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持続可能な漁業をめざして。岡山県発の水産資源を必要な量だけ獲る「完全受注漁」【Steenz Breaking News】

持続可能な漁業をめざして。岡山県発の水産資源を必要な量だけ獲る「完全受注漁」【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、持続可能な漁業実現への貢献が期待される「受注漁」についてご紹介します。

漁業の現場で発生しているさまざまな課題

島国である日本では、昔から漁業が盛んでしたが、近年、さまざまなな課題が発生しています。そのうちのひとつが、漁業の就業者数の減少です。

水産庁が作成した、2003年〜2020年までの漁業就業者数の推移を表すグラフを見ると、減少傾向にあることがわかります。さらに、これまでは年に2,000人ほどいた新規就業者も、2019年は1,729人、2020年は1,707人と、2,000人を大きく下回っています。減少の理由としては、収入が安定しない点や長時間労働などが挙げられます。

このまま就業者が減り続けると、漁業就業者の高齢化や後継者不足なども深刻化していくでしょう。またそれ以外にも、漁業の現場では、乱獲による水産資源の枯渇などといった、漁業をとりまく環境変化の課題も発生しています。

このように、多くの問題を抱えている漁業ですが、そんな現状を変え、未来へとつなげていくために、岡山県にある企業のユニークな取り組みが話題になっています。

岡山県玉野市の「邦美丸」が始めた「完全受注漁」

魚や海苔の販売をおこなっている「邦美丸(くにみまる)」は、「完全受注漁」という非常にめずらしいシステムを導入している水産企業です。受注漁とは、オンラインストアやインスタグラムなどを通して、事前に注文があった数のみ水産物を獲って販売する方法。多めに獲ってしまった場合は、その都度リリースします。2022年の4月から9月にかけて試験運用を行い、2023年4月から正式に始動しました。

必要なぶんだけ獲る受注漁のシステムは、「獲れれば獲れるほどいい」とされてきた漁業の慣習にとっては、かなり画期的なもの。しかし「もしも獲れなかったときは、どうするの?」と疑問を抱いた人もいるはず。自然を相手にする漁業は、必ずしも水産物が欲しい量だけ獲れるとは限りません。そのため、予想していた数が獲れなかった際は、仲間の漁師から足りない分の水産物を買い取っているのだそう。

邦美丸としては必要な量の水産物が手に入り、さらに仲間の収益にもつながるため、お互いにとっていい構造ですよね。

受注漁を導入したことで起きた変化

この「完全受注漁」システムによって、さまざまな良い変化が起きているそうです。

 

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例えば、以前は14時間もあった労働時間が、受注漁を導入してから、約6時間に短縮。加えて、直接販売するため、市場に出していたときよりも、収益が2倍になったそうです。これは、新規就業者減少の理由のひとつであり、漁業が抱える大きな問題であった、長時間労働と不安定な収入という課題の解決につながっています。

また、必要な量しか獲らないため、売れ残ってしまったり、市場に出せないかったりで、せっかく獲れた水産物が廃棄される心配もありません。食品ロスを防ぎ、水産資源の保全に貢献できます。また、燃料の消費や漁具の消耗も抑えられるため、漁業のサステナビリティの観点では、メリットがたくさんあるでしょう。

受注業の今後に大きな期待

現在、邦美丸では、この「受注漁」を知ってもらうために、『漁見学ツアー 瀬戸内の恵みを堪能 ペア チケット』を、岡山県玉野市のふるさと納税の返礼品として登録しています。この取り組みによって、多くの人が「受注漁」の存在を知って需要がさらに生まれ、取り入れる漁業従事者が増えていけば、未来の漁業のひとつの可能性になるかもしれませんね。

Reference:
水産業の就業者をめぐる動向|水産庁

Text:Yuki Tsuruda

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Yuki Tsuruda

ライター

鹿児島県在住のフリーライター。販売職や事務職を経験後、2020年5月からフリーランスのライターへ。執筆ジャンルは、ものづくりやSDGsなど。

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