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「国際情勢が友人関係に影響する環境」海外ドラマに憧れ飛び込んだスイスでの中学時代に社会派クリエイティブディレクター・辻愛沙子の原点あり

「国際情勢が友人関係に影響する環境」海外ドラマに憧れ飛び込んだスイスでの中学時代に社会派クリエイティブディレクター・辻愛沙子の原点あり

あの人に聞く“私の10代”」。今回のゲストは、社会派クリエイティブディレクター・辻愛沙子さん(26)

社会課題をクリエイティブの力で解決する会社「arca」を24歳で立ち上げた一方、日本テレビ「news zero」には水曜パートナーとして出演中。作り手と発信者の両軸で社会課題へアプローチし、当事者意識を強く感じる姿勢が多くの生活者から支持を得ている。

そんな辻さんの原点が、10代にあるという。当時、何を考え、何をして、いまに至るのだろうか。

辻愛沙子(つじあさこ)。1995年生まれ。慶應義塾大学在学中、インターン先に2週間で入社。その後、株式会社arcaを設立し、「社会派クリエイティブ」を掲げ「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」を軸に、広告から商品プロデュースまで手掛けている。
Twitter:@ai_1124at_Instagram:@ai1124arca

海外ドラマ『The OC』に憧れ、“お嬢様中学”を自主退学。単身でスイスへ!

大学まで一貫で繋がる格式高い女子校に、幼稚園から通っていた辻さん。今の姿からは想像しづらいかもしれないが、小学生時代はセーラー服に三つ編みおさげ……厳しい校則に定められた恰好で「ごきげんよう」と挨拶をする日々を送っていたという。周囲の大人から「やんちゃ」と言われることが多かったと振り返るが、違和感を覚え始めたのは、ちょうど10歳のころから。

「いじめもなく平和で、仲良しの友達もいて、すごく楽しかったのですが、たぶん私には穏やかすぎたんです(笑)。『知らない世界を見てみたい』という好奇心がどんどん強くなっていました。

『ラブ☆コン』『君に届け』『ご近所物語』など、漫画が大好きだったので、作品の中で描かれるいろんな学園生活から、『もしかして自分のいる環境って偏ってるかも……』と察し始めてもいて。

決め手になったのは、小6のころにハマったアメリカの人気学園ドラマ『The OC』。キラキラした世界観に完全に憧れてしまって。共働きの両親がいない間にパソコンで留学先を調べて資料請求して……。人生で初めてのプレゼンは、両親に対する『海外の中学に行きたい』でした

実際のところは、受験も含めて準備が間に合わず、ひとまずは附属中学にそのまま進学。しかし、辻さんの海外進学への熱意は冷めることがなかった。

「籍を残しながらの留学も考えたのですが、保守的な学校だったので、先生たちは応援してくれなくて。それならばと、諸々の準備が整った中2の最初に自主退学して、スイスの学校に転校しました。勢いもあって、家族と離れて単身で行ったので……やっぱりやんちゃですね(笑)」

しかし、その思い切った行動が吉と出た。結果的に「今の自分の重要なルーツのほとんどは、海外での中高時代に得た」と話す。

国際情勢と友人関係が直結。だからこそ、人を所属で見たくない

13歳から始まった、念願の海外生活。世界中から同世代が集まるスイスのアメリカンスクールで、辻さんは文化の違いを目の当たりにした。

「多人種、多言語、多宗教。寮でみんな一緒に住んでいたので、ルームメイトの中には朝起きてお祈りする子もいるし、豚肉が食べられない子もいる。ニューヨーク出身の友達は、朝ごはんにドーナッツの上にかかってるカラフルな砂糖の粒だけを瓶からスプーンですくって、食べていたりも(笑)。日本の学校だと、だいたい似た者同志が集まっていたんですけど、『人は当たり前に違う』ということを、身をもって確信することができました」

中学時代の辻さん(本人からのご提供)

また、日本では無関係に思えていたニュースが、友人関係に影響を与えることもあったそう。

「例えば私なら、日韓関係が悪化すると、韓国の友達と少し気まずくなったり、中国の子とロシアの子がなんとなく交わらなかったりとか。国際情勢と自分たちの生活が繋がっていることが、肌感覚でわかってしまうような環境でした。

ただし大切なのは、そういうものを超えて、仲良くできる友達もいたということ。人って国籍や文化で違うんじゃなくて、そもそもひとりひとり違う。だから、個人を所属でくくらずに、点で見なきゃいけない。そういう学びは、今に強く残っています」

世界的ブランド創設者、マフィアのボス……「人は、お金だけで幸せにはなれない」

辻さんが中学時代を過ごした環境が特殊だったのは、人種の多様さだけではなかった。「憧れた『The OC』の世界とは違ったけど、『ゴシップガール』には近かった」と語る意味とは?

その中学は、ある国の王族の娘とか、誰もが知る世界的ファッションブランドの創設者の息子とか、イタリアの大きなマフィアグループの息子とか……とんでもないセレブの子どもたちが集まっていたんです。

保護者会にヘリコプターで来る親がいたり、『親の誕生日に、エルメスのバーキンをあげるの』みたいなことを言ってる子がいて『それ親の金でしょ!』ってツッコミたくなったり。あ、ちなみに私は全然セレブではありませんよ(笑)」

しかし、そんな環境で辻さんは、現在に繋がる重要な課題も発見をした。

「ありえないくらい裕福なんですけど、じゃあみんな幸せそうかというと、必ずしもそうじゃなくて。問題を起こせば強制送還されて母国に帰れるから、わざとトラブルを起こす子もいました。

みんなひとりの14歳、15歳で、当然、家庭や学校、未来に対するいろんな悩みがあったし、その苦しさというのは、どんなに経済的に豊かだろうが解決できるわけじゃない。『お金で幸せは買えない』ということを、その年齢で知ることができたんです。

だから今も私は、『お金持ちになりたい』という資本主義的な欲求はなくて、社会課題の解決のほうに、気持ちが向くんだと思います。もちろん、欲しい服が買えたから自分のモチベーションが上がるとか、資金ができたからやりたいことにチャレンジできるとか、そういう意味では、お金も大切だとは思っていますけどね!」

自らの意志で飛び込んだスイスの特殊な環境と、そこで得た価値観を話してくれた辻さん。続くインタビューでは、「愛とパンク」を信条に掲げる辻さんに影響を与えた、10代で触れたカルチャーについて教えてもらいました。

信条“愛とパンク”のルーツ。辻愛沙子が10代でハマった「カルチャーの二大巨塔」を語る
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前回のインタビューでは、中学時代に単身で飛び込んだスイスでの学びや経験について語ってくれた辻愛沙子さん(26)。 2回目となる今回は、クリエイティブディレクターとして活躍する現在につながる、10代のころの「インプットとア […]
https://steenz.jp/8811/

Photo:Aoi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh

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Ayuka Moriya

エディター

1999年生まれ、秋田県出身。東京外国語大学 国際社会学部在学時よりライター・エディターとして主にインタビュー記事の執筆、ディレクションに携わる。Steenzでは、2021年ローンチ当初より「気になる10代名鑑」のコンテンツ制作を担当。

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