
「気になる10代名鑑」の1054人目は、永井龍さん(18)。英語を活用して『考える力』と『違いを受け入れる心』をテーマに『Flying Penguin Thinkbridge』という対話型オンラインの立ち上げに挑んでいます。視覚障害のある兄と、留学での出会いが原体験になっている語る永井さんに、活動への思いや悩み、描く未来を聞きました。
永井龍を知る5つの質問
Q1. いま、いちばん力を入れている活動は?
「英語のオンラインワークショップ『Flying Penguin Thinkbridge』の立ち上げに挑んでいます。ただの英会話ではなく、文化や価値観の違いをテーマにしながら、自分の頭で考えて話す力を育てることを目指していて。
このアイデアは、いまも住んでいる国際寮での経験から生まれました。半分以上が留学生という環境にある中で、多くの日本人学生が英語を話す機会を避けて、殻にこもっている様子に違和感を覚えたんです。そこで、話すことはもちろんですが、考える力を育てる場が必要だと感じました。
プロジェクト名の『Flying Penguin』は、実は小学校4年生の頃から温めていた言葉です。“飛べないはずのペンギンが、自分で飛行機を作って空を飛ぶ”というイメージから、『努力すれば、どんな人でも世界に羽ばたける』というメッセージを込めました。英語や対話という“翼”を使って、世界に飛び立とうとしている。そんな思いをロゴにも重ねています」
Q2. この活動をはじめたきっかけは?
「いちばんのきっかけは、視覚障害のある兄の存在です。兄は幼い頃、障害を理由に多くの幼稚園から入園を断られましたが、最後に受け入れてくれたのが、多国籍の先生が在籍する幼稚園でした。違いを特別扱いせず、当たり前のものとして受け入れる空気があって、その体験が自分の多様性へのまなざしを育ててくれたんです。
高校時代に参加したUCL(Japan Youth Challenge)、ケンブリッジ大学への短期留学も大きな転機になっていると思います。現地の同世代が当たり前のように投資を始めていたり、進路を自分自身で選んだり、なかには誕生日に親へ旅行をプレゼントするようなひともいました。そんな自由さに衝撃を受け、自分の視野がまだまだ狭かったことに気づかされたんです。
この留学経験から、考えを言葉にして伝えることの大切さとその難しさも実感して。そして、英語は自分の考えを伝えるツールではないとも気づきました。ぼくが活動で大切にしている対話というかたちを通して、はじめて他者を本当の意味で理解することができるのだとわかったんです」
Q3. 活動にあたってのファーストアクションは?
「最初に取り組んだことは、『自分が何を伝えたいのか』を言葉にすることです。
いろんなひとと話していくなかで、軸になっていったのは、英語を通して違いを知ること。ただ英語を学ぶのではなく、考え方や文化の違いを受け入れていく必要があると感じて、その思いを乗せるようにウェブサイトやロゴの設計、SNSでの発信準備を少しずつ進めてきました。
それでも課題は多くて、授業内容の質や評価方法にいまは悩まされています。『考える力』は数値化が難しくて、既存の英語教育の枠には収まりません。でも、だからこそそこに意味があるとも感じています」
Q4. 活動するうえで、大切にしていることは?
「いちばん大切にしているのは、『違いをなかったことにしない』ことです。多様性が叫ばれる一方で、『違っていてもいい』という言葉が、かえって違いそのものを見過ごしてしまうこともあります。
視覚障害の兄を受け入れてくれた多国籍な幼稚園では、違いを尊重するという意識よりも、ただ当たり前にそこにあるものとして過ごすという空気がありました。そうした環境が、本当の意味での違いを認めることにつながっているのだと感じます」
Q5. 将来の展望は?
「まずは、Flying Penguin Thinkbridgeを実現化させ、母国語が英語でないで国にも届くプログラムへと育てていきたいと思っています。地域や言語、環境の差を超えて、誰もが違いを力に変えられる社会を目指したいです。
そして、英語教育とは離れますが、自分自身の最終的な夢は、趣味でもあるF1のチームを持つことです。幼稚園の頃からF1に憧れ、速さや戦略、世界規模のスケールにずっと魅了されてきました。自分にとってF1は、限界を超える挑戦の象徴。教育も、対話も、夢の実現も、すべては『世界と本気で向き合う力』につながっていると思っています」
永井龍のプロフィール
年齢:18歳
出身地:愛知県名古屋市
所属:慶應義塾大学経済学部/Flying Penguin Thinkbridge
趣味:F1観戦、怖い話、ヨット
特技:英語、適応力
大切にしている言葉:「違いを力に」
Photo:Nanako Araie
Text:Serina Hirano