「あの人に聞く、“私の10代”」。アパレル会社yutori社長・片石貴展さん（28）に、自身の10代のころを振り返りながら、いまにつながる熱い想いをうかがってきた。
ラストとなる第3回では、なぜyutoriに才能ある10代が集まっているのか、そんな10代に対し何を想うのか、聞いてみました。
大変なことをツラくやるのか、楽しくやるのか
片石さんが社長を務める株式会社yutoriには、10代のスタッフが多数、在籍している。過去にSteenzに出演してくれた10代の中にも、yutoriのインターン生がいた。なぜ才能ある若者が、多く集まってくるのだろう。
「みんなの個人的な思いは、本人たちに聞かないと分からないんですけど、経営者目線では、会社のムードにはこだわってますね。いまの時代は、スタッフ個人のSNSから会社のリアルな空気感が伝わるし、ユーザーはそれを敏感に察知すると思います。
ベンチャー企業だから、必死にならなきゃいけないのは当然なんですけど、メンバーが大変なことをツラくやるのか、楽しくやれるのかって、社長である僕次第なんですよ。実はこれ、創業当初にいろいろ失敗したから言えるんです。クリエイティブなことをする会社なのに、大変なことを大変な気持ちでやってて。僕、センスないな……って反省したことがあったんです」
10代を惹きつける、yutoriの滲み出るムード。その秘密は「優秀さだけでなく、価値観や趣味も大切にする」という採用方法にもあるそう。
「前職で会社員をしていたころ、参加した打ち合わせで、いわゆるエリート的な人たちが『これの何がカワイイか』を長い時間かけて、ロジカルに話し合っていて。それが、すごく不毛に見えたんです。価値観が深いレベルで一致するメンバーが集まれば、そんな議論は一切不要で、『カワイイよね』だけで済む。
yutoriでは、『カワイイ』『カッコイイ』だけで多くのことを共有できるメンバーを、同じチームに集めるようにしてるんです。いまは古着ブランドからギャルブランドまで、10以上のブランドがあるんで、いろんな種類の『カワイイ』『カッコイイ』という感覚を受け入れられる会社になってきていると思います」
コロナ禍で、10代も変化している
ゆるめの古着を出発点としたyutoriだが、直近ではギャルブランドが登場し、WEBサイトもストリートテイストに大幅リニューアル。「自分の好きなことをやって、自分を好きになってほしい」という本質は変わらないが、そのメッセージを多くの人に届けるために、いまの時代の空気に表現をあわせたと話す。
「いまの時代には、ストリート的な強い表現が求められていると思います。ヒップホップとかギャルとかもブームですけど、いま生きる人たちが、そういう強いカルチャーを好むのは必然だと思います。だって、コロナ禍で『死ぬかもしれない』という恐怖を経験して、生存本能レベルで『強くならなきゃいけない』って感じたはずだから。
一時期、『自分らしく生きる』っていうのがキーワードになっていましたけど、そんな次元じゃなくて、もっと切実に、自分の命や人生の使い方に向き合う経験をしたと思う。だから、そういう環境で生きている10代が、今後どういう価値観を築いていくのか、正直なところ、想像がつかないですね」
一方で、yutoriに応募してくる10代を見ながら、こうも感じるという。「活動の選択肢が広がっていて、その点はいい時代だなと思います。僕たちのころは、大学生でインターンするのもマイノリティだったけど、いまは高校生でもインターンしたり、好きなことでお金稼いだりしてる。
いい意味で、決められたレールの上を走らなくてもよくなってるんじゃないですかね。大変な時代だけど、そのぶん自由さはあると感じています」
「暗明るくていい」クリエイターを目指す10代へのメッセージ
「はぐれ者を強者に。」「臆病な秀才の最初のきっかけを、創り続ける。」など、yutoriという会社からの発信を通して、一貫して若い才能を応援する姿勢を示し続けている片石さん。最後に、クリエイターを目指す10代へのメッセージをもらった。
「うちの10代のインターンは、みんなかなりクリエイティブなことに関心が強くて、能力も高いんですけど、接していて思うのは、総じて『暗明るい』んですよね。
みんな憂鬱とか、絶望とかっていう気持ちを抱えながら、その中で好きなことをやる明るさを共存させている。楽しいことをやってるけど、100%ポジティブな気持ちではないと思う」
「でも『暗明るい』の『暗』の部分って、すごく大事ですよ。そういうネガティブな感情の源泉から生まれたものこそが、クリエイティブにおける強烈なパワーを持つと思うんで。
暗い部分に目を背けないでいたら、同じことを考えてる仲間ができたり、助けてくれる大人が現れたりする。だから、そのままでいてほしいですね。うちで働いてくれてもいい（笑）。自分を偽らず、自分のことを好きなまま、生きていってほしいと思います」
全3回にわたって、yutori代表取締役CEO・片石貴展さんの、いまを生きる10代に向けたメッセージをお届けした。もしも進む道に迷ったとき、「自分の好き」を貫くことを全肯定する片石さんの言葉を、思い出してほしい。
Photo：AoiText：Daiki IdoEdit：Takeshi Koh
