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スリランカに広がるマングローブ林。再生計画が『The World Restoration Flagships 』にも選定【Steenz Breaking News】

スリランカに広がるマングローブ林。再生計画が『The World Restoration Flagships 』にも選定【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、津波により認識されたマングローブ林の重要性と、スリランカのマングローブ林再生計画についてご紹介します。

2004年におきた津波により、マングローブ林の重要性が明らかに

地球に暮らしている以上、避けては通れない自然災害。とくに近年、地震や津波による被害が世界各地で報告されています。2004年に発生した、インドネシア・スマトラ島沖大規模地震による津波もそのひとつです。この災害では、インドネシアやスリランカ、インド、タイなど広範囲にわたって大きな被害が発生。中でも今回取り上げるスリランカの沿岸地方では、約3万もの人々が亡くなり、約8万世帯が家を失った上に、およそ20万世帯が被害を受けたと報告されています。

国連環境計画(UNEP)によると、この地域はエビの養殖池や塩田を作るために、海岸線付近にあるマングローブ林の3分の1を伐採していたとのこと。つまり、津波を防ぐものがない状態だったのです。産業のために伐採したマングローブ林ですが、大きな被害を伴う形でその重要性が明らかになってしまいました。

マングローブ林とはどのようなもの?

マングローブとは、潮の満ち干きの影響を受ける場所に生息する植物の総称です。熱帯や亜熱帯地域で見ることができ、世界中に70種類以上が存在します。

沿岸地域にマングローブ林がある場合、高潮や海流、波、潮汐が原因で起こる被害の軽減が期待できます。そのほかにも、光合成によって取り込んだ炭素(ブルーカーボン)を貯留したり、水産資源をゆっくり養ったり供給したりする役割もあります。

マングローブ林再生計画がスタート

震災後、スリランカはマングローブ林の再生計画を開始しました。2030年までに1万ヘクタールのマングローブ林を再生し、関連する分野で4,000人以上の新規雇用を創出することなどを目指しています。

この計画に対して、スリランカの環境省長官であるBKプラバス・チャンドラキールティ氏は、「島国であるスリランカにとって、マングローブ林は第一防衛線。修復するための投資は、スリランカの幸福や社会の健全性、経済的繁栄への投資だ」といった内容の話をしているとのこと。

ただ、再生計画は大規模な植林から始まったものの、植えた苗の3%ほどしか成長しませんでした。その後、計画を植林から育成へ変更したところ、植物が自然と再生し始めたのです。マングローブ林が育つ条件を整えることの重要性を、実感する出来事でした。その後、2020年には、マングローブ林の生態系保全と持続可能な利用に関する国家政策を採択。2022年には国家政策を持続可能なものにするために、『スリランカのマングローブの保全と持続可能な利用のための国家戦略行動計画』が策定されました。

このような取り組みとたゆまぬ努力のおかげもあり、2015年に開始以来、500ヘクタールのマングローブ林が再生されています。

2024年には『The World Restoration Flagships 』に選定

マングローブ林の再生と規模拡大を着実に進めるスリランカ。この活動は、国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)に認められ、2024年の『The World Restoration Flagships 』のひとつに選定されました。この賞は、長期的かつ大規模な生態系再生分野の優れた事例に贈られ、選定されると国連から財政的・技術的支援も受けられるそう。スリランカはこれらを活用し、修復現場の維持管理や水路の修復、社会への啓発活動など、多様な支援を受ける予定です。

緑地を増やすために植林する事例は見かけますが、環境や条件から整える方法は珍しいのではないでしょうか。マングローブ林という特殊な環境という理由もありますが、「その地に合う方法を見極めることの大切さ」に気付く事例といえるでしょう。さらに今回は、マングローブ林の重要性はもちろん、産業やインフラ発展のために自然を犠牲にしてはいけないことも教えてもらった気がします。

Reference:
Bringing back Sri Lanka’s mangroves with science and community spirit|UNEP
Mangrove Regeneration in Sri Lanka recognized as one of seven UN World Restoration Flagships|United Nations

Text:Yuki Tsuruda

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Yuki Tsuruda

ライター

鹿児島県在住のフリーライター。販売職や事務職を経験後、2020年5月からフリーランスのライターへ。執筆ジャンルは、ものづくりやSDGsなど。

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