
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、アフリカの聴覚障害者向けのユニークなアプローチを紹介します。
ケニアの聴覚障害者を取り巻く環境
ケニアでは、1,000人中14人の子供が聴覚障害者であり、これはアメリカの約10倍の数字だそうです。障害を理由とする差別は法律で禁止されていますが、教育や雇用、医療などあらゆる機会が失われているのが現実です。実際、ケニアの20万人弱の聴覚障害者の子供のうち、約10%しか学校に通えていません。
また、同国の聴覚障害者の子供の90%以上が、手話を知らない親から生まれています。教育の機会がないと手話を知らずに育ち、意思疎通がとれずに生活していくことになるため、おのずと働く機会は失われます。さらに、ケニアには手話通訳者が非常に少なく、資格の登録などもありません。
聴覚障害者が働く、手話で注文できるカフェ
そんな中、ケニアに手話を通じて意思疎通をとるカフェがあります。その名も「パレットカフェ」です。
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2019年にオープンしたパレットカフェは、40人のスタッフのうち30人以上が聴覚障害者です。レストランには基本的な手話を紹介するポスターが展示されており、客は手話やジェスチャーを使ってオーダーをします。
メニューはヴィーガンメニューからメキシカン、北アフリカの食事まで豊富です。さらに、カフェだけでなく、コワーキングスペース、アートセンター、ソーシャルセンターとしての役割ももちます。
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創設者のFeisal Hussseinは、現地メディアの取材で「障害を理由に社会から距離を置かれることもありますが、障害の有無に関係なく同じ人間であり、他の人たちと同じように働くことができます。従業員の中にはパレットカフェで経験を積んで、新たに自分でビジネスを始めようとする人もいて、彼らがより成長できるように手助けしています」と話しています。
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オープン当初は「聴覚障害者が働くカフェ」という新しいアイディアに人々は懐疑的でしたが、パレットカフェの素晴らしいサービスは全国に広まり、ケニアにさらにふたつの支店をオープンしました。現在パレットカフェはケニア全土の障害者から、毎日のように求人応募を受け取っているそうです。
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リアルタイムで会話を手話に変換する画期的なアプリ
続いて紹介するのは、ケニアで聴覚障害者支援のサービスを開発する企業「Signvrse」です。Signvrseは、聴覚に障害のある人とそうでない人が円滑にコミュニケーションをとるためのサービスを開発しています。
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創設者の25歳のケニア人、Elly Savatia(以下エリー氏)は、幼い頃から電子機器に関心があり、10代の頃から障害がある人向けのプロダクトの開発に励んでいました。あるとき、エリー氏が参加したとあるクラスで、300人以上の聴覚障害者がいたにも関わらず、手話通訳がひとりしかいない状況に遭遇し、「聴覚障害者の意思疎通の障壁をどう埋めるか」に興味を持ち始めました。
Signvrseが開発したサービスは、AIと3Dアバターを使ってリアルタイムで手話を生成します。こうしたサービスにより、病院や学校、イベント会場などで聴覚障害者が取り残されないような環境作りを目指しています。
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また、リアルタイムの手話生成だけでなく、テキストやビデオをもとにSNSなどで共有可能な手話コンテンツを生成したり、WebサイトにSignvrseのシステムを追加して手話コンテンツを生成し、聴覚障害者が全てのコンテンツにアクセスできるようになったりという使い道もあります。
Signvrseのサービスは革新的なアイディアとして評価され、大統領イノベーション賞や連邦事務総長イノベーション賞など、国内外の多数の大会で賞を受賞しています。今後は、より多様な方言や語彙に対応し、ウガンダやルワンダにも事業を拡大する予定です。
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ケニアの聴覚障害者を取り巻く環境は困難が多いものの、カフェや学校、病院など、さまざまな場面でインクルーシブな環境をつくろうと励む人々がいます。社会を変えようと挑む人々にこれからも期待したいです。
References:
PubMed Central「Hearing Loss Detection and Early Intervention Strategies in Kenya」
Talk AFRICA「Disability: Parents Plead With Government To Help Deaf Children Access Education」
Kippara「COVID-19 Emergencies Response and the Deaf Community」
Text:Hao Kanayama