「気になる10代名鑑」の1123人目は、木下大地さん(19)。企画から編集までワンストップで映像制作を手がけ、今年4月にクリエイティブレーベル『KIMAGURE FILM』として独立しました。「説明ではなく、表現で伝えること」を大切にしているという木下さんに、活動の原点や映像制作へのこだわり、そしてこれからの展望を聞きました。
木下大地を知るための5つの質問

Q1. いま、いちばん力を入れている活動は?
「映像作家として活動しています。制作会社での経験を経て、今年4月に『KIMAGURE FILM』として独立しました。いまは自主映画の制作と並行して、アーティストのMVを企画から編集まで一貫して手がけています。
現場ではカメラ・照明チームと連携しつつ、当日までの全体ディレクションやビデオ編集まで自分ひとりでおこなっています。
直近では、高校生ラップ選手権に出場歴のある『Reichi(れいち)』のMVを福岡で撮影しました。画がはみ出す演出や、指名手配ふうのグラフィック、サビ直前まで、型破りな世界観をイメージしました」
Q2. 活動するうえで、大切にしていることは?
「『説明ではなく、表現で伝えること』です。
映像って、わかりやすく説明するためのツールではないと思っていて。どれだけ理屈を積み上げても、感情が動かなければ意味がない。だからこそ、観た人が『なんか引っかかる。心がざわつく。目が離せない』と感じる瞬間をどう作れるかを、常に考えています。
ひとりでデスクに向かって黙々と作っているようで、実は他人の心拍に寄り添うように編集している感覚があります。誰が見ても同じリズムで心が動く作品をつくりたいんです。
それは、大衆に迎合するという意味ではなく、どんな人の心にも残る強度を持った作品。それが僕にとってのいい映像です」
Q3. 活動を始めたきっかけは?
「幼いころに読んだ、手塚治虫の『ブラック・ジャック』がきっかけになっている気がします。
父の本棚にあったマンガを、内容も分からないまま夢中で眺めていました。文字を読まずとも絵だけで意味が伝わることに圧倒され、たぶんその瞬間に自分も何かをつくる側にまわりたいと思ったんだと思います。
高校では、アニメ『あの夏で待ってる』に出会って、高校生が映画を撮るという物語に衝撃を受けて、そこではじめてアニメを作ってみようと決意して。
独学で制作したアニメが福岡のテレビ放送で取り上げられて、芸人さんたちからも『高校生でこの完成度はすごいね』と褒められたりもしました。それが自信と覚悟をくれたようで、映像制作の道に自然と進みはじめましたね」

Q4.活動をしている中で、印象的だった出来事は?
「高校2年のときに制作した、3年生を送る会のMV制作です。
先輩たちへの想いを込めて、黒板に思い出の写真を合成して浮かび上がらせるCGを入れる工夫を行いました。自分の知識と感覚を全部注ぎ込みました。その映像が2000人の前で流れた瞬間、体育館の空気が一変し、割れるような拍手が起きたんです。あのとき、『映像って、人の感情を動かすことができるんだ』と心から実感しました。
その映像がきっかけとなり、ホラー映画『忌怪島』の高校生バージョン予告編を制作する企画に参加して。企画から構成まですべて自分で手がけ、高校生にしかわからない怖さをテーマに、遅刻やマスクを外せない昼休みといったリアルな不安を物語にしました。
清水崇監督からも『高校生でここまでやるのはすごい』と評価をいただけて、自分にとって大きな転機になりました。あの経験が、『説明ではなく表現で伝える』といういまの軸につながっています」
Q5. 将来の展望は?
「まずは、目の前の作品に全力を注ぐこと。大きな目標を掲げるよりも、一つひとつを積み重ねることで、次のチャンスは自然と巡ってくると信じています。
『KIMAGURE FILM』では、MV制作だけでなく、もう一度アニメーションにも挑戦したいと思っています。影響を受けた80〜90年代のアニメと、当時のフィルムっぽい質感を大切にしつつ、日本のオタク文化やサブカルチャーを現代の感性で再構築するような作品をつくりたいです。
AIがそれっぽい映像を生み出せる時代だからこそ、人間特有の癖や矛盾、感情の揺れといった人間臭さが残る作品にこそ意味があると思っています。誰もが似た映像をつくれる時代に、作り手のバックボーンや価値観まで伝わる“木下カルチャー”を確立すること。それが自分の目標です。
自分も作品に人生を変えられた身だからこそ、いつか自分の作品を観た誰かが『この一本で何かが変わった』と思ってくれたら、それがいちばん嬉しいです」

木下大地のプロフィール
年齢:19歳
出身地:福岡県新宮町
所属:KIMAGURE FILM
趣味:アニメ・漫画鑑賞、メガネ・サングラス収集
特技:ゲームセンターのエアホッケー
大切にしている言葉:回り道こそ王道
木下大地のSNS
★Instagram
Photo:Nanako Araie
Text:Serina Hirano
Serina Hirano
ライター/ディレクター
10代名鑑ディレクター兼ライターとして、2024年1月にSteenzへjoin。東京と伊豆の二拠点で活動中。インタビューを中心とした記事をはじめ、学生、スタートアップ企業、まちづくりの現場まで多方面で活躍。