性に気付けたことは、大人になってからもかなり活きていると思います。
私の場合は美大受験だったけど、勉強でも部活でも恋愛でも遊びでも、真剣に打ち込めるなら何でもよくて、10代のその時間で得られるものって、大きいと感じています」
まずは小さく届けてみよう
そして見事、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科に合格したハヤカワさん。在学中から、華奢な女性のためのランジェリーブランド「feast」を立ち上げるなど、“美大生起業家”としても注目を集めた。
「多摩美って、美大の中ではビジネス寄りな環境なんです。だから、私に合っていたのかなって。もしも他の芸術系の大学に入って、自分で会社を立ち上げたりしていたら、浮いてたんじゃないかな、と思います」
一方で、ハヤカワさんの後に続こうとする後輩たちに、こんな注意も。
「以前、ヒヤヒヤしちゃったのは、『ハヤカワさんに憧れて、経営の勉強をするために多摩美を目指そうと思っています』っていう相談をTwitterのDMでもらったとき。『いやいや、それは大学が違うよ!』と。
私が卒業したグラフィックデザイン学科は、あくまでアートディレクションやコミュニケーションについて学ぶ学科。経営を学びたいなら、それを専門にした大学、学部を選ぶべきだっていうのを、しっかりと伝えておきたいです」
そのうえで、美大で得たものや、現在の仕事に繋がっていることについて、こう話してくれた。
「美大時代に勉強していた『何をどう伝えたら、受け手がどう思うか』という部分は、どんな仕事にもつながるので、学べて良かったと思っています。
何かをつくりたいと考えている10代の方たちには、美大に行かなくてもいいし、起業しなくてもいいけど、表現したいものがあるなら、誰かに小さく届けてみて、その反応をもらうという経験を、早いうちにすることをオススメしたいです。
その一歩を踏み出すことで、初めて自分がやっていきたいことや進むべき道が、明確になってきたりもしますよ」
3回にわたって、10代の自身の選択を振り返りながら、活躍の裏にある考えを教えてくれたハヤカワさん。「小さな楽しみを見出す」「小さく届けてみる」……そんなアドバイスを取り入れてみたら、いつかハヤカワさんのように、自分らしく、マルチに活躍する大人になれているかも。
ハヤカワ五味プロフィール
はやかわごみ●1995年8月22日生まれ。ランジェリーブランド「feast」、ワンピースブランド「ダブルチャカ」、ラフォーレ原宿のLAVISHOPなどを運営している、株式会社ウツワ / 株式会社ILLUMINATEの代表取締役。
Photo:Aoi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh