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日本とアメリカ、どっち?カリフォルニアで躍動する松本杏奈の現在地と日本の10代に伝えたいこと

日本とアメリカ、どっち?カリフォルニアで躍動する松本杏奈の現在地と日本の10代に伝えたいこと

徳島県から現役で米国・スタンフォード大学に進学した松本杏奈さんのインタビュー後編。前回は、20歳になったばかりのこのタイミングで、10代を爆速で振り返りながら、楽しかった思い出からつらかった出来事まで、赤裸々に語ってくれました。今回は、松本さんが普段過ごしているアメリカでのリアルな生活や、これからの野望について聞いてみました。

目の前にいる少年が次のスティーブ・ジョブズになっているかも…そんな環境で感じたこと

ーアメリカでの生活もいよいよ3年目に入りますよね。実際に暮らしてみて、どうですか?

「楽しいですよ、すごく。とても生きやすいです。アメリカの、特にわたしが住んでいるカリフォルニアって、若者に対して優しいというか、みんな腰が低いんですよ」

ーと、いうと?

「スタンフォードって、スタートアップやテック系の企業が集まるシリコンバレーのど真ん中にあるんです。そこにいる人たちって、本当に面白い人が多いし、しかも、誰が次のスティーブ・ジョブズになってもおかしくない。いま、目の前にいる少年が明日、テック業界の大スターになっているかもしれない。

これはスタンフォードにいても感じることで、グループワークをしていると、隣に『世界を変えた人物10選』みたいなのに選ばれている子が普通にいるんですよ。やっぱり同じワークをしていても解像度が違っていて、『あ、こういう人が世界変えるんだな』ってまざまざと感じます。

そういう、誰がいつ、何者に化けるかわからないブラックボックス感があるからこそ、失礼な対応は一切されたことがないんですよ。なんなら、よくホームパーティーとして、自宅に招いてくれます。OGの女性起業家とかにも混じらせてもらったり。料理をごちそうしてもらうこともあって、そこで思わぬアメリカンな日本食を食べられたり(笑)。将来的には、そういう関係性が、出資につながっていくこともあるみたいです」

ーあまり日本では考えられないですね。

「そう。だからこのあたりは正直、日本に帰ってきたら違和感を持つところだったりします。日本って年功序列が重んじられているから、『まだまだ若いんだから、わからないでしょ』みたいな扱いをされることが多いじゃないですか。

それに、こんなピンクの頭をしているので、日本では異物を見るような目で見られます(笑)。でもスタンフォードには、わたしと同じピンク色の髪をしている子が何人もいて、あとは黄色が自分の色だからって、全身黄色の服を着ている友達もいる。みんな自由なんですよ」

ー普段はどんな生活を送っているんですか?

「とにかく人に会っています。毎週末、キャンパスの外に出て、いろんな人に会うようにしているんです。起業家のホームパーティーに行くことも多いです。

そのぶん、平日はキャンパスを思いっきり使い倒しています。午前から授業に行って、学食でランチを食べて。スタンフォードの学食って、めっちゃメニューのバリエーションがあって、しかもわたしは、柳井正財団さんから学費や寮費、食費等を全額給付していただいているので、何も心配することなく、お腹いっぱいごはんを食べて。それでまた勉強して、授業が終わったら寮に帰って、友達とおしゃべりして。編み物したり、夜中に突然ケーキとか焼いてみたり。キッチンに行けば誰かしらいるので、みんなで遊んで、眠くなったら寝て。そんな生活です」

ー充実したキャンパスライフですね。

「楽しいですよ。でも1年生のときと2年生のときのアメリカって、ちょっと違うところもあって。入学したてのころは、やっぱり観光客気分もあって、日本の物差しでものを見ていたんですよね。だからカルチャーショックとかも全然あったし、不便なことも多かったです。

でも、いまはアメリカでの生活の基礎がだんだんわかって、どこに行けば何ができるとか、どんな人に会えるとか、わかってきました。いまはアメリカの物差しでアメリカを見られている気がします」

あんきち直伝!関係性をキープし続ける秘訣は「いい感じの図々しさ」

ーたくさんの人と出会っていると思いますが、出会った関係性をキープするための秘訣はありますか?

「とにかく連絡をコンスタントに取ること。それは、ずっと気をつけています。でもこれは、アメリカに来てから始めたことじゃなくて、徳島にいたときから心がけていることです。

名刺をもらったら、帰宅した後に片っ端からお礼メールを入れて、なんなら『お会いしませんか? スタンフォードを案内します!』とか連絡するんです。相手がどんだけすごい人でも、『遊びにおいで』って言われたらマジで行っちゃう。『いつがいいですか?』ってすぐ連絡する。そういう、いい感じの図々しさがあると思います」

ー確かに、日本の物差しだと、ちょっと図々しいですね(笑)。

「だって、そうしないと、忘れられちゃうじゃないですか、人間ってすぐ忘れる生き物だから。存在を覚えられていて、会話のトピックがホットなうちに、2回目に会う約束を取るんです」

ーその行動力はどこから来るんですか?

