「気になる10代名鑑」の61人目は、巴山未麗さん(18)。小学生のころからフランス語を学び始め、今は西アフリカのウォロフ語にのめり込み、ウォロフ語の翻訳機づくりに取り組んでいるそう。とにかく言語が大好きだという巴山さんに、言語の楽しさやハマったきっかけ、これからの目標を聞いてみた。
■巴山未麗を知る10の質問
Q1. プロフィールを教えてください。
「いま高3で、言語学にハマっています。小学生からフランス語を学んでて、いまはフランス語とウォロフ語の相互翻訳機づくりをがんばっています。
ちなみにウォロフ語というのは、西アフリカ地域で多く話される言語。特にセネガルではメジャーで、人口の8割近くが使えるんです」
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Q2. なぜその翻訳機をつくろうとしているのですか?
「ちょっと長くなるんですけど……。まず、ウォロフ語って、口頭言語なんです。口頭言語とは、対面のコミュニケーションのみで使われる言語のこと。なので、セネガル人のほとんどが、ウォロフ語は話せるけど、文字として書くことはできないんです。
なので、政治や教育の場で使うのが難しくて、セネガルの公用語はフランス語とされているんです。でも実際は、家でフランス語を話すセネガル人はたった数パーセントと言われていて、フランス語による政治家の発言や学校の授業を多くの人が理解できないなど、いろんな問題があるんです。
そこで、ウォロフ語とフランス語を繋げたらいいなぁと思って、翻訳機の制作を思いついたんです」
Q3. そもそもウォロフ語に関心を持ったきっかけは?
「高1から1年くらい、フランスに留学してたんですけど、スマホを盗まれてしまったことがあって。GPSを頼りに探しに行くと、セネガル人の居住施設に行き着きました。
そこで彼らが話していたのがウォロフ語で、生まれて初めて耳にしたとき、衝撃を受けたんです。小学生のときにフランス人留学生が話しているフランス語を聞いて、音や雰囲気の美しさの虜になったことがありましたが、それ以上の衝撃でした」
Q4. どうして言語に強く惹かれるんですか?
「私の家族は在日韓国人で、小さいころから、韓国の言葉や文化の中で生活してきました。家の中では食べ物や伝統行事など韓国文化に親しみ、家の外では日本文化に触れるというように、ふたつの文化を同時に経験してきたんです。その影響で、異文化、そして外国語に興味があるのかもしれないです」
Q5. 何を大切にして活動していますか?
「協働することを大切にしています。翻訳機をつくるには、その言語を理解できるのはもちろん、プログラミングの技術も必要です。私はプログラミングに詳しくないし、そもそもウォロフ語とフランス語、どちらもネイティブでもありません。いまもセネガルの方、フランスの方、そして機械翻訳を研究している大学の先生など、いろいろな人から少しずつ協力してもらいながら制作していて。ひとりでは翻訳機はつくれませんから」
Q6. 幸せや生きがいを感じるのはどんなとき?
「未知の言語を知った瞬間です。YouTubeなどでまったく理解できない言語の音源を聴くのがとても楽しくて、面白いです。
最近ハマっているのは、口笛言語。口笛言語とはその名のとおり、口笛の音だけでコミュニケーションをとる言語で、世界中にたくさん存在するんですよ。いちばん有名なのは、スペインの離島で使われている、シルボという言語。その地域は山や谷の多い地形で、口笛の音が遠くまで届くんです。だから携帯電話のない時代の人々は、シルボを使って遠くの人とコミュニケーションがとっていたそうです」
Q7. 今後の展望は?
「ひとつの目標は、フィールド言語学者になることです。フィールド言語学とは、世界中に存在する文字を持たない言語や、話者が少なく消滅しそうな言語を記録して、調査すること。
フィールド言語学者になって、自分が見つけた美しい言語の世界を、少しでも多くの人に感じてほしい。言語っていうと勉強を思い浮かべる人が多いと思うんですけど、私が面白いと感じるのは、言語そのものの美しさや多様さなんです。世界には7000もの言語があるし、それぞれにいろいろな特徴があって。それを伝えていけたらいいなと思います」
Q8. 趣味はありますか?
「野球と切手収集です。野球は家族みんなが好きで、私も小学校のころから、野球とソフトボールをやってきました。
切手収集は長いことやっていて、かなりの数が集まりましたね。国内だけでなく、海外で手に入れた切手も多くて、全部アルバムに入れて、大切に保管している私の宝物です」
Q9. 生きる上でのポリシーがあれば教えてください。
「『逆境こそ覚醒のとき』です。これはプロ野球選手の今永昇太投手がグローブに書いていた言葉で、中学、高校時代と、ずっと大切にしてきました。
ウォロフ語は文字がほとんど使われない上に、データもほとんど無いので、翻訳機をつくるのはとても大変なんです。専門家の人たちからも、これまでに何度も無謀だと指摘されたこともありました。それで心が沈んで、苦しかった時期もありますが、セネガル人の友達と『この悔しさをバネにして成功させよう』と言い合いながら、これまで続けてこれました」
Q10. 社会が「こう変わればいい」と思うことは?
「学校が、勉強以外の物差しでも、もっとがんばってもいい環境になってほしい。私はフランス留学から帰ってきて、ウォロフ語にのめり込んでいき、翻訳機の制作も始めたんですけど、決められたレールの上を走らない私を、よく思わない人もいて……。もちろん学校の勉強はとても大事ですけど、それはやりたいことを制限する理由にはならないと思います」
■巴山未麗の今日のファッション
セットアップ/CKS Tシャツ/agnes b. ブーツ/DHOLIC バッグ/used
「今日着ているチェックのセットアップは、フランス留学から帰国するときに友達がプレゼントしてくれたもので、お気に入りの一着です。バッグは祖母のおさがりです」
■巴山未麗のSNS
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Photo : Eri MIura
Text : Daiki Ido
Edit : Takeshi Koh