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ケニアで“安全ではない中絶”がなくならない理由。その背景には先進国の思惑も…【Steenz Breaking News】

ケニアで“安全ではない中絶”がなくならない理由。その背景には先進国の思惑も…【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今回は、アフリカにおける人工妊娠中絶をとりまく現状と、アフリカの女性たちが直面している問題について、ご紹介します。

アフリカにおける人工妊娠中絶をめぐる問題

人工妊娠中絶については、いまもさまざまな議論が世界各国でおこなわれています。2023年時点で、人工妊娠中絶が権利として認められているのは77 か国あり、また12 か国では、社会・経済的な理由によって、要請に応じて中絶が承認されています。しかしこの数字には注意が必要で、米国などの一部の連邦州では、行政区域ごとに法律が異なるといったケースもあります。

しかし現実として、リプロダクティブ・ライツ・センターによると、世界中の女性の 40% は、中絶が制限されている国に住んでいるそうです。特にアフリカでは、ほとんどの国で、中絶が違法だったり、または厳しく制限されたりしています。

今回は、女性の要請による中絶が違法とされているケニアで、危険を冒してまで中絶がおこなわれている現実について、お伝えします。

中絶法の歴史

ケニアをはじめ、アフリカの多くの国で「中絶が違法」とされたのは、植民地時代に広まった「中絶法」からはじまります。土着の宗教が信仰されていた国々に、キリスト教が布教したことで「中絶してはいけない」と厳しく取り締まりがおこなわれ、中絶した女性と支援した医師には、厳しい刑罰が課されるようになりました。

後にヨーロッパやアジアの多くの国では、生殖に関する権利を意味する「リプロダクティブ ・ライツ」という考えが広まり、中絶の権利が保障されるようになりましたが、いまも多くの保守的なクリスチャンが多いケニアでは、中絶は基本的に違法とされ、そのために多くの女性の命が危険にさらされています。この問題はたびたび議論されていて、2010年憲法では、妊娠が強姦や近親相姦によるものである場合にのみ、中絶を認められるようになりました。

違法な中絶手術がおこなわれる理由

とはいえ、妊娠後にHIV陽性であることが発覚したり、経済的に子どもを養うことができないことが明らかであったりしても、中絶は認められません。そのため、違法な中絶が国内各地でおこなわれ、1日あたり約7人の女性が、安全でない中絶が原因で亡くなっているそうです。

中には、公的でない診療所で、編み針を使用するなどの方法で、2,500円ほどで処置をしたり、あるいは漂白剤を飲む、伝統的なハーブを摂取するといった、科学的・医療的根拠の伴わない危険な中絶がおこなわれています。しかし、合法的に認められない状況や、厳しい経済環境のために、こうした危険を含んでいても、中絶を希望する人は後を絶ちません。

WHO(世界保健機関)の発表によると、毎年、安全でない中絶の影響で、39,000人の女性と女児が死亡していると推定されています。2017年のケニアの妊産婦死亡率は、出生10万人あたり346人となっていて、これは日本の70倍にものぼります。

中絶反対の強固な声

これだけ女性の命が危険に晒されていても、依然として中絶は違法であり、「リプロダクティブ ・ライツ」とは程遠い状況です。これには、長年介入してきた国際的な反中絶団体の影響があると考えられています。特にケニアには、中絶が長年議論されている米国の中絶反対ロビーの支援を受けている教会も多くあります。経済的な理由により教育を修了できない人にとって、教会とは「唯一の学びの場」であり、その影響力が大きいことは明らかです。また、ケニアの政界には汚職が蔓延しているといわれており、政治の場面でも、そうした中絶反対ロビーの影響があると考えられています。

さまざまな意見はありますが、女性の生命や権利を守るため、「中絶も基本的な人権である」という考えが強まってきている現代社会。しかしケニアをはじめ、アフリカの多くの国では、「命を守るための法整備」が進んでいません。中絶が違法であっても、望まない妊娠や、中絶を選らばなければならない背景が改善されるわけではなく、そこに残るのは、生命や生活に犠牲を払う女性たちです。

ケニアを含め、アフリカの国々は、こうした現実を受け止め、議論を進めるべきではないでしょうか。

References:
FOCUS2030「WHERE DO ABORTION RIGHTS STAND IN THE WORLD IN 2024?」
WHO「Trends in maternal mortality 2000 to 2017: estimates by WHO, UNICEF, UNFPA, World Bank Group and the United Nations Population Division: executive summary」
wisevoter「Countries Where Abortion Is Illegal」

TextHao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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