
22歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」
今回は、個人的にもっと日本でも話題になるべきでは!? と思っているサウスロンドン出身のジャズサクソフォニスト、VENNA(ヴェンナ)の最新作。21歳でグラミー受賞、ジャズ界のトップアーティスト達と共にステージに立つ彼のファーストフルアルバム『MALIK』を紹介します!
ふと後ろを振り向きたくなるような音楽
夕暮れ時にひとりで街を歩いていて、ハッと、後ろを振り向いてしまうような瞬間。そこには何もないのだけど、それは昔見たことのあるような景色で、郷愁のような感覚が甘く胸を掠めて、寂しいような、でもどこか満ち足りた気持ちになるような。
『MALIK』を聴いていると、どこからかそんな感覚が湧いてくる。
早熟なアルト・サクソフォニスト

12歳の時にアルトサックスを始めたVENNAはイギリス、サウスロンドン出身の現在26歳。
21年、UKドリルラッパーであるKnucks(16歳のVENNAが、音楽の授業中にDMを送ったことで交流が始まった)による、ドリルとジャズを掛け合わせるという画期的なアルバム、『ALPHA PLACE』を共同プロデュースしたことにより注目を浴びた彼は、2020年に客演したナイジェリアのアーティストBurna Boyのアルバム『Twice as Tall』がグラミーのベストグローバルアーティスト賞を受賞したことで、22歳にしてグラミーウィナーにもなってしまうという、ちょっと悲鳴が出てしまうような速度感でキャリアを進めていく。
その後もビヨンセ『The Lion King:The Gift』への参加や、The Yussef Dayes Experienceの一員としての世界ツアー、Kamashi Washingtonのサポートなど、トップレベルのアーティストと共演を重ねていくことになる。新進気鋭の枠を超え、既に職人っぽさすら漂う彼は、「若者の体におじいさんが入っているようだと言われる」と笑って話す。
ノスタルジーと新鮮さ

「時の試練に耐える音楽を作ることを目標にしている」と語る彼の作品には、なにか超越的な場所にリスナーを引き込んでいくような凄みが感じられ、Venna本人がボーカルも取った『Prophet』では、ドラム、ギター、そしてサックスの応酬が波打ち際のように押し寄せていながらも、そこでは圧倒的な心地よさとノスタルジーが共存している。それは目新しいなにか、というよりも、安心感や全身がほぐれて癒されていく様な感覚が耳を通して体全体に染み込んでいく。
本作『MALIK』は客演もかなり豪華で、ほとんど全編のドラムをYussef Dayesが支えており、ボーカル、ラップ陣にはJorja Smith、Leon Thomas、Sminoなど、シーンにおいて存在感のあるアーティストが参加。また、Vennaの初期からのコラボレーターであるテナーサックス奏者、ピアニストのMarco Bernardisも参加しており、彼は『BLUE NOTE Re:imagined』でもVennaとのコラボ作を発表している距離感の近いアーティスト。

前述の『Prophet』に加え、『+Star101』『My Way』では彼自身のボーカルも聴くことができる。その多才さに驚くと同時に、『+Star101』でのボーカルエフェクトのかかった彼の歌声には、ジャズという、ある種ヒストリカルに語られやすく、難しく考えてしまいそうな音楽に対して、ひとつ現代的なアプローチをしているような新しさをわたしは感じた。
また、彼の生み出す世界観や感性にどっぷり浸ってみたい人にはMVの試聴も強くお勧めしたい。全体的にフィルム調の映像群には、作り込まれたMVから、旅先で自分のカメラで撮ったような市井の人々や広大な風景の映像があり、特に後者はVenna自身の目線を疑似体験しているようで面白い。
Vennaを作ったもの

過去のインタビューの中で「永遠に残しておきたい作品」としてKendrick Lamerの『To Pimp a Butterfly』をあげていることや彼が組んだプレイリストを見ていくと、Pharrell WilliamsやD’Angeloなどの90年代〜00年代を代表するクラシックスと共に、Robert Glasper、TERRACE MARTINといった10年代のジャズシーンのゲームチェンジャー的な存在であり、現在シーンのトップランナーを走るアーティストが並んでいて、彼の特徴であるジャズとヒップホップ、R&Bをさも当たり前かのようにミックスさせていくスタイルに「そりゃそうだ!」 と納得がいく。
同世代のわたしとしては、『MALIK』から伝わる彼の達観した姿勢、そして、吸収してきたものに対するアンサーのような作品がこんなにも早く作り出せるのか! という衝撃がとても大きく、それ込みで、もしかするとわたしたち若い世代が彼の作品を一番楽しめるんじゃないかと思ったりしている。わたしたちが年齢を重ねて変化していくように、きっと彼も変わっていく。これからもずっと追いかけていきたいアーティストだ。
出典:
https://10magazine.com/10-questions-with-venna
https://malikvenna.com
https://www.clashmusic.com/features/searching-for-balance-venna-interviewed/
https://www.vogue.co.uk/article/venna-interview-vogue-darling
https://www.clashmusic.com/news/venna-returns-with-new-single-prophet/
https://www.fredperry.com/subculture/articles/venna
https://open.spotify.com/playlist/5ekpk4BI1P2dgRSEIRASTx
Edit: Himari Amakata
Writer: 渡辺青






