世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、子育て世帯が抱える課題の解決に挑戦するスタートアップ企業についてご紹介します。
広がる子育て世帯の孤独、見えづらい支援の手
10月27日、約3年ぶりに衆議院選挙が行われました。今回の選挙でも「子ども・子育て政策」が大きな争点の1つとなり、少子化が進む日本にとって重要なテーマとなりましたが、子育て世帯は一体、どのような課題を抱えているのでしょうか。
2023年8月に子ども家庭庁が発表した資料によると、いまの日本では「子育て世帯の孤立」が問題のひとつとして浮き彫りになっています。ある調査では、多くの保護者が「子育てがつらい」と感じたり、「他の保護者とつながりたい」と願うなど、孤独な育児に悩んでいたりすることが明らかになりました。
さらに、20〜50代の人々に「日本は結婚や子育てにあたたかい社会だと思うか?」とたずねたところ、約7割が「そう思わない」と回答。また、「子どもを産み育てやすい国か?」という質問にも、約6割が否定的な回答を示しました。このように、日本では現在、子育て世帯の孤立やそれを支える仕組みの不足が問題となっているのです。
子育ての孤独をテクノロジーで救う『iiba』
こうした状況を変えようと、2022年、子育て世帯を支援するスマートフォン用のMAPアプリ『iiba(イイバ)』を開発するスタートアップ企業、株式会社iibaが誕生しました。同社は、ふたりの子どもを育てる起業家が、子育て世帯ならではの課題の解決をめざして設立した企業です。
『iiba』は、「子育てをもっと楽しく、便利にする」をコンセプトに掲げたスマートフォンアプリです。このアプリを使えば、公園や飲食店はもちろん、授乳室や子どもトイレなどを含めた子育て世帯に便利な場所や魅力的なスポットをMAP上で簡単に見つけることができます。
アプリの特徴は、ユーザー同士で「便利」「素敵」と感じたスポットの情報を気軽にシェアできること。たとえば、電車が見える橋や金魚鉢が置いてある路地裏など、子どもがよろこぶちょっとしたスポットの情報も共有できます。
すでに都内を中心に2,000カ所以上の情報が登録されており、子育て関連アプリの中でも、注目のスタートを切っているようです。今後は遊び場だけでなく、病院やスーパー、保育園、習い事の施設など、子育てに役立つさまざまな場所の情報も拡充していく予定だそう。また、iiba限定のクーポンや、将来的には情報を投稿するとポイントが貯まる機能も予定されているといいます。
アプリ開発に深くかかわる、創業者の原体験
このアプリを立ち上げた株式会社iiba創業者の逢澤奈菜さんには、重要な原体験がふたつ、あったそうです。
ひとつめは、20歳で経験した壮絶な闘病生活です。突如発症したギラン・バレー症候群により、2ヶ月間も自発呼吸ができない全身麻痺の状態に。「一度失いかけた命だからこそ、この先の人生は誰かのため、社会のために使いたい」。その強い想いが、後の起業につながっていきます。
ふたつめは、自身の子育て経験です。土地勘のない東京で、ひとりめの子どもを育てることになったという逢澤さん。慣れない土地での子育ては想像以上に孤独で、「産後うつ」になりかけたこともあるといいます。
その経験から「子育て世代がもっと気軽に外出できるように」との想いで開発されたのが『iiba』というアプリでした。
アプリが「Incubate Camp 17th」で総合1位を受賞!
そんな『iiba』は、10月12日、スタートアップなどに投資をおこなうベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド株式会社」が主催する、合宿型の事業創造・磨き上げプログラム『Incubate Camp 17th』で、総合優勝を獲得しました。このプログラムは2010年の開始以来、250名以上の起業家を輩出し、参加企業の資金調達額は90億円を超えるという、権威ある起業家育成の場です。その17回目となる今回、『iiba』は、歴代初の女性起業家の総合優勝という快挙を成し遂げました。
この受賞を経て、株式会社iibaが目標としているのは、同社が手がけるアプリ『iiba』を子育てに関するプラットフォームへと発展させることだそう。現在、行政や民間企業からさまざまな子育て支援サービスが提供されていますが、日々の育児に忙しい子育て世代には、そうした情報が十分に届いていないのが現状です。『iiba』は、子育て世代と支援サービスをつなぐ架け橋となり、各家庭に適した支援をスムーズに届けられる社会の実現をめざしています。
自分の経験を活かして、社会の課題を解決する——その強い意志が評価され、今回、女性起業家の歴代初の快挙という形で、受賞につながりました。『iiba』の挑戦は、子育ての未来、そして日本の未来を変える可能性を秘めています。
References:こども家庭庁「こども・若者、子育て家庭を取り巻く状況について」
Text:Teruko Ichioka