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アフリカのメンタルヘルス事情。社会的理解や医療が乏しい国は、精神疾患にどうアプローチする?【Steenz Breaking News】

アフリカのメンタルヘルス事情。社会的理解や医療が乏しい国は、精神疾患にどうアプローチする?【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今回は、アフリカの精神疾患を取り巻く環境や、メンタルヘルスの向上をめざす活動について紹介します。

アフリカの自殺率の高さ

世界保健機関(WHO)によると、現在、世界では100人にひとりが自殺によって亡くなっています。自殺で亡くなった人のうち、およそ9割がうつ病などの精神疾患を抱えていたとする調査結果もあり、精神疾患を取り巻く状況は、いま社会全体で解決すべき重要な課題として認識が広まっています。

人口あたりの自殺率を見てみると、世界平均は人口10万人あたり9人であるのに対し、アフリカでは、10万人あたり11.2人。世界の自殺者の分布を見てみると、77%が低所得国および中所得国の出身であり、アフリカの中でも、エスワティニとレソトにおいては、10万人あたりの自殺者数が40.5人を記録しています。ほかにも、サハラ以南のアフリカにおける子供の7人にひとりが、重大な心理的障害を経験をしているといった統計も存在します。

低所得国で精神疾患や自殺が顕著に見られる理由として、内戦や貧困、失業率の高さなどが挙げられますが、医療サービスの欠如や、精神疾患への理解が乏しいことも大きな要因です。

実際にサハラ以南のアフリカでは、人口100万人あたり精神科医はわずかひとりのみで、精神疾患で苦しむ人々の多くが治療を受けられていません。また、伝統的な、あるいは宗教的な治療法が選択され、認知行動療法やグループワークといった治療が施されていないという現実もあります。

さらに、政府が個人のメンタルヘルスにかける資金にも、地域によって差が出ています。例えばヨーロッパでは、個人のメンタルヘルスの改善のために、政府はひとり当たり46.49ドルを費やしている一方で、アフリカではひとり当たり1ドル未満しか使われていないのです。

精神疾患を理解するコミュニティーを育てる

しかし、このような状況でもアフリカの人々のメンタルヘルスの向上をめざして活動する団体があります。

例えば、ジンバブエにあるNGO「フレンドシップベンチ」は、10年間にわたり、認知行動療法を行える地域のヘルスワーカーを育成し、精神疾患を抱える患者に対してトークセラピーを提供しています。

ここでは、コミュニティヘルスワーカーとの1対1のセッションを通じてサポートを受け、同じような境遇の人々と集まるトークセラピーで共感や解決策を見つけます。その後、かぎ針編みを学び、リサイクル素材を使ったバッグやマット、帽子などを製造し、収益を得る活動に取り組みます。これにより、自分が社会の活性化に貢献していると実感できるのです。

これまでにフレンドシップベンチは62万人以上の患者を迎え、2000人以上のコミュニティヘルスワーカーを訓練し、うつ病や自殺願望の軽減に貢献してきました。

さらに、大学や政府および世界保健機関との提携も進めており、アフリカ諸国で最大のメンタルヘルスプログラムとして成長しています。現在は米国、ベトナム、マラウイ、ケニア、ザンジバル、ヨルダンにも拡大し、同プログラムが“全ての人の徒歩圏内にあること”をめざしています。

また、2000万人以上の人口に対して、50人未満の精神科医しかいないマリでは、演劇を通じて精神疾患の理解を深めるというアプローチも。演劇のベースとなっているのは、マリのバンバラ族がおこなう伝統的な演劇「コテバ」です。演技や歌、踊りなどを組み合わせたコテバは、もともと、村の問題解決や風刺の場として上演されてきました。

首都のバマコにある精神科病棟では、病院に劇団を招き、患者も一緒になって紛争のシーンや日常の問題を演じます。その後、対話の時間を設け、患者が自由に話す機会を提供しているのです。精神疾患をもつ患者の多くが社会から排除される中で、マリの文化的慣習を治療に取り入れた同病院。患者は、家族や医師にも話さないようなことを、劇団の俳優たちに話すこともあるのだと言います。

精神疾患への多様なアプローチが求められる

精神疾患の患者数や自殺率は数値で目にすることができますが、実際は、患者個人に向き合って理解し、ひとりひとりに合ったアプローチをしていくことが必要です。現在もアフリカでは、精神疾患を理由に虐げられたり、医療的なアプローチが受けられなかったりする人が多く存在しています。今後、正しい知識と治療法の認識が広まっていくことが求められています。

References:
Integrated African Health Observatory「Suicide in Africa, a neglected reality…」
World Health Organization「Mental health at work」
PLOS one「The prevalence of mental health problems in sub-Saharan adolescents: A systematic review」
Unicef「Mental health a human right, but only 1 psychiatrist per 1,000,000 people in sub-Saharan Africa – UNICEF/WHO」
FRIENDSHIP BENCH ZIMBABWE「IMPACT TO DATE IN ZIMBABWE」
National Library of Medicine「Who should pay the bill for the mental health crisis in Africa?」

TextHao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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