「あの人に聞く、私の10代」。今回インタビューした先輩は、大学生起業家の江連千佳さん(21)。注目が集まるフェムテック領域で起業し、開発した“ノーパンでいられる部屋着”『おかえりショーツ』は、テレビや雑誌などにも多数取りあげられ、現在は入荷2か月待ちの人気商品に。
まさに「新進気鋭の輝く女子大生起業家」というイメージの江連さんだが、そこに至るまでは苦難と葛藤の連続があったという。「劣等感を抱いていた」と語る彼女に、10代のころのはなしを聞いてみた。
1. 劣等感から得た「ふたつの武器」
12歳の春。私立の名門女子中学に入学した江連さんは、悩んでいた。
「初めての挫折でした。それまで、勉強ができることが自分の価値だと思っていたのに、中学生になって急に『出来が悪い』部類に入ってしまって。私、補欠合格だったんですよ。
突然、アイデンティティを失った感覚になって、しばらくは落ち込み気味に過ごしていました。自分の魅力って何なんだろう、と…」
しかし、ただ落ち込んで無為に過ごしたり、目を背けて道を外れたりせず、新たなふたつの武器を「極める」ことにしたそう。
「実は私、昔から手で文字を書くことがすごく苦手で。書写ができなかったりするんですよね。自分には何があるだろうって考えたとき、小学校3年生のときの自由研究で初めてパソコンで文字を打って感動したことを思い出して、パワポ(Microsoft PowerPoint)を極めてやろう、と。『パワポを使いこなせれば、もっと自分の力を発揮できるはず』と思ったんです」
そして、もうひとつの武器に選んだのが「英語」だった。
「中学に入ったとき、頭のいい子たちに差をつけられているのは、国語・算数・理科・社会の4教科。だから、英語のレベル差は、まだそれほどないはずだって思ったんです。そこだけでも負けないように勉強していこうと。やると決めたらとことんやるタイプなので、気合いを入れて頑張りましたね」
劣等感を抱いたからこそ見出した、新たな活路。このふたつの武器を獲得した江連さんは、『パワポと英語を武器に、大人顔負けのプレゼンができるキャラ』として、学校でも一目置かれる存在となった。そして、社長となったいまも、この武器で大人たちと戦っている。
2. 偏差値社会への小さな反抗
そうして、中学校でポジションを確立しつつあった2年生のとき。江連さんの人生観に大きな影響を及ぼす出来事が起こった。友人が突然、亡くなってしまったのだ。
「『いつメン』という感じで、毎日昼食を一緒に食べていた友達で…。私から見ると、勉強もすごくできる、完璧な子。当時の私は受け入れることなどできず、『なんでなの?』という想いをずっと抱えていました。『人は生きるのが嫌になる瞬間がある』ということを初めて知ったし、逆に『自分はなぜ生きているんだろう』と考え始めました」
中学生にして『生きる意味』と真剣に向き合わざるを得なくなったが、もちろんすぐに答えは見つからない。心のダメージはなかなか癒えず、学校に行けなくなり、心療内科に通った時期もあった。
「高校生になってからも、勉強を頑張る意義が見出せずに、テストを白紙で出していました。今思うと、『日本の学校教育がつくる圧倒的な偏差値社会が、苦しまなくていい人まで苦しめている』という想いが強かったんだと思います。
もちろん、ひとりの生徒がテストを白紙で出したところで、学校も社会も変わらない。でも私の中では、自分の生きる道を見つけるための一歩を踏み出そうとしていたのかもしれません」
進学校に通う高校生の、小さな反抗。いまは偏差値社会から解放され、独自の道で輝く江連さんが、もがいていたころの1ページだ。
3. 別人格になる時間が必要
その一方で、英語の勉強は続けていた。中学2年生から「英語弁論大会」に出場するなど、着々と実力を上げ、大学時代には全国大会に出場するに至った。「英語弁論」にのめり込んだ理由について、江連さんはこう語っている。
「英語だと、普段は言えないことがストレートに言えるんです。文章の組み立て方や喋り方が違うから、スイッチを切り替えられるんだと思います。極端にいうと、別人格になれる感覚ですね」
これは、江連さんが抱えていた苦しさを表す言葉でもあるだろう。葛藤しながら10代を過ごした彼女だからこそ、同じように苦しむ10代へ、伝えられることがある。
「別人格にならないと、話せないことってありますよね。たとえば私は、やっぱり友達が亡くなったときのことは、日本語では多くを話せない。それでも、誰かに話したい。そんなとき、英語だと話せるんです。今、打ち明けにくい想いを抱えている10代の方にも、違う言語を身につけて、別人格になってみることをおすすめしたいです」
笑顔の絶えない江連さんから聞けたのは、意外にも苦悩に満ちた中高時代のお話だった。次回は、そんな彼女の大きなターニングポイントとなった「ニュージーランド留学」での体験について聞いてみたい。(第2回へ続く)
Photo:Aoi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh