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中東での労働を求めて「現代の奴隷」に行き着くアフリカの若者たち【Steenz Breaking News】

中東での労働を求めて「現代の奴隷」に行き着くアフリカの若者たち【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、アフリカと中東の間にある、劣悪な労働環境についてご紹介します。

母国で仕事がないとき、あなたならどうする

ユニセフの報告書によると、アフリカ大陸のほぼ半数の人口は18歳未満だと示されており、失業率の高さが懸念されています。UNDPの報告によると、若者の就業率は、サハラ以南のアフリカ地域では45.8%。アフリカにおいて雇用は深刻な課題であり、たとえ学位や資格があっても職に就けない人が多いといのが現実です。

そのため、生まれ育った母国を離れて、少しでも給料の高い職を求めて、中東諸国に渡る若者が増加しています。実際、中東諸国では、アフリカや東南アジアなどから、推定約3,500万人の労働者が働いているといわれています。国際労働機関(以下ILO)によると、中東は全労働人口に占める移民労働者の割合が世界の中でも最も高く、UAEやカタールにおける全労働人口の9割近くが移民です。そんな中東諸国では、石油を通じた大きな経済成長により国民が裕福になったことで、家事労働者、警備員、運転手、清掃員といったサービスへの需要が高まっています。

待っているのは劣悪な労働環境

そうした背景もあり、アフリカのテレビでは、中東への人材紹介会社の広告をよく目にします。そうした広告を見て、「中東に行けば良い生活が待っている」と夢を抱く若者が増えているのです。しかし、その期待とは裏腹に、「現代の奴隷」といえるような、劣悪な労働環境が懸念されているという問題があります。

移民労働者の多くは、ブローカーと言われる斡旋業者を通じて職に就きますが、雇用が始まると、携帯電話やパスポートを没収され、自由を奪われたうえ、暴力や過労、あるいは性的虐待やレイプをされたりといった深刻な人権侵害が、国際機関に多く報告されています。特に女性は、ほとんどが家事労働に従事しますが、外からは見えないため、助けを求めて逃げ出したり、もしくは重症を負って病院に搬送されたりしてから、問題が判明することもあるそうです。

人身売買も増加

また、こうした雇用の際には、正式な雇用契約ではなく、実際には人身売買のような形式がとられることも問題です。未登録の斡旋業者による人身売買や強制労働の問題は増えており、ILOによると、中東において60万人以上が人身売買の犠牲になっているとされています。

違法な斡旋業者は、海外での労働を希望する人に対し、高額の手数料を請求し、偽造書類で密入国させます。彼らの手によって密入国した移民達は、違法移民として、労働法の適用外になってしまい、ひどいときには無給で強制労働させられるのです。

こうした人身売買の増加の背景には、ソーシャルメディアの普及があるといわれています。Facebook、InstagramなどのSNSのマーケットプレイスや、日用品を販売するショッピングサイト上で、メイドが国籍のハッシュタグとともに取引および販売されているという事例も報告されています。

こういった状況を可能にしているのが、アラブ諸国に存在している労働契約制度の「カファラ」。雇用主が保証人となって、外国人労働者に職を提供し、ビザを発給するというものです。この制度では、政府が雇用主の個人や労働機関に対して、移民労働者の管理を委託しているため、制度のもとで契約の置き換えが容易に行われたり、同意なしに他の雇用主へ売却されたりするのです。国際的な批判を受け、この制度を廃止をした国もありますが、悲惨な現状は変わりません。

自国の人間の人権侵害を黙認する政府

深刻な人権侵害が指摘されていてもなお、こうした「現代の奴隷」の被害者が増え続けるのは、政府や斡旋会社、労働機関が利益を得ているからです。例えば、2016年から2022年までの間に、22万人以上の労働者が中東に渡ったウガンダでは、政府に承認された斡旋業者は、政府へ370万円を支払い、またウガンダ人労働者が中東で雇用先を得た場合は、雇用ごとに定額料金を支払うなど、政府もこうした人権侵害によって、利益を得ているのです。

それに加えて、2020年度のウガンダ人労働者からの母国への送金は約9億ドルありますが、こうした送金も、ウガンダの課税の対象となるのです。

また、斡旋会社や労働機関も、労働者から利益を得ています。メイドの場合は、手数料のほか、メイド登録料や健康診断、トレーニングの費用を斡旋会社へ支払う必要があります。実際、ほとんどの業者は、こうした手数料で多くの収入を得ていると言われています。一方、積み上がる諸費用や手数料で負債を抱えた労働者は、どんなに過酷な状況でも逃げ場がないのです。

命を断つ外国人労働者も…

国際的な人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチによると、レバノンでは週に2回の割合で、家事労働者が死亡しています。そのうちの67%が、自殺や建物からの転倒が原因。また、劣悪な労働環境や虐待によるトラウマによって、仕事が続けられなくなり、母国へ強制送還される人も多くいます。身体的な怪我や精神障害によって、雇用期間を終えていないことから、無収入で帰国させられるケースもあります。

国際法が保障している権利を侵害されているのにも関わらず、十分な措置をとってこなかったアフリカ諸国や中東諸国の政府には、責任があるといえるでしょう。移民を受け入れている政府は、労働法を根本的に見直し、移住労働者の権利を保障して、違法な雇用主を処罰する義務があるはずです。なぜなら、このような状況下でさえ、「少しでも良い生活を」と、中東に渡る若者は増え続けているのですから。

Refarrence:
ユニセフ報告書『2030年世代アフリカ 2.0』発表
MONITOR「Who is benefiting from maids export?」
レバノン:移民の家庭内労働者たちが毎週死亡

Text:Hao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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