前回のインタビューでは、「記憶から抹消していた」という中学時代の思い出を掘り起こして話してくれた、イラストレーター・たなかみさきさん(29)。
続いては、たなかさんのイラストの特徴のひとつでもある「性的なモチーフ」のルーツに迫った。万人ウケが狙いにくそうな、王道とはいえないテーマを、10代から今日まで描き続ける理由とは?
イラストの世界観の原点は、少年漫画?
性的なモチーフを多く描かれているたなかさんの作品。そういったモチーフへの興味はいつごろから?
「少年漫画をよく読んでいて、小さい頃はその中にあるエロに触れる機会が多かったです。あと、私の絵は『性的だけどさっぱりしている』と言われることが多くて、そのさっぱり感みたいなものも、少年漫画の影響が大きかったのかなと思います。恋愛っぽすぎないところとか」
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「ちなみに、いま思うと、少年漫画、少女漫画っていう区切りはよくないですよね。少年が読むもの、少女が読むものって決めつけられている感じがして。ランドセルも最初は赤でしたが、兄の卒業後、黒のランドセルを借りて登校していました。男子でありたいというより、趣味的に赤より黒が良かったのも強かったけど、自分が背負うランドセルなのに、自分の好きな色を選びづらいことに、違和感がありました。そういった幼少期からのジェンダーの決めつけにはすごく悩んでいました」
また、10代のころのルックスのコンプレックスも、性的な絵を描く動機につながっていたかもしれないと話す。
「私、身長が147cmで。背が低いことに悩んでて、『子どもに思われなくない』っていう気持ちが強かったんです。だから、大人が好みそうなものばかり食べたり、変なイキり方をしていました(笑)。当時から性的な絵を描いていたのも、『自分は早熟で、大人の世界を知ってるんだよ』と表現したいっていう意識や憧れが、どこかにあったのかもしれません」
自分を肯定しきれなかった過去
SNSではもちろん、2020年には全国のPARCOで個展『あ〜ん スケベスケベスケベ!!』、2021年には台湾と日本で個展『Tissue Please』を開催するなど、たくさんの人に作品を披露しているたなかさん。だが、10代のころは、葛藤もあった。
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「高校時代に描いてたのは、いまよりずっとリアルな絵。濡れたTシャツと肌とか、テクスチャーにこだわって、鉛筆ですごい丁寧に描いてました。ぜんぶ捨てちゃいましたけど。いま思うと、少しは残しておいても良かったかなと思いますね。
捨てた理由は、単純に、人に見られたらヤバいから(笑)。やっぱり当時は、性的なものを描いていることに、後ろめたい気持ちがあったっていうことですね。そこに興味があることや、自分の絵を、肯定できていなかったんだと思います。
ほんと、すごい量のえっちな絵を描いてたんですよ。とにかく描くのが楽しくて。逆にそれくらいしか、楽しいことがなかった。
恥ずかしい10代でしたが、私の場合はそのひとつのことがあれば、安心して生きることができました。人に見せられる絵になるまで続けて良かったなと思います」
そして、たなかさんは、自分の才能を信じてもいた。
「クラスの中で『絵がいちばんうまいのは自分だ』っていう謎の自負がありました。全然そんなことはなかったのですが、自分の絵が好きでしたね。
画塾にも行っていて、そこは本気で絵に取り組む人ばかりだから、講師から技術面で厳しい指摘をされることもあったんですけど、『まぁ、技術はまだ言われることあるわな。でも、自分には光る何かがある』って感じで、気にしていませんでした。
もちろん、受け入れるべき指摘は取り入れましたけど、講評のコメントでヘコんで辞めてしまう子も少なくない中で、私はそこでつまずきはしなかった。謎の自信と、自分の良さに気付ける心の余裕があったから、続けられたのかなって思います」
人目を気にしながらこっそりと、まだスタイルの確立されていない絵を描き続けていた高校時代。その延長線上に、いまの活躍がある。
「四十八手を描いたら獣道」?
たなかさんのイラストは、そのカルチャーライクなオシャレさも、大きな人気の理由。たとえ性的なモチーフを封印したとしても、おしゃれイラストとして、成立しそう。それでも本人は、性をテーマにイラストを描くことにこだわりたいそう。
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「世の中に作品を出す以上、自分の内面というか、嫌な部分も出さないと、誠実じゃないと思うんですよね。オシャレなだけのイラストを描いても、私にとっては意味がない。
10代のころには、恥ずかしい思いやつらい思いをたくさんしたし、20代前半くらいまで、えっちな絵を描いている自分のことをあまり好きじゃなかったんです。でも、性のモチーフは自分にとってずっと大切にしてきた特別なものですし、性というもの自体は、誰にとっても特別じゃない日常だと、続けてきて思いました。なのでいまは、すごく自然に描けているなと思ってます」
ちなみに、イラストレーター同士で、こんなお話をしたこともあるそう。
「以前、ある大先輩のイラストレーターさんと対談したときに、ふたりとも四十八手(江戸時代から伝わる48種類のセックスの体位)を描いたことがあるっていう話で盛り上がって。そのとき、『四十八手を描いたイラストレーターは、獣道だよ』って言われたんです(笑)。四十八手に限らず、際どい絵を描いてると、万人ウケしないし、スポンサーもつきづらいと。
でもわたしは、仕事の種類にもよりますが、性がテーマでもそうじゃなくても、ただオシャレで無難、では終わらないようなチャレンジはしていきたいんです。たとえ、険しい獣道であろうと。小さいころから『○○らしさ』に抗ってきたわたしだからできる仕事があるのではないか、と思ってるんです」
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迷いや葛藤のあった10代を振り返りながら「いま私、自分のスタイルを貫くアーティストになれたと思えてるんです」と笑顔を見せたたなかさん。自分に嘘をつかず、強い意思を持ち続けたことで、手に入れたものがあるようだ。(第3回に続く)
Photo : Aoi
Text : Ayuka Moriya
Edit : Takeshi Koh