世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、気候変動によって生活を変えざるをえなくなった、アフリカの牧畜民の現状をお伝えします。
水を求めて争う遊牧民と農民。
アフリカの各地に存在している牧畜民。「牧畜」とは、家畜を養育してその頭数を増やして、そこから採れる乳や肉、加工保存食、皮革や毛などを主たる生活の糧とする生業のこと。
彼らの多くは住んでいる土地や気候に合わせて移動する「遊牧民族」として、伝統的な牧畜を受け継いできました。乾季には、牧畜民の男性が家畜に必要な水を求めて移動します。しかし、気候変動による干ばつの影響で、深刻な水不足が発生しており、農業に水を必要としている定住農民との間で衝突が生じています。
西アフリカのベナンでは、近年、急激に干ばつが悪化。水源に近い農家の畑や私有地に、家畜が侵入するトラブルが多発しています。アフリカの広大な土地では、囲いが設けられることはないため、遊牧民族が数十頭から数百匹の家畜を連れて放牧する中で、その家畜の一部が、畑や私有地に入ってしまうことは容易に考えられます。
とはいえ、農業が唯一の収入源である人にとって、水は貴重な資源であり、遊牧民族によってもたらさえる損失は深刻なものです。
その一方で、遊牧民たちも、家畜が私有地に近づかないように日常的に武器で脅されたり、侵入してしまった際に多額の賠償金を請求されたりと、その衝突は悪化するばかりです。
マサイ族の生活にも変化が
以前、筆者は、放牧を主な現金収入としているタンザニアのマサイ族の男性に話を聞きました。彼は「気候変動は仕事やコミュニティに大きな影響を与えている」と語ってくれました。マサイ族にとって、牛やヤギといった家畜は財産そのものであり、豊かさの象徴でした。しかし、雨が降らない日が続き、干ばつが起こることで、家畜の食べる草がなくなって痩せ細ってしまい、利益にならなかったり、多くの家畜が死んでしまったりするのです。
このような状況が続くことで、マサイ族の中には、職業を変えざるを得ない人も出てきているそうです。その多くは都市に出稼ぎに行ったり、農業に転換したりしているそうです。彼は「気候変動の原因のひとつとして、先進国の大企業によるビジネスが挙げられる。だが、その気候変動の影響を受けるのは彼らではなく、自然に近い暮らしをしているわたしたちなのだ」と語っていました。
生死を分ける水不足の中、大量消費社会に生きるわたしたち
わたしたち人間は毎日、何らかの形で水を必要としており、水は生命に等しい価値があるといっても過言ではありません。特にアフリカには、こうした牧畜民や農民が多く、水不足は彼らにとって死活問題です。実際に、世界の約20億人が安全な水へのアクセスが困難であるとされ、毎年約357万もの人が、水に関連した病気で死亡しています。
こうした水不足が、地球温暖化によってさらに深刻になっているのです。わたしたち先進国に暮らす人間が、炭素にエネルギーを放出しながら産業活動や経済活動を行い、温室効果ガスを出し続けます、しかし、その影響に頭を悩ませるのは、産業からかけ離れたところに住んでいる、国際社会への訴えが届きづらい人々です。地球に住むすべての人に、平等に与えられるはずの地球の資源である水が、格差を生んでいるのです。
こうしたアフリカでの状況をふまえて、わたしたちのいまの生活が、誰の、どのような犠牲のうえに成り立っているか、一度じっくり考えてみることが必要なのではないでしょうか。
Reference:
UNESCO「The United Nations World Water Development Report 2023: partnerships and cooperation for water」
The World Counts「Dirty water causes the death of a human being every 10 seconds」
Text:Hao Kanayama