「気になる10代名鑑」の598人目は、樋熊あかり(19)さん。藝大に通いながら、社会で生きていて感じる“痛み”を美しく表現し、「しんどい思いをしている人たちに届けたい」という思いで作品を発信しています。つい先日、20歳の誕生日を迎えたばかりだという樋熊さんに、創作を始めたきっかけや今後の目標についてなど、じっくり語ってもらいました。
樋熊あかりの活動を知る5つの質問
Q1. いま、力を入れている活動は?
「去年の4月に藝大に入学して、油絵を専攻しています。絵を描く授業のほかに、ストーリーを紡ぐドラマツルギーのようなクリエイティブな授業もあって、楽しく過ごしています。大学での制作以外にも、人間が生きている中で感じている『痛み』をモチーフにして、それを油絵で平面作品に落とし込めて制作しています。12月には展示会にも挑戦もしました。
木偶人形に釘を打ちつけたモチーフを絵画にしているのですが、特に金属や木材の質感の違いを、光の表現で見せることにこだわっています」
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Q2. 活動を始めたきっかけはなんですか?
「赤ん坊のころから、ずっとペンを握っていたそうです。母親も、裏紙やペンをいっぱい与えてくれて、気づいたらいつも棒人間の絵を描いて遊んでいました。あとは父親がアニメが好きで、ずっとテレビから流れてくる『二次元の世界』が身近だったのも大きいかもしれないですね。小学校のころには、友達を笑わせたいと思ってマンガを描いたりも。食べたり、寝たりっていう、日常生活の一部に、絵を描くことがある……そんな子どもでした。
本格的に油絵に打ち込もうと思ったのは、高校生のとき。勉強は苦手だったので、美術系の高校に入ったのですが、高校で初めて油絵に触れたとき、先生に面白い絵だねって褒められて。『こりゃいいや』と思って、いまでも続けてます。藝大に通う先輩の話や、先輩が巨大な絵を描いている姿にも憧れて、『ずっと好きな絵を描いてられるのって最高じゃん!』と思って、受験を決めました」
Q3. 創作活動のテーマは?
「現代社会において、誰かを見たり、誰かに見られたりしたときに生じる『痛み』です。
わたし自身、高校生ぐらいまでは、自分の好きな服装や髪型で、自由奔放に生きていたんです。でも大学生になって、『まわりから変に思われているんじゃないか?』って、人の視線が刺さってくるみたいで痛いなと思うようになったんです。
逆に、他者の容姿や行動を勝手にジャッジしているという自分がいることにも気づき、自分も誰かに痛みを与えているんじゃないかと思うようにもなって……。そんな『視線に伴う痛み』の中で生きるわたしたちを、美しく表現して、同じように感じてしんどい人たちに届けたいと思って、表現しています」
藝祭にて展示していた作品です。
想像以上にたくさんの方に見ていただけて幸いです。 pic.twitter.com/5g7ZUIkbHQ— ひくまあかり (@AKUMA11029H) September 5, 2023
Q4. これまでの活動の中で、印象的だった出来事は?
「精神医学に詳しい医師の方と出会ったことです。藝祭で展示した作品を見てくださったことをきっかけに、個人的に展示会にも来てくださって。心が感じる『痛み』についてたくさん知っていて、自分の患者にもそのような痛みを心に感じる人がいるというお話や、自分がコンプレックスだと感じているところに痛みを感じやすいことがあるというお話など、たくさんの『痛みトーク』ができました。
痛みを悲観的に捉えていないことが新鮮だと言っていただいたのも、嬉しかったですね。自分のちっちゃい体だけで感じていた感覚が、たくさんの人の痛みを診ている人から肯定されて、『自分だけじゃないんだ』と思えたのも大きな発見でした」
Q5. 今後の展望は?
「これからも、アーティストとして活動していきたいです。展示やSNSでの発信にもたくさん挑戦して、多くの人に作品を届けたい。同じ痛みをもつ人に衝撃を与えつつ、毒か薬になれたらいいなと思っています。
考え込んでしまって作品がぜんぜん描けない時期もあったりするので、誰かに届けたいという気持ちだけは忘れず、とにかく描き続ける!というのがいまの目標です」
樋熊あかりのプロフィール
年齢:19歳
出身:愛知県
所属:東京藝術大学
趣味:ラジオ、ホラー漫画、おしゃれ
特技:キャラクターデザイン
大切にしている言葉:何も失わずに手に入れたものなどくれてやる
樋熊あかりのSNS
「痛みとの対話」
910×727 油彩 pic.twitter.com/QTd1N9WRGh— ひくまあかり (@AKUMA11029H) September 5, 2023
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Photo:Eri Miura
Text:Chihiro Bandome