Steenz Breaking News

猛暑による被害から女性を守るために。インド・ニューデリーで保険と給付金を組み合わせた制度が誕生【Steenz Breaking News】

猛暑による被害から女性を守るために。インド・ニューデリーで保険と給付金を組み合わせた制度が誕生【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、インドで開始された女性を対象とした「保険給付金制度」についてご紹介します。

首都ニューデリーでは最高気温が49.9度に。インド各地を襲う気温上昇の猛威

記録的な暑さが続いているインド。現地の通信社によると、2024年5月時点で、熱中症を理由に死亡した人が、少なくとも46人いるとのこと。また首都であるニューデリーでは、最高気温が49.9度まで上昇し、観測史上最高を記録したとしてニュースになっています。

気温が上がり続けているニューデリーでは、現在、水不足が深刻な状態です。これまでは一時的な対策として、隣のハリヤナ州から、1日2回の水の供給を受けていましたが、他の地域に回すために、1日1回に減少してしまいました。

水の問題以外にも、猛烈な暑さによって、熱中症や慢性的なめまい、火傷、発疹、感染症、流産などのリスクが上がる可能性があります。また人体だけでなく、農作物や商品などが傷んだり腐ったりするため、それらの販売を生業にしている低所得世帯が損害を受けることも危惧されているのです。

ちなみに、猛暑日の収入は、通常の40~50%も減るというデータも出ています。ギリギリのラインで生活を送っている低所得世帯にとって、収入が減ることは、命の危機に関わることです。

そんな状況の中、特に苦しい立場に置かれている女性たちを支援するために、新たな制度が誕生しました。

猛暑による収入減少を補うために女性を対象とした保険給付金制度がスタート

インドの自営業女性協会「SEWA」と非営利団体「Climate Resilience for All」は、猛暑による女性の収入減少を補うために、保険金と現金給付を組み合わせた制度を設計しました。保険金の支払と現金給付は6月からスタートしており、2025年4月まで実施される予定です。

初回となる今回は、ラジャスタン州やマハラシュトラ州など22地区に暮らす女性5万人を対象に、総額約60万ドル(約9600万円)が配られました。保険金の金額は地区によって異なり、平均金額は7.38ドル(約1200円)、最高額はドゥンガルプル地区で、ひとりあたり19.80ドル(約3200円)です。一方、現金給付のほうは、制度に登録している全員に5ドル(約800円)ずつが給付されています。

支払対象となった女性たちの多くは農業従事者であり、通常、1日に稼ぐ金額は3.60ドル(約580円)ほど。今回、その日給を上回る金額が配られたことにより、女性たちは医療費の支払いや家族のために食料を購入できたと話しています。

保険と現金給付を組み合わせている理由は?

5万人という大勢の女性たちを、気候危機から救っているこの保険現金給付制度ですが、なぜ対象が女性のみなうえに、保険と現金給付を組み合わせるという形をとっているのでしょうか。

まず対象についてですが、制度を設計した「Climate Resilience for All」は、一般的に男性より女性のほうが収入が低いことや、雇用形態が不安定なことが多く、ほぼ立場を保護されていないこと、さらに仕事以外にも、家族の介護や家事などの重労働を担っていることなどをあげています。また、文化や宗教のために行動が制限されている場合もあります。

確かに、多くの女性たちは、さまざまな理由から、長く労働することが難しく、結果として、収入も蓄えも少ないはず。すると、もし気候被害を受けて、一時的に働けなくなった場合、一気に貧困に陥ってしまいます。このような負の連鎖が考えられるため、給付対象を女性のみにしたそうです。

そして、保険と現金給付の組み合わせにしている理由ですが、まず猛暑被害に対する保険は、事前に設定された気温に到達すると、数週間で自動的に支払われます。暑さが最も厳しいときに健康を守り、最悪な事態に備えることが目的です。一方で現金給付は、保険で設定されている気温より低い(40℃)が、健康を害する恐れのあるときに、少額の現金が支払われます。

このように、二段階設計にすることによって、気候被害の影響を最小限に抑えられると考えているのです。現に今回、インドを襲った猛暑の際も、多くの女性が収入減や命の危機から救われました。

インドにとどまらず世界でのサービス展開に期待

インドでスタートした、保険と現金給付を組み合わせたユニークな制度。今後はインドにとどまらず、東アフリカや西アフリカなどにも展開し、政府や企業にも支援を求める予定だそうです。関わる人や団体が増えると、それによって新たな問題が浮上する可能性もありますが、多くの女性たちに手が差し伸べられ、健康や収入が安定することを期待したいですね。

Reference:

Delhi records highest-ever temperature of 49.9 Celsius, IMD issues red alert for Wednesday|THE NEW INDIAN EXPRESS
Project|WCS Program
World-First Financial Product Combining Insurance and Cash Payments for Extreme Heat is a Lifeline for 50,000 Informal Women Workers in India |CLIMATE RESILIENCE FOR ALL

Text:Yuki Tsuruda

SNS Share

Twitter

Facebook

LINE

Yuki Tsuruda

ライター

鹿児島県在住のフリーライター。販売職や事務職を経験後、2020年5月からフリーランスのライターへ。執筆ジャンルは、ものづくりやSDGsなど。

View More