世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、6月から課税されている、新しい徴税である「森林環境税」について、解説します。
ひとり年間1000円!森林環境税ってどういうこと?
2024年6月から徴収されることになった「森林環境税」。国民ひとりにつき、年額1,000円が、住民税と併せて徴収されます。国に集められた税金は、全額が「森林環境譲与税(以下「譲与税」)」として、都道府県と市町村へ譲与されるそう。そして、その「譲与税」は、市町村では「森林整備及びその促進に関する費用」に、そして都道府県では「森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用」に使うことになっています。
この背景には、パリ協定があります。そこで取り決められた枠組みの目標達成のために必要な地方財源を、確保する必要があるというのが1点。そしてそもそも、日本における森林整備が遅れがちなことがあります。
パリ協定は2015年に気候変動問題について話し合われた第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、取り決められた協定です。各国が具体的な数値目標に取り組み、温暖化対策をしていくことが決められました。つまり2015年から、この新しい税を徴収するための仕組みづくりはおこなわれてきており、2019年に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、「森林環境税」及び「森林環境譲与税」が創設されました。
森林の状況がヤバイ
では続いて、日本の森林整備がなぜ遅れているのか、その現状について説明します。
森林というのは、国土保全、水源維持、温暖化防止、生物多様性保全などの重要な機能をもち、わたしたちの生活に多大な恩恵を与えてくれている貴重な存在です。森林とひと口に言っても、自然に木が生えている天然林と、人が特定の樹種を植えた人工林という2種類があります。特に人工林は、人による管理が必要になりますが、木材の需要が減っているため、適切な管理がされていないのが現状です。
森林は所有形態によっても分けられ、「国有林」と「民有林」というふたつに分類することができます。2022年3月時点で、日本の森林面積は2,502万ヘクタールで、そのうち31%が国有林、69%が民有林となっています。国有林は主に天然林で、計画的な管理が行われている一方、民有林は人工林が多く、管理状況は所有者によってさまざまです。特に相続で受け継いだ小規模な所有者は、自分の森林の場所すら把握していないという場合もあり、管理が行き届かないという現状があります。
そのため、地元の市町村や森林組合が協力して境界確定や管理の意向を確認する作業をおこなっていますが、これには膨大な費用がかかり、作業も遅れているそう。木材の価格低迷もあり、所有者が積極的に管理する動機が乏しいという背景も関係しているでしょう。
こうした問題を解消するために、森林環境譲与税が導入されました。譲与税は森林のない自治体にも配分され、例えば大都市では林業体験教室や公共施設の内装に木材を利用しています。こうした取り組みで森林や木材の重要性を知る人が増え、木材の需要が高まることが期待されているのです。
また、人口の多い都市で木材が多く使われると、CO2の固定にもつながります。木材利用が進むことで、山間地の森林管理も促進され、より良い状態の森林が増えていくでしょう。
ただ、自分たちが払った税金が、他人が所有する土地の管理に使われることに、疑問を感じる人もいるかもしれません。しかし森林というのは、水や空気の供給源であり、わたちはこれまで、対価を支払わずに恩恵を受けてきました。また、他の産業にも補助金が投入されていることを考えると、森林・林業への支援も、妥当なものだといえるでしょう。
税金の集められ方、使われ方に関心をもってみよう
もちろん、赤ちゃんや寝たきりの老人からバリバリ働いている現役世代まで、担税能力が異なる多様な人がいる中で、それらを一切加味しない、一律1,000円徴収という税のあり方が適切かどうかは、議論の余地があるでしょう。また、既に森林環境税を地方税として徴収している地方自治体もあり、「二重課税なのでは?」という声も挙がっています。こうした疑問は、今後、解決されるべき課題であるといえるでしょう。
譲与税は、都道府県、市町村が使い道を公表することになっています。まずは、地元にきた譲与税がどのように使われているか、調べてみてはどうでしょうか。よりよい集め方や使い方を考えるためには、現状を知ることが大切です。
References:
林野庁:令和5年度 森林・林業白書 全文
全国地球温暖化防止活動推進センター:パリ協定
Text:Itsuki Tanaka