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「明後日をがんばる」EA magazine編集長・山本奈衣瑠が語る“前に進むコツ”

「明後日をがんばる」EA magazine編集長・山本奈衣瑠が語る“前に進むコツ”

前回のインタビュー「『選択肢がなかった』モデルで編集長・山本奈衣瑠がギャルとして過ごした意外な10代を告白」では、中高時代の日々を赤裸々に教えてくれた山本|奈衣瑠《ないる》さん。第2回では、モデルの道を切り開いた経緯、そして『EA magazine』編集長となって気付いた「自分の武器」について話してくれた。

10代のころを振り返りながら、日が沈むまで想いを語ってくれた山本奈衣瑠さん

1.ギャルから青文字への転身。そしてモデルに…

「青文字系」と呼ばれる『Zipper』でモデルデビューし、その後は国内外の前衛的なファッション誌で活躍した山本さん。しかし、そのファッションスタイルに自信を持つまでには、傷ついたこともあった。

「東京の最北端で育ったギャルが、高校を卒業して、初めて原宿の古着に出会ったんです。見た瞬間、『ギャルの服より好き』って感じて、急に前髪がオン眉になり、メイクもチークが濃くなりました(笑)。地元でその姿で友達に会うと『何そのリュック? どこで流行ってんの?』ってイジられて、私も笑ってましたけど、内心はちょっと傷ついていました。好きなものを否定されるのってつらいですよね。

地元のみんなは高校卒業と同時に働き始めてたし、付き添ってくれる友達もいなかったので、それならひとりでいいや、と原宿に通い続けました

「自分の好き」を貫いていた山本さんの人生のターニングポイントはここで訪れる。

「ある日、原宿を歩いていたら、『Zipper』のファッションスナップに声を掛けてもらって、撮影してもらえたんです。小さな出来事かもしれないけれど、わたしにとっては『自分が好きだと感じるものを信じていいんだ』と思えた大きな瞬間でした。

その後、同じようにスナップされている子たちと、だんだん顔見知りになると、みんな地元では変な目で見られていることがわかって。広い世界には自分と似た感性の人がいて、そんなわたしたちの居場所もあるんだという嬉しさも感じました。そして雑誌に出続けていると、結局は地元の友達も『いいね』って言ってくれるようになったり(笑)」

2.スタンスを貫き続けると、自分にしかない武器になる

20代前半は人気モデルとして駆け抜けた山本さん。モデルとして地位も収入も安定していたが、自分の新たな道を進むため、所属していたモデル事務所を辞めて独立し、『EA magazine』を創刊。編集長として、クリエイターやアーティスト、研究者や社会活動家まで、幅広いトップランナーと意見交換をする立場に。

「今だからこそ私が改めて強調したいのは、自分は本当に勉強を全然していなかった人間だっていうこと。最近になって、まわりに頭のいい人が急に増えてるんです。私立の学校で育った人とか、小さいころから海外旅行に連れていってもらってた人とか。そんな別世界で育ってきた人がいるって知って、本当に驚きましたね。友達になった子の家に行って『広っ…!!』みたいな。

でも、そんな友達たちと一緒にいても、居心地よくいられるんです。それは育ってきた階級みたいなのを超えて、みんなが自分のスタンスを貫いてるから。バックボーンが違ったり考え方や意見が違っていたりしても、それぞれに価値観があることを理解してるから、絶対に否定しない。むしろ、常識に対する疑問とか、友達にも隠していた変な趣味とか、何を言ってもみんな倍くらいの熱量で乗っかって話してきてくれるんです(笑)」

そんな環境の中で、自分が対等に存在感を示し、仕事でも切磋琢磨できているのは、10代で自分らしさを貫いたからだと山本さんは話す。

「そんなふうに、国内外のすごい大学出身だったりする人たちがいる中で、高卒の私がいまの場所にいられるのは、10代からスタンスを貫いてきたことが武器になっているからだと思うんです。『なんで?』っていう違和感から逃げなかったり、自分の好きなものを諦めず追い続けたり。そういう経験の中で培われた考え方や溜まってきた言葉が、わたしの個性として尊重してもらえている。

『EA magazine』の取材で、ギャル雑誌『姉ageha』の編集長、小泉麻理香さんとお話ししたとき、『ギャルは周りに何を言われようと、自分を好きでいるために自由なファッション、メイクをする。それが自分を守るってことだって知っていて、このマインドこそがギャルの本質』と言ってて、すごく腑に落ちました。わたし、見た目は変わったけど、今もギャルなんですよね(笑)

3.「明後日をがんばる」

まだまだ先の見えづらい10代が、自分を信じて好きなことを続けるための方法を教えてもらった。

「わたし自身、いまだにそうなのですが、『明後日をがんばる』くらいの気持ちで生きていくのがいいのかなって。先のことなんてどうせわからないんだから。でも、『今日をがんばる』だと目の前のことばかりで疲れちゃうし、明日が不安すぎる(笑)。明後日のことを考えれば、今日と明日はこうしてみよう、って前を向いて進んでいけます。わたし、1年後の目標なんて立てたことないですもん」

さらに、こうも続けた。

『自分と話す』ということも大事ですね。今はSNSの影響もあるのか、誰かに共感してもらえることを無意識レベルで考えがちだけど、本当に優先にしなきゃいけないのは、自分は何が好きで、今何をしたいのか。『何を食べたい?』『今、休みたくない?』など、ちっちゃなスケールでいいから、自分と会話してあげる習慣をつけると、自分の心を大切にした道を歩いていけるのではと思います」

なんだか「ギャルマインド」をとても優しい言葉で教えてもらえた気がする。これから山本さんがどんな姿になっても、10代から続く自分の気持ちにまっすぐなスタンスは、変わることがないだろう。

Photo:Aoi
Text:Tomoka Uendo
Edit:Takeshi Koh

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Ayuka Moriya

エディター

1999年生まれ、秋田県出身。東京外国語大学 国際社会学部在学時よりライター・エディターとして主にインタビュー記事の執筆、ディレクションに携わる。Steenzでは、2021年ローンチ当初より「気になる10代名鑑」のコンテンツ制作を担当。

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