「10代のうちにたくさん映画を見て、インプットしておいたほうがいいよ」なんてよく言われるけど、過去作から新作まで、たくさんある作品の中から、どれを選べばいいかわからない……という10代に向けてスタートしたこのシリーズ。
21.2万人のTwitterフォロワーを持ち、「人生を豊かにする映画」を発信している映画アクティビストのDIZさんに、配信で見られる作品について、ひとかじり語ってもらいます。
今回は「女性のためのエンパワーメント映画」。無意識に刷り込まれた身近な問題から、社会を揺るがすような事件まで、あらゆる差別と闘う女性たちをフォーカスした作品をピックアップしてもらいました。
心を奮い立たせる女性のためのエンパワーメント映画
映画アクティビストのDIZです。 みなさんは、ジェンダーギャップ指数というものをご存知でしょうか? 世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している、その国の男女格差を示す指標です。日本のジェンダーギャップ指数は、2023年の順位で146カ国中125位と、過去最低の数値を記録してしまっています。
世界から大きく遅れた価値観の中では、たとえ性差別を受けたり、差別をおこなう立場にいても、「何が問題なのだろうか……」と感覚が麻痺してしまっていることもあるかもしれません。
そんな価値観を揺さぶってくれるのも、映画の力なのです。女性たちが社会を変えようと奮闘するエンパワーメント映画を観れば、きっと新たな知見を得られることでしょう。
アイデア・オブ・ユー ~大人の愛が叶うまで~
アン・ハサウェイがプロデューサー・主演を務め、5月2日にAmazonプライムで配信されたばかりの本作。40歳のシングルマザーが、24歳の世界的人気のアイドルグループのボーカルと運命的な出会いを果たし、一気に恋が燃え上がるラブストーリーです。
主人公を演じたアン・ハサウェイは、本作のイベントで「年齢や性別、オスカーを受賞したからといって、自分がどの種類の映画を作るべきかについて固定化されたくないし、枠にはまりたくない。ただ楽しみたい」と語っています。
本作の原作者も「年を重ねるにつれて、映像業界でオファーされる役は母親ばかりになる。それはわたしの心を壊しました」と語っており、映画業界で経験した感情が小説に込められているそうです。ただのラブストーリーではなく、映画界でのエイジズムや女性差別に一石を投じる作品になっているのでは、と大きな期待で公開が待ち望まれていました。
「男性が求める女性像」を俳優に演じさせる作品が多い映画業界を変えるため、女性が演じたい役を自らが立ち上げ、実現させる。そうした動きが、近年のハリウッドでは活発になっています。年齢や性別でやりたいことが制限される世界を変えたいので、この作品を応援したいと思っています!
バービー
世界でいちばん有名なファッション・ドール 『バービー』の世界が実写映画化! ファッション映画としても楽しめますが、あらゆる人種、体型のバービーたちが、さまざまな職業に就いて生き生きと人生を謳歌している「バービーランド」から、人間界に行くことで、現実の社会にどれだけの差別が蔓延しているのかを浮き彫りにする、社会派映画でもあるのです。
女性が差別されず、あらゆる制限がない世界で生きてきたバービーによって、男性優位の社会が改めて可視化されていきます。それが、無意識に刷り込まれた人生に苦しみをもたらす呪い(観念)を炙り出していくのです。
「社会の有毒な観念に惑わされないで、ありのままの自分で生きていいんだ」と自分を丸ごと肯定できるメッセージが込められた本作を観れば、近年加速する、ルッキズムなどの偏見があふれるこの世界に振り回されないマインドを得られるはず。
軽い男じゃないのよ
常日ごろから女性を見下して生きてきた独身男性の主人公が、街中で頭を打って気絶。意識が戻ると、女性がすべてを牛耳る社会に飛ばされていた……というフランスのコメディ映画です。
セクハラ迷惑男は、立場が逆転した世界で、自分が女性にしてきた酷いことを自ら経験することになります。この映画を観ると、女性というだけで、日常的にあらゆる被害に遭ってることがよくわかります。
わたしたちは日常的に被害に遭いすぎて、もはや気にすることをやめるレベルに到達してしまっているのかもしれません。街を歩けば性的な目で見られたり、電車に乗れば脱毛や整形することを押し付けられたり、人間ではなく道具のように扱われたり……。
心の奥では嫌だと思ってるけど、無意識に刷り込まれて、麻痺してしまっている感覚に気づかされる、細かな演出が素晴らしい作品。何気なくやり過ごしてしまっていることに「こんなの、おかしいよね」と声をあげる勇気がもらえる作品でした。
ウーマン・トーキング 私たちの選択
自給自足で生活する、キリスト教一派の村で起こった連続レイプ事件。村の男性たちによって「悪魔の仕業」「作り話」と否定されていたのですが、ある日それが実際に起きた犯罪だったことが明らかになります。
タイムリミットは、男性たちが街へと出かけている2日間。緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは、自らの未来を懸けた投票をおこなう……。2000年代中盤から後半にかけて、ボリビアで起きた実際の事件から着想を得たというこの映画は、世界中から高く評価され、第95回アカデミー賞で、脚色賞を受賞しています。
それぞれ違う考え方をもちながら、価値観や知識を共有することによって、道を切り開くことができる対話がもたらす希望が描かれます。最後まで「闘う」「赦す」「去る」のどの選択をするのかわからない物語の構成や、俳優ひとりひとりの演技の引力に強く心を揺さぶられました。
この世界をより良い場所にするために、わたしたちにできる最も重要なことを教えてくれる映画です。
クイーンズ・ギャンビット
チェスのドラマなんて今どき誰が観るんだよ……と言われ続けて30年。ようやくNetflixで映像化された「クイーンズ・ギャンビット」が世界中で大ヒットし、空前絶後のチェスブームを巻き起こすほどの革命を起こしました。
「チェスをする女なんてありえない」と言われた男社会の時代。孤児である主人公が、男たちにバカにされながらも愛想を振りまいたりもせず、ひたすらに頭脳だけでガンガン勝ち進んでいく爽快感がたまりません。
世界的に有名なチェス・チャンピオンをモデルとしてつくられたキャラクターだといわれていますが、製作陣は主人公を女性に変更しています。男性優位の社会の中で、主人公・ベスが世界一に輝くまでのストーリーに、そんな背景を重ねてみると、より胸が熱くなります。
自分で稼いだお金で欲しい服を買い、誰かのためではなく自分のためにファッションを楽しむベスにも注目。ゲームシーンだけでなく、勝てば勝つほど洗練されていくファッションスタイルが、彼女の強さと自由を体現しています。
チェスのルールはわからなくても、女性がひとりで生きていくのが難しい時代における「天才少女のサクセスストーリー」として楽しめる、ネトフリ屈指の傑作です!
製作の背景から映画を選んでみて
映画を観るときは、製作の背景を知ると、より一層作品への理解が深まります。
モデルとなった出来事や製作陣の意図から映画を選ぶというのも、素敵な映画との出会い方。ストーリーや設定だけでなく、込められた想いに、少しでも共感できる映画に出会うきっかけとなれたら嬉しいです!
DIZのプロフィール
映画アクティビスト。ひとりでも多くの人に映画の素晴らしさを伝えるために、フリーランスで活動している。体験型の映画イベントを主催したり、配信サービスのSNS企画・編集やコピーライティング、さまざまな作品の評論を寄稿したりと、枠にとらわれずに活動している。
Twitter:@DIZfilms Instagram:@diz2049
Text:DIZ