世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、2024年の日韓エンタメシーンで目立った「AI活用」のトレンドについてご紹介します。
今年もあと1週間!
早いもので、今年ももう残すところあと1週間となりました。
年末といえば、テレビなどで音楽番組の放送が増える時期です。今回は、そんな風物詩にちなんで、2024年の音楽シーンを振り返る記事をお届けします。
2024年は「AI活用」がひとつのキーワードに
ひとくちに音楽シーンといっても、多種多様なジャンルが存在します。そのため、本稿では、筆者が特に得意としている「日韓のダンス&ボーカルグループ」にテーマを絞っていきたいと思います。
見出しにも書いた通り、2024年の日本と韓国におけるダンス&ボーカルグループシーンは、「AI活用」が大きなキーワードだったと筆者は考えています。
例えば、世界的に活躍するボーイズグループ SEVENTEEN。彼らは、今年4月にリリースしたベストアルバム『17 IS RIGHT HERE』で、新曲「MAESTRO」のミュージックビデオの一部にAI技術を活用したことを明らかにしました。
SEVENTEENで多くの楽曲の作詞・作曲を手がけるWOOZIも、同アルバムのリリースを記念した記者発表会の中で、AIによる作詞に個人的に挑戦しているというエピソードを披露。現時点ではグループの楽曲制作にAIを活用した例はありませんが、WOOZIはAI技術が日々発展する中で、グループのアイデンティティをどう守っていくのか、日々頭を悩ませていると心境を語っています。
また、4人組ガールズグループのaespaもAIの活用を加速させています。もともと、仮想世界との共存という、AIとの親和性が高い独自の世界観をコンセプトに掲げていた彼女たちは、今年の初夏にリリースした1stアルバム『Armageddon』のダブルリード曲「Supernova」のミュージックビデオでAIを導入。具体的には、静止したメンバーの口元だけが不自然に動いて歌うという、一度見たら忘れられないクローズアップシーンを実現し、大きな話題を呼びました。
aespaの世界観から「完全AIアイドル」もデビュー
さらに韓国では、歌もビジュアルもすべてがAIによるアイドルプロジェクトも始動しています。
その「完全AIアイドル」の名は、naevis(ナイビス)。先ほどご紹介したaespaのコンテンツの中に登場するキャラクターで、彼女は9月10日に、デビュー曲「Done」で音楽シーンに華々しくデビューを果たしました。
「Done」のミュージックビデオを観ると、その完成度の高さに驚かされます。濃い青色のボブヘアにジーンズ素材の衣装をまとい、キレのあるダンスを披露するnaevisは、遠目には完全に人間そのもの。数秒ごとにアニメ風や漫画風の姿に切り替わる演出がなければ、彼女がAIによって作られた存在だとは気づかず、人間のソロアイドルがデビューしたと錯覚してしまいそうです。
さらにnaevisは、楽曲のリリースだけにとどまらず、K-POPアーティストが公式YouTubeでよく投稿する「日常の一コマを紹介するコンテンツ」も公開しています。現実世界のアーティストと何ら変わらない活動スタイルを展開しており、未来のK-POPシーンでは、こうしたAIアイドルの活躍が一部で定着していくのではないでしょうか。
日本でもAI活用への挑戦が続く
ちなみに、AI活用の波は日本の音楽シーンにも。例えば、LDHに所属する3人組ガールズグループのiScreamは、9月20日にリリースした配信シングル「Kira Kira」でAIを活用しています。iScreamの3人の写真をもとに、メンバーにそっくりなCGキャラクターをAIで生成し、全編CGのミュージックビデオを制作したのです。
また、ダンス&ボーカルグループではありませんが、ロックバンドのONE OK ROCKも、11月14日にリリースした新曲「Dystopia」のミュージックビデオでAIを使用しているそうです。この作品は「AIによる未来のディストピアを、AIと共に創造する」をテーマに掲げており、AIが人間の知能を超えた世界を描写。わたしたちに「生成AIとどう共存すべきか?」という問いを投げかける作品となっています。
これから、AIとどう向き合うべき?
改めて、今年の日韓の音楽シーンでは「生成AI」が大きなキーワードになりました。
しかし、生成AIと、音楽やイラストといった創作物との間には、著作権保護をはじめとするさまざまな課題が存在します。生成AIは、これまでの世界に存在しなかった全く新しい技術です。そのため、生成AIが制作したコンテンツに著作権が発生するのかどうかなど、さまざまな観点から検討が進められています。また、生成AIが学習データとして取り込む素材の中に、作曲家や作詞家、小説家などが生み出した個性やスキルを活かした創作物を含めて良いのかといった点についても、法律やAI技術の専門家を交えながら議論を深め、社会の中に新たなルールを整備する必要があります。
なお、海外では現在、AIが生成した作品に著作権を認めないという方向性や、AI利用時には著作者からの同意がなければ既存の作品を利用できないことなどが、裁判所や法律などで示されるようになりました。特に韓国では「生成型人工知能(AI)著作権ガイド」が作られ、具体的な指針の整備が進められているようです。
一方、日本では2018年の著作権法改正により、AIの学習目的での著作物利用が原則認められるようになりました。また、生成AIが生み出した作品に著作権を認めるべきかについては、文化庁が「人が表現の道具としてAIを使用したと認められる場合は、著作物に該当する」という方向性を示しています。
このように、各国で考え方や判断基準が少しずつ異なっているAIと創作物との関係性。今後、AIと人間が協力して新たな作品を生み出す未来が訪れるのか、それとも創作の領域ではAIの活用が強く制限されることになるのか。これからの時代において、創作とAIの関係性をどう築いていくか、難しい判断が迫られることになりそうです。
References:文化庁著作権課「AIと著作権」
Text:Teruko Ichioka