Fasion&Culture

数字よりも“好き”を大切に。yutori・片石貴展からSNS時代を生きる10代にメッセージ

数字よりも“好き”を大切に。yutori・片石貴展からSNS時代を生きる10代にメッセージ

前回のインタビューでは、自らをはぐれ者だと感じていた高校時代とともに、服づくりの原点を振り返ってくれた、アパレル会社・yutori代表取締役CEOの片石貴展さん(28)

yutori・片石貴展のルーツとは?「COOLよりFOOL」「ハグレモノをツワモノに」10代の原点を語る
yutori・片石貴展のルーツとは?「COOLよりFOOL」「ハグレモノをツワモノに」10代の原点を語る
複数のストリートブランドを展開するアパレル会社「yutori」。2020年にはZOZOグループからの出資を受け、現在は11ブランドを展開中。そのSNSフォロワーは累計100万を超える。 そんな中、3月1日にWEBサイトを […]
https://steenz.jp/8841/

第2回では、10代から片鱗を見せていたという、デジタル時代における商才や、「SNSネイティブ」な現代の10代に向けて思うことについて、語ってもらった。

1993年生まれ。2018年、インスタグラムアカウント『古着女子』を立ち上げ、初期投資0円の“インスタ起業”としてyutoriを創業。「9090」や「genzai」「PAMM」など複数のファッションブランドを運営。2020年7月、ZOZOグループへハーフジョインし、IPOを目指す。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2020受賞。

ブログで片鱗を見せた、社長業の才能

インスタグラムを活用した服の販売など、「デジタルネイティブ世代」ならではのビジネス手法でも注目を集めている片石さん。その才覚は、10代のころから発揮されていたよう。

「高校生のころは服について書くブログをやってたんですけど、もともとの性質として、僕は『どうやったら数字が出るのか』が分かるタイプでした。ブログのアクセス数とか、SNSのフォロワー数とか。

当時は完全に趣味としてやってたし、高校生の人気ブロガーは他にもたくさんいたから、そこに大きなビジネス的価値があるとは気付いてなかったですね。自分たちの世代からしたら当たり前のことが、違う世代からすると、特別だったりすることって、あるんですよね

そのブログは、あるとき恥ずかしくなって、全部消しちゃったけど、もったいなかったな……。そういう『黒歴史』と思っちゃうようなものの中に宝があるって、大人になってわかったから、後悔しています」

一方で、表に出ることよりも、裏でプロデュースすることのほうが向いているということも、当時から理解していた。

「表に立って情報発信するのは、僕より上手な人がたくさんいましたから。発信者として人気者になるには、マーケティング能力とはまた違うタレント的な才能も必要で、僕は違うかなと。いまの『社長』っていう仕事もそうですけど、自分は誰かをプロデュースするほうが向いてるだろうなって、気付いていました。

だから、みんなの才能を開花させて成果を出して、その中心に自分がいたいという方向性は、その時点で決まっていました」

自宅に飾られたアート作品は、すべて若手アーティストのもの。「メジャーなアートを飾っても面白くないし、才能を発掘するのが自分の使命だと思っています」

数字が目的に置き換わっていた

服とともに、音楽にも精通する片石さん。10代のころから、シーンを切り拓くアーティストに惚れる傾向があったという。

高校時代に特にハマったのは、『神聖かまってちゃん』ですね。思春期を歌った楽曲が多くて、当時の自分に刺さったこともありますし、彼らってニコニコ動画から出て有名になった、インターネット発のロックバンドのパイオニア。新しい時代を切り拓いている人をカッコいいと思っていました。

逆に、オリジナルが出た後は、それに似たアーティストもどんどん出てくるじゃないですか。そういうのには惹かれなかったですね」

高校卒業後、都内の大学に進学すると、音楽サークルに所属。「アカペラアイドル」をプロデュースした。

歌はうまいけど、まわりと組めていない人を集めたら、みんなルックスが良かったんで、『アイドル』っていう形にしたんです。はぐれ者たちの才能をプロデュースするという点では、いまの仕事に繋がっているところもありますね。

ネット配信やSNSを活用してファンを増やし、解散ライブをするころには600人規模で、お客さんが足を運んでくれていました

数字としては成果を残したが、解散ライブを終えた瞬間、片石さんは「自らの大きな間違いに気付いた」という。

「活動中は『自分が集客しなきゃいけない』っていう責任感もあって、ネットでバズるためのマーケティングを、究極まで突き詰めてたんですよ。例えばYouTubeでは、中高生の中で有名なアーティストのカバーばかりするとか。

それでメンバーとぶつかることもあったけど、結果が出なくなるのが怖くて、僕も曲げなかった。でも解散したときに、『そもそも楽しい思いをしたくて、好きなことをやっていたはずなのに、数字が目的に置き換わっていたな』って気づいて、すごく悲しくなったんです。

それからは、自分が純粋に好きだと感じることをまず信じて、その結果として数字がついてくるような選択をしようと考えるようになりました」

「SNSネイティブ」である10代の課題とは?

デジタルネイティブ世代ならではのマーケティング力を持ちながらも、学生時代の経験から「そもそも好きかどうか」という感情を最優先に会社を成長させている片石さん。「SNSネイティブ」と言われるいまの10代を、どう思っている?

「誰でも簡単に、1日に何回でもアウトプットができるし、いいねやシェアの手応えを見えるから、検証・改善もしやすい。だからみんな、発信が上手ですよね。そのぶん、長い修行を苦痛に感じてしまう人も多いんだろうなとも思います。

でも個人的には、何か大きいことを成すためには、それだけ吸収のための時間が必要になると感じていて。『潜る』みたいな、誰にも評価されずともインプットに力を入れる期間がないと、小さい成功はできても、大きな成功がしづらくなってしまうと思うんです」

そんな10代に、自身の経験を重ねながら、こうアドバイスを口にした。

「僕だって、アパレル会社を始めたから服のことを考えてるんじゃなくて、高校生のころからずっと服のことを考えて、それを事業としてアウトプットしてるんです。10年以上、ピュアな服好きとして、ストリートカルチャーの中で生まれるブランドや、死んでいくブランドを眺めていて。だからこそ、この世代では誰よりも芯を食ったものを出せる自信がある。

10代の人たちは、焦らなくていいから、好きなことを見つけて、それをもっと好きになる時間を、大切にしてほしいなと思いますね」

SNSの時代だからこそ、数字よりも“好き”を。冷静かつ熱い、片石さんらしい視点での10代へのアドバイス。続く最終回では、yutoriに才能ある10代が集まる理由と、クリエイティブな職業を目指す10代へのメッセージを聞いてみた。※3/3(木)21:00公開予定

Photo:Aoi
Text:Daiki Ido
Edit:Takeshi Koh

SNS Share

Twitter

Facebook

LINE

Ayuka Moriya

エディター

1999年生まれ、秋田県出身。東京外国語大学 国際社会学部在学時よりライター・エディターとして主にインタビュー記事の執筆、ディレクションに携わる。Steenzでは、2021年ローンチ当初より「気になる10代名鑑」のコンテンツ制作を担当。

View More