世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、性犯罪被害から身を守るスマートお守り『omamolink』を開発したスタートアップ企業についてご紹介します。
女性の約14人にひとりが被害に遭っている性犯罪
身近なところに潜んでいる性犯罪。内閣府の『男女共同参画白書 令和5年版』によれば、性犯罪の被害経験がある人は、女性で5.3%、男性で0.8%となり、女性でいえば、約14人にひとりが被害に遭っているという、恐るべき数字です。
加害者との関係は、男性被害者の場合「通っていた(いる)学校・大学の関係者」が23.5%と最も多く、女性被害者の場合は「交際相手・元交際相手」が31.2%と最多です。
被害に遭ったときの状況については、女性では「相手から不意を突かれ、突然に襲い掛かられた」という回答が約3割と最も多く、男性では「相手との関係性から拒否できなかった」「驚きや混乱等で体が動かなかった」「相手から脅された」という回答が、それぞれ23.5%と最多となりました。
この調査からもわかるとおり、性犯罪というのは、自分と近い人間関係の中で、突然に起こることが多いのです。
ITの力で性犯罪被害から身を守るスマートお守り『omamolink』
まったく予期していないタイミングで、突如発生することが多い性犯罪から身を守るために、「お守り×IT」という斬新なコンセプトで開発された護身デバイスが、2022年5月に発売された『omamolink(おまもりんく)』です。
手のひらにすっぽりと収まる、まるでお守りのような形をした「omamolink」。カバーを開けると、中にお守りの内符(神様が宿る依り代となるもの)や大切な人の写真などをしまうことができ、日常生活では普通のお守りとして、カバンの中に入れて持ち歩くことができます。
しかし、性犯罪被害に遭いそうになったとき、複数の機能がフル稼働します。omamolinkを入れたカバンを振るだけで異常が起きたことを検知し、あらかじめ登録しておいた保護者や配偶者などの緊急連絡先にSOSを発信。位置情報を知らせて、110番通報や駆けつけにつなげます。
それだけでなく、ブザーが鳴り響いて、周囲にSOSを通知。さらに、録音機能も起動され、時間と位置情報を紐づけた録音データを記録します。性犯罪の立証というのは、双方の間に合意があったかどうかが、裁判などで争点になりやすいもの。万が一、被害に遭ってしまったとき、少しでも証拠を残せるという点は、omamolinkの大きな特徴です。
緊急時にだけ作動するからプライバシーも守れる
また、通常時にはこうした機能が作動しないように設定されているというのも、ユーザーフレンドリーな「omamolink」の特徴。自分の位置情報を常に知らせるような防犯ブザーやスマートフォンアプリなどに抵抗があるという人も、「omamolink」なら、本当に必要なときだけに機能が作動する設計となっているうえ、「録音機能だけを使いたい」といったパーソナライズされた設定も可能です。
性犯罪の被害経験がomamolinkを開発するきっかけに
この「omamolink」を企画し、事業化した、株式会社grigryの石川加奈子さん。石川さん自身も、複数の性犯罪被害を経験してきた「性暴力スライバー(性暴力の被害から生き延び、現在は自分らしく生きられるようになった人のこと)」です。
中学生のとき、同級生の悪ふざけで性犯罪の被害未遂を経験してから、10代、20代と、複数の被害に逢ってきたという石川さん。高校時代には、下校時に痴漢や誘拐未遂に遭遇。司法関係の仕事をめざし、夜遅くまで予備校に通っていた大学生のときには、不審者のつきまといにも遭いました。
そして「omamolink」を考案する最大の要因となったのは、大学時代に遭遇したデートレイプの被害。社会的に信用される企業で働き、役職にもついていた知人男性と食事をした際、「日用品の買い忘れ」を理由にその男性宅に一時的に立ち寄ることになった石川さんは、その場で望まぬ性行為を強要され、被害に遭ってしまったそう。
石川さんはその後、ふとしたときに何度もその経験を思い出しては、「あのとき自分はどうすればよかったのか」と考えてきたといいます。家に入らなければ、コンビニに逃げ込めば……さまざまなシミュレーションをする中でたどり着いたのが、余裕など消え去ってしまう性犯罪被害の現場で、簡単な動作で起動して自分の身を守ることができるアイテムの構想でした。
もしも被害に遭ってしまったときに本当に役に立ち、なおかつ日ごろから持ち歩きたくなるようなデバイスをつくりたい。そうした思いのもと、考えをめぐらせる中で出てきたのが、テクノロジーの力でさまざまな護身機能を附随させた「お守り」というコンセプトだったのです。
この「omamolink」をきっかけに、grigryでの事業を通じて、あらゆる人が幸せに生きられる社会の実現をめざしているという石川さん。その活動は徐々に賛同者が増え、少しずつ広がりを見せています。
Text:Teruko Ichioka