世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、カブトムシに有機廃棄物を食べさせることで、資源を循環させる仕組みをつくろうとしているスタートアップ企業についてご紹介します。
資源循環のカギはカブトムシ? ユニークな発想で地球にやさしい未来をめざす日本企業
鋭く尖った頭角で、どんな昆虫も投げ飛ばしてしまうカブトムシ。その力強さや見た目のカッコよさから、日本では子どもから大人まで、幅広い世代に愛されている昆虫のひとつです。
そんなカブトムシの力を活用して、有機廃棄物の処理と資源の循環に挑むスタートアップ企業があります。それが、秋田県大館市に本社を置く、株式会社TOMUSHI(トムシ)です。
この企業の事業内容は、世界的に見てもとってもユニークなもの。農業や畜産業で発生した有機廃棄物をカブトムシに食べさせ、フンを肥料として活用し、育てたカブトムシの幼虫や成虫をペットとして販売するという事業をおこなっています。それだけでなく、育てた虫を昆虫食や魚の飼料、薬の原材料として活用。カブトムシを起点に、世界のさまざまな資源が循環する世の中をつくろうとしているのです。
有機廃棄物の処理だけでなく、農家の新たな収益源確保にも貢献
さらにTOMUSHIは、ビジネスモデルにもひと工夫を加えています。先述したような事業内容を、すべて自社で完結させるのではなく、カブトムシの飼育ノウハウや虫そのものを農家に提供することで、全国各地の農家で資源を循環させることが可能な仕組みを構築しています。
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農業というのは、実は有機廃棄物を大量に出しやすい産業のひとつ。例えば廃棄野菜や、きのこ農園で出る菌床、また畜産農家から出る家畜排せつ物などが挙げられます。そうした有機廃棄物を農家で処理できるようになれば、環境への負荷を減らし、持続可能な農業の実現につながるでしょう。
そして、各農家が廃棄物を餌に育てたカブトムシを、TOMUSHIがペットや原材料としての販売を支援することで、各農家の新たな収益源のひとつとなります。つまりこれは、資源を循環させながら利益も生み出すという、地球も農家も潤う“一石二鳥”なビジネスモデルなのです。
こうした事業の先進性が評価され、同社は今年、環境省が主催する『令和5年度環境スタートアップ大賞』で「環境スタートアップ事業構想賞」を受賞しました。国からも大きく評価されたいま、TOMUSHIは注目の環境系スタートアップとなっています。
家出や高校中退、ITベンチャー企業の失敗。CEO石田さんの波乱万丈な人生
そんなTOMUSHIの事業は、会社を立ち上げた石田陽佑さんの波乱万丈な人生の中で、偶然に生まれたものでした。
中学2年生のときに家出をした石田さん。それをきっかけに、双子の兄とともに母方の祖父母と養子縁組をし、事業家や政治家を輩出してきた“地域の名士”である石田家の一員に。自分の中に流れる先祖の血を意識したことで、いずれは事業家として活躍した先祖のように、自分で事業を興して身を立てたいと思うようになったといいます。
しかし、青森県の高校に進学しても、中学時代のような反抗期が続いていた石田さん。素行が良くなかったことで、高校を1年で退学になってしまいます。その後、タイル施工会社に就職するも、素材由来のアレルギーを発症して、やむを得ず退職。改めて大学に進学することを決意し、猛勉強の末、青山学院大学に進学しました。
そのまま大学で勉強に専念するはずでしたが、石田さんは早々に休学し、双子の兄やその仲間、自分の友人とともに、IT関連のベンチャー企業を立ち上げます。しかも、資本金として、自分の4年分の学費をすべてつぎ込むことに。しかし、組織構成の問題が引き金となって、この会社は失敗に終わってしまいました。
カブトムシ好きを極めてたどり着いた、TOMUSHIの事業内容
失意の中で地元に戻った石田さん。しばらくは、フリーランスのような働き方で食いつなぎ、まるで学生の夏休みのようなモラトリアム期間を過ごしていたといいます。
そんなある日、石田さんはふと、子どものころから大好きだったカブトムシのことを思い出しました。再びカブトムシに触れたいと、兄とともに山に出かけたものの、何日経っても目当てのオスのカブトムシを捕まえることができませんでした。
そこで、昔から憧れていたヘラクレスオオカブトをオークションサイトで35万円で入札。これが、石田さんの大きな転機のひとつとなりました。
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カブトムシ好きが功を奏し、個体数を増やすことに成功した石田さん兄弟は、カブトムシの販売事業を開始。わずか半年で数百万円の売り上げを立てて、TOMUSHIを創業します。一時は銀行からの融資を元手に、多様な種類のカブトムシを飼育するまでに事業が広がりました。しかし、餌に害虫が発生したことで、資金が一瞬にして水の泡に。もう廃業するしかないと思ったとき、起死回生を目指す唯一の手段として目をつけたのが、有機廃棄物を餌とするカブトムシの飼育方法でした。
そこから、実験と研究を繰り返して出来上がったのが、現在のTOMUSHIの事業です。
TOMUSHIはいま、カブトムシの力で資源の循環を叶えるだけでなく、昆虫を活用した新たな産業の創出で地方を盛り上げようと奮闘しています。紆余曲折がありながらも、最終的には「好きなこと」を突き詰めることで、社会を大きく変えるかもしれない事業を立ち上げた石田さん。その瞳はいまも、少年のような輝きを宿しながら、カブトムシがもつ無限の可能性を見つめ続けています。
Text:Teruko Ichioka