
「気になる10代名鑑」の1130人目は、森夕乃さん(19)。地元・福井にいた高校時代から原子力に関する意識調査や授業を通じて、地層処分について知ってもらう活動をおこなっています。白黒と決めつける世の中ではなく、まずは対話ができる社会を目指したいと語る森さんに、活動を通して感じることや将来の展望について聞いてみました。
森夕乃を知る5つの質問

Q1. いま、いちばん力を入れている活動は?
「エネルギー問題、とくに地層処分を周知するための活動をしています。地層処分とは、高レベルの放射性廃棄物を、地下深くの安定した地層に埋設して隔離する方法です。
おもに、高校時代から継続している『高校生の原子力に関する意識調査』のアンケートや、廃炉で出るクリアランス資源を活用した防犯灯づくり、首都圏の同世代と意見交換をおこなう交流会を実施しています。
アンケートでは、地域による意識や知識の差を実感しました。原子力発電所が近い地域ほど、その存在が当たり前となり、特に意識していないという回答が多かったんです。最近は東京の高校にも調査を広げ、有識者約50名に取材し、その結果を冊子にまとめました」
Q2. 活動を始めたきっかけは?
「ひとつ上の先輩が原子力をテーマに高校で特別授業をしていた記事を見たことです。原子力という難しいテーマに堂々と向き合い、同世代に授業をしている先輩の姿に、純粋な憧れを抱き、自分も動いてみたいと背中を押されました。
原発のある福井県に住んでいながら、原子力を怖いものとしか見てこなかった自分。だからこそ、その記事を読んで『先輩は何を感じているんだろう』『自分の感じ方は正しいのかな?』と疑問を持ち、実際に行動して確かめたいと思ったんです」
Q3. 活動にあたってのファーストアクションは?
「まずは、記事に登場していた先輩に連絡を取り、いっしょに活動を始めました。
そして高校1年の6月、先生に相談して、総合探究の2時間を使って、地層処分をテーマにした対話型の授業を開催しました。教授や専門家にも加わってもらい、議論ではなく、『正解のない対話』を意識して。自分の気持ちや考えを、自分の言葉で語ってもらうことを大切にしました。
授業では、あるグループが電源三法交付金の話題を出し、『原子力で得たお金でイオンを建てよう』という自由な発想をしていたのが印象的でした。大人の常識にはない意見が多く、高校生だからこそ出る発想の豊かさを感じました。白黒をつけずに語ることで、原子力を怖いものと思っていた自分の先入観も、少しずつ変わっていきました」

Q4. 活動の中で、悩みがあれば教えてください。
「一番悩むのは、伝え方の難しさです。
テーマが繊細だからこそ、相手や地域によって言葉の選び方を意識する必要があります。原子力について話すだけで賛成派と決めつけられることもありました。
また、福島の高校生に取材したとき、私が思う以上に客観的な視点を持っていて、話しにくいと感じていたのは自分の先入観だったと気づかされました。それ以来、難しい言葉を使わず、共通の体験から話すことを心がけています。
東京の高校生と話すときは、首都圏の電力ひっ迫を例に挙げて、身近に感じてもらえるようにと意識したりしています」
Q5. 将来の展望は?
「大学では、原子力とまちづくりをかけあわせながら、合意形成・社会心理についても学んでいます。将来は地元・福井のエネルギー産業を支えながら、地域と都市をつなぐ存在になりたいです。
原発にもさまざまな意見がありますが、賛否を分ける前に、建設的な対話ができる社会にしていきたくて。地層処分は、国内のどこかで必ず向き合わなければならない課題です。だからこそ、立場の異なる人たちでも、ともに考えられる場づくりをしていきたいです。
原子力の研究や事業に携わるとなったら、そのデメリットを誰かに押しつけるのではなく、ともに考えられる人でありたい。『これは未来世代の課題だから』とは言うのではなく、世代や立場を越えて語り合える空気をつくる人間でいたいと思っています」

森夕乃のプロフィール
年齢:19歳
出身地:福井県
所属:慶應義塾大学総合政策学部
趣味:音楽を聞くこと
特技:スキー
Photo:Nanako Araie
Text:Serina Hirano






