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日本人学生に人気のボランティア・ツーリズム。そこに潜む懸念やリスク【Steenz Breaking News】

日本人学生に人気のボランティア・ツーリズム。そこに潜む懸念やリスク【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、学生を中心に関心を集めている「ボランティア・ツーリズム」の注意点について、カンボジアの孤児院を例に、ご紹介します。

ボランティア・ツーリズムとは

ボランティア活動をしながら、観光を楽しめるボランティア・ツーリズム。旅先の地域の課題解決のために貢献できることもあって、ただの「観光」の枠を超えて、旅行者としても充足感を感じることができたり、通常の旅行ではできない体験ができたりするのが特徴です。学生を中心に、関心をもっている人も多いのではないでしょうか。

しかし一方で、ボランティア・ツーリズムの現場では、さまざまな問題やリスクへの懸念が唱えられています。今回は、数多く実施されている孤児院を訪れるボランティアツアーについて、どんな問題があるのか、国連児童基金(ユニセフ)・カンボジアの担当者に話を聞いてみました。

先進国の若者に人気のスタディツアーだが…

近年は目覚ましい経済成長を遂げているカンボジア。その発展の一方で、都市と地方の経済格差が拡大し、いまだ親のいない貧しい子どもたちが多くいるという現状にあります。そんな子どもたちが集まった孤児院を訪れるボランティアツアーは、スタディツアーなどと呼ばれています。ボランティア・ツーリズムの一環として、欧米や日本といった先進国の若者を中心に、これまで人気を集めてきました。

このツアーでは主に、孤児院の子どもたちに外国語を教えたり、一緒にスポーツやゲームをしたりします。専門的な資格や経験がなくても参加できるため、誰でも気軽に、その国の子どもたちと触れ合うことができるという特徴があります。

孤児院関係者が逮捕された過去も

一方で、こうしたボランティア・ツーリズムについて、近年はさまざまなリスクを指摘する声があがっています。ユニセフ・カンボジア代表のウィル・パークス氏は取材に対し、孤児院でのスタディツアーの懸念について、「孤児院を訪れるボランティアの素性の確認が難しく、小児性愛者が簡単に子どもたちに接触できてしまうといった問題があります」と指摘しています。

法整備が脆弱なカンボジアでは、児童買春を目的に訪れる外国人も多く、以前より国際的に問題視されてきました。これまでカンボジアで児童への性的虐待で逮捕された外国人の中には、孤児院の関係者であった事例も報告されているほか、孤児院が児童の売春を斡旋し、摘発されたというケースもあります。

またパークス氏は他にも「親切にしてくれるボランティアに心を開いたとしても、短い期間でいなくなってしまうので、孤児院の子どもたちは余計なストレスを抱えることになります」とも指摘します。確かに、精神的にも未熟であり、環境的にも厳しい子どもたちにとって、入れ替わり立ち替わりボランティアがやって来る環境では、なかなか情緒が安定せず、精神面への影響も懸念されるのは想像できます。

支援団体の見極めが重要

それでは、こうした孤児の問題に関心をもち、何かアクションをしたいと思ったとき、どういったかたちで子どもたちを支援するのが適切なのでしょうか。

パークス氏は、「もしカンボジアで社会貢献がしたいのであれば、地域に根差した適切な団体を支援することを勧めます」といいます。「多くの国では、厳格な児童保護制度があり、訓練を受けた専門家だけが、子どもたちと接することを許されています。カンボジアもそうあるべきでしょう」と述べ、基本的には教育の専門家が子どもと接触するべきだとしています。

支援する孤児院や団体を選ぶ際には、その運営体制も基準のひとつとなりそうです。

世界69カ国で孤児を支援する『SOS子供の村インターナショナル』のカンボジア支部では、寄付者や訪問者を子どもと接触させる前に、子どものプライバシーの保護や接触の仕方について、誓約書への同意を求めます。同意書には、「直接プレゼントを渡さない」「ふたりきりで写真を撮らない」「ハグやキスなど身体的な接触をしない」「プライバシーを尊重する」といった複数の項目が設けられており、孤児院のスタッフの監視の下、子どもたちの日々の学習や生活に支障がでない範囲での接触を許可しています。

実行する前にしっかり調べることが重要

他にも、カンボジアの孤児院では、売春斡旋のほか、支援金を着服するなど詐欺のリスクも懸念されています。「孤児院ビジネス」などと呼ばれる、悪質なツアーが存在するのも事実です。海外でボランティアや寄付をしたい場合は、孤児院や支援団体の情報をよくウェブサイトで調べ、疑問点があればきちんと問い合わせるなどし、適切な団体であるかどうかを見極めることが求められています。

Text:Risako Hata

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Risako Hata

ライター

タイ在住のジャーナリスト。共同通信系メディアにて5年のタイ駐在を経て独立。現在は、アジアの経済や人道問題、SDGsに関連する記事を執筆。

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