
21歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」
今回紹介するのは、今世界中のフェスを最も盛り上げているといっても過言ではないレイブ・ポップカルテット、Confidence Man(コンフィデンスマン)。今年、フジロックで来日した彼らへのオーディエンスの熱狂ぶりをみた今、これはSteenzでも紹介せねば! と若干熱に浮かされながら書いています。まだまだ日本での知名度は低く感じる彼ら、今のうちに要チェックです!!
世界を股にかけるお祭りカルテット
ひとまず、この動画を見てほしい。映像はダルメシアン柄か白ヒョウ柄なのかよくわからないセットアップを着た女性、Janet Planet (ジャネット・プラネット)が、数千人はいそうな観客を前にガンを飛ばしまくり、腕を宙に振り上げているところから始まる。
少し異様な雰囲気。ジャネットが歌い出す。隣には彼女の相棒のイケメンマッチョ、Sugar Bones(シュガー・ボーンズ)。生ドラムの四つ打ちが入った瞬間、2人はタガが外れたように踊り出す。ステージ後方では、文字通り黒づくめの衣装に身を包んだ2人、Reggie GoodchildとClarence McGuffieが、完璧に脇役に徹しながらシンセとドラムを楽しそうに演奏している。
力任せに身体を動かしているような、決してクールとは言い難いスタイルのダンスを、汗まみれで、取り憑かれたように踊る。極めつけはJanetがSugarに飛び乗って、(彼らはシンクロナイズドダンスと呼んでいる)体操選手のように、もしくはサーカスの曲芸のようにポーズを決める。
客席に降りてクラウドを煽りまくった後、ステージに飛び戻るジャネットの姿はなんともぎこちないし、シュガーの歌はほとんど叫びに近い。
しかもこの映像は、世界でも最高峰の音楽フェスティバル、グラストンベリーでのライブ。この一見イロモノにも映る彼らのスタイルこそ、今、世界中を股にかけて各地のフェスやクラブをブチ上げまくっているお祭りカルテット、Confidence Manの美学なのだ。
コンフィデンスマンって、日本語で「詐欺師」。
歌いながら踊るJanet Planet、Sugar Bones、ミステリアスな黒服を着たReggie Goodchild、Clarence McGuffieで構成されるConfidence Manはローリングストーンの取材によると、OLとして働いていたJanet、そして外来種駆除の仕事についていたSugarによって2016年に結成された。
……と、いうのは彼らなりの冗談で、オーストラリア、ブリスベンのインディサイケロックシーンで活動していたアーティスト同士で結成されたというのが本当のところ。ネットの海を一時間泳げば彼らのバックボーンに触れることができる。
Confidence Man(詐欺師)らしく全てを煙に巻くような態度こそが彼らで、その世界観はほとんど完成されていると言って良い。ポップスター然としながら、全てが冗談で、おふざけ。彼らは「純粋な完璧さは美しいものではないけれど、何かが少しずれているか、横にそれていると、それは美しくなる」とローリングストーンのインタビューで語っている。ダサさすらよぎる不完全さは、緻密に計算されたものなのだ。
クラブが営業停止?なら庭に作れば良いじゃない!
コロナウイルスによるロックダウンの最中に作られた彼らの2枚目のフルアルバムである『Tilt』は、少々使い古された感のあるベタなハウスミュージック(やり過ぎで少し恥ずかしい、でも気持ち良くてキャッチーな)が開放的なバレアリックサウンドで包まれている。閉塞からの逃避と夜遊びへの渇望。それは、全身を駆け巡るダンスへの疼きとなって、わたしたちの耳に飛び込んでくる。
パンデミックによる影響で結成前に行っていた共同生活を再開した彼らは、借りた家の裏庭にあったゴミだらけの小屋にレーザーを取り付け、中国からライトを輸入し、小さなクラブを作りあげ、隣人に嫌われつつも新たな”家”の中でこのアルバムを書き上げた。コロナがもたらした窮屈さに世界中が少しずつおかしくなっていた時、彼らは「productive crazy (生産的な狂気)の中にいた」と別のインタビューで答えている。
バンガーだらけのこのアルバムの中でも、特に素晴らしいのが『Feel like different thing』。90年代を思わせるコッテリしたサウンドはからだがよじれるほどに魅惑的で、そこにジャネットの少々粗野にも聞こえる激しいボーカルが加わると、パーティーアンセムとしての勢いがさらに増して、本当にちょっと身体に悪いんじゃないかな……? と思うくらいに、からだ中の血が沸騰しそうになる。
真剣なお祭り野郎である彼らのアルバムからは、ただアクの濃さだけではない、ダンスやクラブへの実直な愛情や、あふれ出るアイデアが聴き取れてとても楽しい。
彼らが乗る独自の勝ち馬
それでも彼らはやっぱり少し別枠というか、あまり理解されていない感があるなあと感じていたのだけど、昨年世界中を席巻したブラットサマーから始まったレイブカルチャーへの懐古的なトレンドは、リスナーのダンスミュージックに対する理解を深め、四つ打ちサウンドにただ身を任せることの楽しさの再発見にもなった。
それらが追い風となって、彼らは今、完全に独自の勝ち馬に乗っている感がある。2023年以降、Confidence Manの主戦場である音楽フェスティバルが日常に戻ってきたのも理由のひとつだろう。
今年、フジロックで見た彼らのパフォーマンスはものすごくクールだった。でもやっぱり少しダサくて、完成された不完全さが逆にクールであることを体現していた。
わたしがConfidence Manを好きなのは、彼らがちゃんと詐欺師であるからだ。煙たいクラブの中、ギチギチのフロアでドロドロになるまで踊って、お高いドリンク代に辟易する。楽しいけれど、決して良いものだけじゃない。
けれど、家でひとり、ディストピア風の世界をただ憂いているよりも、彼らの音楽にからだを突き抜かれ、甘い誘惑に誘われて、今夜だけは騙されてみようなんて思う夜があった方が絶対に楽しいと思うのだ。
Edit: Himari Amakata
Writer: 渡辺青