「わたし、人生の元を取りたくて。座右の銘は強行突破だし。どうせ数十年ぐらいしか生きられないんだから、その間に、出会える面白い人にはみんな会っておきたいし、面白いと思わなかった人でも、その人の人生やドラマがあるわけで、それを知りたいなって素直に思うんです。

まだまだこの先、何をしていくかわかってない状態だからこそ、いろんな人の人生に触れて、いろんな歩み方を学んでおきたい。そうしたら、きっともっといっぱいできることが増えるんじゃないかなと思っています。

だから、いまわたしが学んでいる機械工学やデザインに関係のないジャンルの人とも、なるべく話すようにしています。ちなみに最近仲良くなったのは、寿司職人さんです」

ーそういう積み重ねが、いつかめぐりめぐって、活きてくると。

「まさにそう。高校2年生のとき、徳島に中島さち子さんっていうSTEAM教育の研究家の方が来て、講演をされたんです。彼女は日本人女性初の数学オリンピック金メダリストで、わたしの興味分野のどストライクな人だったから、話しかけに行って、Facebookを交換してもらったんです。そうしたらこの間、偶然スタンフォードに中島さんが講演しに来てくださって、再会したんですよ。いまは中島さんと一緒に、国際数学オリンピックのスタッフもしています(笑)」

ー徳島での出会いが、アメリカでつながったんですね。

「中島さんはたまたま来てくれたけど、徳島が拠点だと、やっぱり地理的には不便なことが多かったです。だから東京にもよく行っていて、そのたびにいろんな人に会っていました。それはもう、目が合った人全員に話しかけるくらいのレベルで(笑)。

でも、東京で出会ってどれだけ話が盛り上がっても、わたしは徳島に帰らなきゃいけなかったから、関係をつなげていくのは難しくて……。だから、インターネットやSNSで連絡を取り続けるようにしていたんです、忘れられたくないから。出会ってすぐに連絡をするのは、いまも昔も変わらないけど、出会って数週間以内にもう1回、リアルで会えるっていうのは、当時はできなかったことだから、それができるいまはすごく幸せです」

カリフォルニアが教えてくれた”無償のGIVE愛”を還元していきたい

ー9月からは3年生になり、大学での学びもいよいよ本格的になると思うんですが、将来の方向性は見えてきましたか?

「この1年、アメリカで活躍している日本人とたくさん会って、たとえ日本にいなくても、日本に貢献できることがわかってきました。それは、わたしにとって大きな発見。わたしも、そんなGIVEができるような人になりたいなって思っています」

ーGIVEというと、具体的には?

「いま、わたしがこうしていられるのは、嬉しいときも悲しいときも、何者でもないわたしに、たくさんの愛や人とのつながりを与えてくれて、おいしいごはんまで振る舞ってくれた、仏のような心を持つカリフォルニアの人たちのおかげ。だから、わたしが受け取った”無償のGIVE愛”を、今度は与えられる側になりたいです。これは、ひとりの人間としての目標ですね。

大学では、機械工学専攻なので、テクノロジーやデザインの力でもっと社会を良くしていきたいと思っています。特に、コミュニケーションの障壁を取り除きたい。いま当たり前に溶け込んでいる階段やエスカレーターでも、『もっとこうしたらいいのに』って思うことが、すごいあるんですよ。そういう憤りみたいなものを、口先だけで終わらせるんじゃなくて、実際に手を動かして、新しいデザインとして提示していけるようになりたいです」

ーいまはなにかつくられていたりするんですか?

「いまはつくることに加えて、ディレクションしたりすることも多いです。今回、日本に来る前にも、展示会場の装飾を考えたりとかしていました。初めてだったけど、やってみて楽しかったから、どんどんチャレンジしてみたいです。最近はファッションにも興味があります」

ーファッションですか。

「ブランドの立ち上げとかに興味あって。勉強してみたいんです。スタンフォードって、立地上、起業している学生も多くて、なんとなく新しい事業の立ち上げの仕組みはわかってきた。だから逆に、古くから続いているブランドについて、もっと知りたいなと思っていて。来春の春学期からは大学のフランス留学プログラムに参加して、老舗のブティックとかで学んでみたいなと計画中です」

ーやりたいことがたくさんあるんですね。

「尽きないですね。日本でもやりたいことがたくさんあるし、死ぬまでにやりたいこともたくさんあります。ありがたいことに、いまはインプットするには最高の環境にいるので、自分の興味赴くままにやりきっていきたいですね」

ー最後に、Steenzを読んでいる10代に向けてメッセージをお願いします。

「アメリカに来ることがあれば、ぜひSNSで連絡してください。喜んで案内します。スタンフォードも、カリフォルニアも、すごくいいところですよ。

あと、これだけは伝えたいと思うのは、みんな、自分のこと過小評価しすぎだよっていうこと。『わたしなんか……』とか、『あの子のほうがすごい』とか、そんなことを考える必要ないです。あなたが何を問題に思って、何に愛を持ってそれをやってるかが、いちばん大事だと思います!」

松本杏奈のプロフィール

2003年徳島生まれ。2021年3月に徳島文理高等学校を卒業し、9月より米国スタンフォード大学に進学。専攻はSchool of Engineering, Design Program, Physical Design + Manufacturing。柳井正財団5期生。「誰も取り残さない社会と技術と芸術を。」を理念に掲げ、コミュニケーションにおける障壁の克服をめざしている。座右の銘は「強行突破」。

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Photo:Ryo Usami
Text:Ayuka Moriya

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Ayuka Moriya

エディター

1999年生まれ、秋田県出身。東京外国語大学 国際社会学部在学時よりライター・エディターとして主にインタビュー記事の執筆、ディレクションに携わる。Steenzでは、2021年ローンチ当初より「気になる10代名鑑」のコンテンツ制作を担当。

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