
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、土用の丑の日を前に知っておきたい、ウナギの話題についてご紹介します。
土用の丑の日とは?
早くも夏バテが気になる今日この頃。夏バテ対策に効果的だと言われている食材の代表が、「土用の丑の日」のウナギです。土用とは、その昔、日本で採用されていた太陰太陽暦において、立春や立夏、立秋、立冬の前にあるとされる期間のこと。「土用」と聞くと夏のイメージが強いですが、実は年に4回あったことに驚きますよね。季節の変わり目に名前をつけることで、体を慣らす期間としたのかもしれません。
そんな中で、夏前の土用だけが未だに残っているのは、江戸時代に平賀源内が夏に売上が少なかったウナギ屋に対して、「土用の丑の日にうなぎを食べる」というキャンペーンを提案したからだと言われています。
そんなふうに江戸時代から食べられているウナギ。少し前までは日本人には身近な魚でしたが、昨今ではたびたび、絶滅するかもしれない魚であることが話題になります。だからこそ、「そろそろ土用の丑の日だけれど、ウナギって食べて大丈夫なの?」という疑問が湧くのも当然のこと。
2025年6月にWWFジャパンと中央大学の白石広美さん、海部健三さんが発表したファクトブック「ウナギ類の資源管理・流通の現状について」から、ウナギの生態や流通、保護活動について見てみましょう。
スーパーに並ぶウナギの種類とは?
ファクトシート「ウナギ類の資源管理・流通の現状について」
今回発表されたファクトブック(2025)によれば、「現在日本で私たちが口にできるウナギのほとんどは、養殖されたウナギだ」といいます。養殖といっても、ウナギを卵から孵化させ、育て、成魚にする技術は、まだ商業化されていないそう。そのため、稚魚のウナギ(シラスウナギ)を獲り、それを育てるという養殖の方法が一般的におこなわれています。
また、ファクトブックには、2024年に日本国内で流通したウナギの種類の調査結果も掲載されていました。小売店で販売されていた133点のウナギの蒲焼のDNAを調べたところ、「全体の61.7%がニホンウナギ、36.8%がアメリカウナギ、さらに残りの1.5%がヨーロッパウナギである」ことが明らかに(Shiraishi et al., 2025)。「国産ウナギとされているウナギの多くはニホンウナギでしたが、輸入ウナギの半数以上がアメリカウナギ、残りの半数近くがニホンウナギ、さらに少数がヨーロッパウナギである」こともわかりました(Shiraishi et al., 2025)。
ウナギは世界で16種類が確認されているそうですが、実はこの3種すべてが絶滅リスクを抱えています。ニホンウナギとアメリカウナギはIUCNレッドリストで「絶滅危惧種」に、ヨーロッパウナギは最も絶滅に近い「近絶滅種」に分類されています。たとえ養殖品であっても、稚魚を天然から採っている以上、ウナギ資源を守るための管理や保護の取り組みが不可欠といえるでしょう。
ウナギにまつわる日本の規制、世界の規制
それでは、日本ではウナギはどのように保護や管理がおこなわれているのでしょうか。
日本では、ニホンウナギの養殖や、養殖に用いるシラスウナギの採捕に、許可と報告義務があるといいます。これにより、資源の適正管理が図られているはずですが、実際には報告される量と、捕られた量に乖離があることが指摘されています。つまり、密漁や過少申告が行われている可能性があるのです。
このため、2023年に漁業法が改正され、シラスウナギの密漁に対する罰則が強化されています。また、2025年12月には、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律が施行されます。これはシラスウナギがどこで捕れ、どこで養殖されているのかという「トレーサビリティ(原材料の調達から消費までの履歴追跡)」を確保することが義務付けられる法律です。国産のウナギについては、流通経路がはっきりするようになることが期待されています。
しかし、海外では状況が複雑です。カナダやアメリカなどでは、アメリカウナギの資源保護のために、採捕量の制限がおこなわれているそう。この取り組みは、一定の効果を挙げていると考えられています。しかし、規制がおこなわれた結果、制限の緩いカリブ海諸国のドミニカやハイチで、新たにシラスウナギの採捕や輸出が始まってしまったといいます。
特にハイチでは政情が不安定なため、採捕量の実態が把握できておらず、麻薬密売やマネーロンダリングとの関連も懸念されています。輸出されたアメリカウナギのシラスウナギは多くが香港経由で、中国に渡り養殖されているそう。中国国内でも多く消費されているようですが、一部は日本に輸入されていると考えられています。
EUは2025年6月に、ウナギ全種を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約/CITES)」の対象に加える提案をしました。11月に開催される締約国会議で話し合われ、国際取引に今より厳しい規制をかけるかどうかが話し合われます。日本や中国といった消費国にとっては、これまで通りの取引が難しくなる可能性も出てきています。
賢く選んで夏バテ阻止しよう!
絶滅の危機にあるウナギを保護することは大切ではありますが、世界遺産に認定された「和食」の代表格にウナギ料理が入っているという側面も捨てきれません。トレーサビリティができている商品であれば、少なくとも、密漁などで獲れたものではない、管理下にあるウナギであるということ。食べる場合は、そうした商品を選びたいものです。
また「土用の丑の日」は、ウナギの代わりに、名前に「う」のつく食品を食べるのもアリなのだとか。「うどん」や「梅干し」、「瓜」なども、夏バテした体や夏バテ予防には良さそうです。工夫して食べてみてくださいね。
Reference:
Shiraishi, H., Han, Y.-S., & Kaifu, K. (2025). Eel consumption in Japan: Insights from genetic species identification and trade data. Fisheries Science. https://doi.org/10.1007/s12562-025-01894-2
Text:Itsuki Tanaka