
「気になる10代名鑑」の1083人目は、加藤咲穂さん(19)。静岡市で、若者の力でゼロから舞台作品を生み出す活動の代表として活動しています。幼い頃から演劇の力に魅了されてきた加藤さんに、演劇の本場・アメリカNYへの留学での経験やこれからの挑戦について、聞いてみました。
加藤咲穂を知る5つの質問
Q1.いま、力を入れていることは?
「静岡市を拠点に、若者の力でゼロから舞台作品を生み出すプロジェクト『TSUMUGU ART PROJECT』に取り組んでいて、6月に公演を終えました。
通称『ツムプロ』と言われるこのプロジェクトは、表現者たちはただ歌って踊る存在ではなく、どんなふうに表現したいか考えていく『参画者』でもあります。ひとりひとりの参画者が企画を持ち寄りながら、ゼロから作品をつくることができる場所なんです。
わたしは代表として、高校3年生だった昨年11月に始動させました。一般には使用が認められていないような大きな劇場に行って、自分の想いを伝えたところ、特別に上演を認めていただいて。地元企業のカメラマンや照明スタッフの力も借りて、本格的な公演に仕上げられたと思います。
また、高校生時代には、茶の実や茶葉のアップサイクル『茶っぷさいくる』プロジェクトにも力を入れていました。地元の企業と研究開発をおこない、エシカル紙「茶抄紙(ちゃしょうし)」として、静岡市を中心に、いまではたくさんの企業や行政の人が使ってくれています」
この投稿をInstagramで見る
Q2.活動を始めたきっかけは?
「『静岡市こどもミュージカル』に参加して、演劇の世界に飛び込んだことがきっかけです。
小学2年生のとき、先に参加していた姉にあこがれて。さらに当時、植物や動物の感情や言葉に興味があって、『人間以外のものになりたい、演じてみたい……!』と強く思って、始めました。身ひとつで感情を思いっきり発して、いのちを表現することができる舞台の世界に、自然と魅了されていきましたね。
もともとごっこ遊びが好きな子どもだったこともあり、『自分以外の何者かになれる』ことが演劇独自の魅力だと思うようになって。自分以外の存在も、演じているうちに自分の一部になるんです。
そんな演劇の力は、障がいのあるひとをふくめてマイノリティをも包みこむ可能性にも溢れているとも思っていて。演劇をしていたことは、自分にとって大切な原点なんです」
Q3.活動で大切にしていることは?
「相手を否定せず肯定し、次のアイデアや意見をどんどん付け足してみる『Yes, and』の姿勢を大切にしています。
高校2年生のとき、『トビタテ!留学JAPAN』という制度を使って舞台芸術の本場アメリカNYに留学して、演劇教育が異文化理解にどのように生かされているかを現地に調べに行ったんです。
留学中、インターン活動をしていたニューヨークの演劇教室の壁に『Yes, and』の言葉が記されてあるのを見つけて。舞台の世界では即興で演劇をする演目もあるんですが、相手の提案を『Yes』と受け取り、『and』と自分のアイデアを表現してみる。その積み重ねで、どこまでもアイデアは広がり、面白くなっていくんです。『まさに演劇って、生きているんだ……!』と感じた出来事でした。
この考え方は、演劇の世界のみならず、人と人とがつながる上で大切なマインドだと思います。人同士を分断させず、より良い何かを生み出そうとする場面ってすごく素敵ですよね」
Q4.活動を通して、実現したいビジョンは?
「演劇を通じて、たくさんの人に“生きている”と実感できる舞台芸術の魅力を届けたいです。
ツムプロでは、ある小学生の姉弟の存在が印象的で。もともと演劇をやっていた中学生の姉に影響されてプロジェクトの仲間になってくれた男の子がいて。実際に、その子が練習から初めての舞台本番に立つまでを見届けて、わたしもすごく達成感があったんです。
演劇の力は、お客さんだけに届くものではなくて。演じ手の自分たちにとっても、いのちを実感し、ひととつながるものだと思うんです。今後はその力を伝えるべく、教育現場や地域コミュニティにも演劇を広げていきたいですね」
Q5.将来の展望は?
「未来志向になりすぎず、これからもいま自分の持っている幸せを大切にしていきたいです。
活動を社会的な意義だったり成果に結びつけることももちろん必要かもしれませんが、そうするあまり、活動に自分の幸せを見いだせなくなってはだめだと思うんです。自分の趣味のダンスをするとき、舞台に立って役を演じるとき……。どんな自分の幸せもあきらめたくありません。
そして、まずいろんな世界に飛び込んで挑戦したいです。お茶屋さん、地域の企業、はじめて演劇に挑戦する子どもたちなど、リアリティを知り、つながること。それぞれの出会いが、新しい世界線を行き来できるようにしてくれたと思っています。
日常の中で誰もが演者であり、監督でもある、まちを『劇場』として、自分と出会う人の物語をクロスさせながら、『Yes, and』の精神で誰もが輝くことのできる舞台を広げたいです」
加藤咲穂のプロフィール
年齢:19歳
出身地:静岡県静岡市
所属:慶應義塾大学法学部、TSUMUGU ART PROJECT企画代表、NPO法人#YourChoiceProject、MAKERS UNIVERSITY U-18 10期
趣味:音楽を聴くこと
特技:ダンス
大切にしている言葉:学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。(松下幸之助の言葉)
Photo:Nanako Araie
Text:Taishi Murakami