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ベネチアが世界遺産から抹消されるかも。危機遺産リストに追加される可能性が浮上【Steenz Breaking News】

ベネチアが世界遺産から抹消されるかも。危機遺産リストに追加される可能性が浮上【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、世界遺産の普遍的価値を守る「危機遺産リスト」についてご紹介します。

ベネチアが危機遺産リストに追加されるかも?

世界遺産委員会の事務局として機能する組織「ユネスコ世界遺産センター」は、7月31日に、イタリアの湾港都市「ベネチア」を「危機遺産リスト」に追加するように勧告しました。

イタリア北部に位置し、別名「水の都」や「潟湖(せきこ)の都市」と呼ばれるベネチアは、世界的な観光都市として知られており、1987年には、都市と潟が世界文化遺産に登録されています。

そんな世界的な観光都市であるベネチアは、以前から、観光公害(オーバーツーリズム)と気候変動の影響に悩まされていました。ユネスコからも以前より、改善のために最大限の献身的な努力をするように求められていましたが、改善面において目立った進歩がなかったため、今回の危機遺産リストの候補として名前が挙がる事態へとつながったのです。正式な追加は、9月10日から25日にかけて、サウジアラビアのリヤドにで開催される、第45回世界遺産委員会で審議されるそうです。

そもそも、世界各国の歴史的または文化的な遺産に対して警鐘を鳴らす「危機遺産リスト」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

普遍的な価値を損なう恐れのある世界遺産が対象の「危機遺産リスト」

「危機遺産リスト」とは、武力紛争や自然災害、都市または観光開発などによって、普遍的価値を顕著に損なう恐れのある世界遺産が登録されたリストのこと。危機遺産リストに登録されると、世界各国に協力を仰ぎ、世界遺産の保護を目的に設立された信託基金「世界遺産基金」に、財政的な支援を申請することが可能になります。

しかし、この支援は、登録された国がリストから削除されるために努力することが前提。もしも解決に向けて消極的なままで、危機的な状態が長期化すると、世界遺産の登録リストから抹消されてしまうのです。実際に、努力や大きな改善が見られず抹消された世界遺産もありますが、一方で、きちんと現状を受け止めて努力し、危機遺産リスト外になった世界遺産も存在します。

例えば、カンボジアにあるクメール王朝の遺跡「アンコール」。アンコール・ワットやアンコール・トムでよく知られていますよね。ここも、内戦による破壊や剥奪により、1992年に世界遺産と危機遺産リストに登録されました。しかし、フランスや日本の修復支援もあり、2004年には危機遺産リストから削除され、世界遺産として名を連ねています。

さまざまな理由から抹消された世界遺産

「世界遺産条約履行のための作業指針」によると、世界遺産から抹消される理由は、登録後に状態が悪化するケースと、保存状態が脅かされたまま登録され、その後も改善が見られなかったため抹消されるケースがあります。

例えば、ドイツ東部にある「ドレスデン・エルベ渓谷」は、ヴァルドシュロス橋建設事業による景観破壊を理由に、2009年6月25日に世界遺産リストから抹消されました。これは、先進国で初めてのケースになります。

また、イギリスの「リヴァプール海商都市」は、住宅や高層ビルの建設を含む、大規模な開発計画「リヴァプール・ウォーターズ事業」やサッカースタジアムの建設などを進めたため、世界遺産委員会は、顕著で普遍的な価値(OUV)を保護できないと判断。その後、2021年に世界遺産リストから抹消されています。

中には、危機遺産リストに登録されないまま、突然、抹消された世界遺産も。中東の国「オマーン」には、国獣にも指定されている動物「アラビアオリックス」の自然保護区があり、1994年に世界遺産に登録されました。しかし、石油やガス開発を促進するため、世界遺産リストからの削除をオマーン政府が自ら要請しました。世界遺産委員会がこれを承認し、リストから削除。世界遺産のリストから、初めて抹消されるケースとなりました。

危機遺産リストに登録されている55カ所の世界遺産

2023年9月10日時点で、危機遺産リストに登録されている世界遺産は55か所。日本の世界遺産は含まれていませんが、まったく関係のない問題ではありません。 例えば、2013年に世界文化遺産に登録された富士山などは、ごみ放置などの環境問題やオーバーツーリズムの問題など、さまざまな問題に直面しています。

価値ある遺産を良い状態で、次世代に残すためにも、まずは、どのような世界遺産が、どのような理由で危機遺産に登録されたのか興味を持つことが大切です。リスト入りの可能性があるベネチアの今後や、現在「危機遺産リスト」に登録されている55か所がどのような対策をとっていくのかに、注目していきたいですね。

Text:Yuki Tsuruda

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Yuki Tsuruda

ライター

鹿児島県在住のフリーライター。販売職や事務職を経験後、2020年5月からフリーランスのライターへ。執筆ジャンルは、ものづくりやSDGsなど。

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