
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、気候変動について情報発信する天気予報をご紹介します。
天気予報のように、気候変動情報を毎日受け取れる仕組みをつくる
明日が暑いのか寒いのか、傘は必要なのか。具体的な行動を取るための目安として、多くの人がネットやテレビ、電車内のモニターなどでチェックしている天気予報。多くの方が、きっと1日に1回はチェックしていることでしょう。
一方で、日々の天気と密接に関連する気候変動については、毎日のように情報をチェックしていないという方も多いのではないでしょうか。
気候変動は長期スパンで起きているもの。そのため、そもそも毎日のように情報を得ることが大切だとは思えないかもしれません。
しかし、そうした気候変動に関するこれまでの常識を覆すべく、多くの方に日々の情報を届けようと立ち上がった人たちがいます。フランスや日本の気象予報士たちです。
気候変動の問題を解決できる社会を実現するために、さまざまなサポートをおこなう一般社団法人Media is Hopeが開催した、メディアと気象予報士向け勉強会『気候変動リテラシーと視聴率の向上を両立するお天気コーナーの挑戦』での報告から、フランスと日本の取り組みについてご紹介します。今回は、前編としてフランスの取り組みに焦点を当てたいと思います。
フランステレビジョンの取り組み
ひとり目の報告者はフランステレビジョン「Journal Météo-Climat」で、気候エディターをしているオードレ・セルドンさんです。フランステレビジョンは、フランスの公共放送です。
ヨーロッパは、2022年夏に大熱波に襲われ、山火事や干ばつはもちろん、超過死亡者数(※1)が6万人を超えると推定されるなど、大きな影響が出ました。危機的な状況がここまで日常に迫ると、気候変動について考えざるを得ず、気候エディターとして意識や興味関心が高まったのだそう。
そうして、誕生したのが「Journal Météo-Climat」という番組です。
※1 超過死亡者数:ある集団の通常状態で想定される死亡者数を超過した死亡者数のこと。多い場合はなんらかの要因があると推定される。ヨーロッパの2022年夏の超過死亡は、熱波によるものと考えられている。
プライムタイム、つまり、夜の視聴率の高い時間帯に始まった4分間の番組「Journal Météo-Climat」。イントロの後に天気予報が始まるというのは、これまでのお天気コーナーと変わりません。その後に、その気候がどうして起こるのか、気候変動の文脈で解説するのが特徴です。
例えば、「明日は真冬日。とても寒いでしょう」という予報だった場合、「温暖化しているはずなのに、寒いじゃないか!」という感想を持つ視聴者も多いかと思います。そうした疑問に答えるべく、番組の中では視点を少しずらし、1年間に真冬日が何日あるのかを提示します。そうすると、年々、真冬日のような寒さが減ってきていることがわかります。その結果、「そういえば昔より寒い日が減っているかも」と、気候変動の影響をより身近に感じることができるわけです。
他にも、温暖化の進行が一目で把握できる「クライメイトストライプ」という情報の伝え方を取り入れました。これは年間平均気温が平年より高ければ赤、低ければ青で表示するバーのこと。クライメイトストライプを使うと、フランスの年間平均気温は、青で表示されている年から赤で表示されている年のほうが年々多くなっていることが、一目でパッとわかります。「Journal Météo-Climat」では、こうしたテレビならではの伝え方をいろいろと試みているそうです。
視聴者からの質問に専門家が回答するコーナーも
また、視聴者からの質問に研究者が回答するミニコーナーもつくっています。フランスでは、テレビ画面にQRコードを表示して、視聴者からの質問や意見を募るのが一般的なのだそう。その流れがあるため、質問も多く集まり、視聴者と双方向のやりとりができます。気候科学者や地球物理学者といった気候変動の専門家のほか、医学や農学などの専門家にも登場してもらい、幅広い質問を扱っています。
天気予報だけで番組を構成していたときは制作スタッフは7人でしたが、いまでは12人のスタッフで番組を作っており、「特に気候変動に関する内容は手間がかかる」とセルドンさんは語ります。その言葉に続けて、「たった4分と思うかもしれませんが、テレビでの4分間は長く、積み重ねることでいろいろな情報を流すことができている」と話していたのが印象的でした。
難しいトピックではあるものの、視聴者の理解度を確認しながら放送したことで、視聴率を上げることもできているのだそう。毎日顔を見かける天気予報のリポーターは身近であり、難しい話題でも入って行きやすいのかもしれないという報告でした。
毎日の積み重ねを大切に。
こうした気候変動に関する情報発信の取り組みは、フランスではお茶の間に徐々に受け入れられているといいます。短時間の放送でも、毎日の積み重ねが多くの人の認識や行動を変えていくのかもしれません。来週は、後編として日本での取り組みをお伝えします。
Text:Itsuki Tanaka