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起業家・辻愛沙子「村上春樹も作家デビューは30歳。人生は長距離走である!」

起業家・辻愛沙子「村上春樹も作家デビューは30歳。人生は長距離走である!」

これまでの2回のインタビューを通して、海外で過ごした中高時代に芽生えた、社会課題への意識や、クリエイティブの原点を話してくれた辻愛沙子さん(26)。

「国際情勢が友人関係に影響する環境」海外ドラマに憧れ飛び込んだスイスでの中学時代に社会派クリエイティブディレクター・辻愛沙子の原点あり
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「あの人に聞く“私の10代”」。今回のゲストは、社会派クリエイティブディレクター・辻愛沙子さん(26)。 社会課題をクリエイティブの力で解決する会社「arca」を24歳で立ち上げた一方、日本テレビ「news zero」に […]
https://steenz.jp/8808/

信条“愛とパンク”のルーツ。辻愛沙子が10代でハマった「カルチャーの二大巨塔」を語る
信条“愛とパンク”のルーツ。辻愛沙子が10代でハマった「カルチャーの二大巨塔」を語る
前回のインタビューでは、中学時代に単身で飛び込んだスイスでの学びや経験について語ってくれた辻愛沙子さん(26)。 2回目となる今回は、クリエイティブディレクターとして活躍する現在につながる、10代のころの「インプットとア […]
https://steenz.jp/8811/

第3回では、大学進学の決め手や、大人になったいまだからこそ伝えたい「仕事」についての話を聞いてみた。

辻愛沙子(つじあさこ)。1995年生まれ。慶應義塾大学在学中、インターン先に2週間で入社。その後株式会社arcaを設立し、「社会派クリエイティブ」を掲げ「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」を軸に、広告から商品プロデュースまで手掛けている。
Twitter:@ai_1124at_Instagram:@ai1124arca

大学進学という大きな岐路。慶應SFCを選んだ理由は?

日本の中学を自主退学し、中高時代をスイスとアメリカで過ごした辻さん。海外の大学に進学する選択肢もある中で、帰国し、慶應義塾大学に入学した理由について、尋ねてみた。

正直なところ、海外の美大に行くべきか、SFC(慶應大学湘南藤沢キャンパス)に行くべきか、すごく悩みました。でも、多動的で興味の幅が広く、欲張りな私は、専門を絞って極める海外の美大よりも、いろんなことに挑戦できて、可能性を狭めないSFCのほうが、自分のポテンシャルを最大化できると考えたんです」

いまでも、ときに美術大学や芸術大学への憧れを抱くという辻さん。しかし、の選択に後悔はない。

もし時間を巻き戻せたとしても、やっぱりSFCに入学すると思います。幅広く学び、挑戦ができる環境のSFCを選んだからこそ、在学中にキャリアをスタートさせることができました。そのおかげで得られたことがたくさんあります。

一方で、何歳になっても学びの場に戻る可能性はあると思っているので、今後もし、どこかのタイミングで大学や大学院に行けるなら、人文社会学系の勉強をしてみたいし、家具を作るのが夢の一つなので、美大でプロダクトデザインや建築も学んでみたい。自分はきっと、一生学び続けながら、何かをつくっている気がします

仕事は最高!熱くなりすぎたっていいじゃない

大学在学中に、プロデュースカンパニー・エードットにインターンとして参加すると、その2週間後に入社し、そこから現在に至るまで、社会課題と向き合い、ときに傷つきながら、ビジネスの世界を駆け抜けてきた辻さん。「いまの10代に、仕事ってどんなものだと伝えたいですか?」と聞いてみた。

仕事って最高ですよ。私は仕事に救われました。10代のころって『何者でもない』という無力感や居場所のなさが、心のどこかにずっとあって。働くことで社会との接点ができて、それが解消されたんです。

あと、10代のころって『熱くなりすぎるとダサい。ちょっと手を抜いて8割ぐらいがカッコいい』みたいな、スカした空気ってありがちじゃないですか。私の場合、学生時代は絵を描く熱量が異常に高かったので、共同作業で『そこまでやらなくても……』と言われ、周囲との距離に悩んだ時もありました。でも仕事の場合、心底熱くなって、打ち込めば打ち込むだけ誰かが幸せになって、自分に返ってきますから

仕事の魅力を熱く語る辻さん。在学中のインターン時代から全力だったそう。

「いまもそうなのですが、当時はとにかく貪欲だったので、『立てる打席には全部立ちたい。どのプロジェクトにも呼んで!』というスタンスで仕事をしていました。チャットツールで社内のやりとりをすべて覗いては、自分が入っていないプロジェクトでも『私も企画を考えたいので、参加させてください!』といつも前のめりでした」

そして「仕事が最高」であるもうひとつの理由が、人との出会い。

「私の場合、人生の師匠だと思える広告クリエイターの牧野圭太さんに出会えたことが、何にも代えがたいご褒美だと思っています。他のかたちで出会っていても、きっとここまでの関係性は築けなかったと思います。全力で仕事をすることでしか生まれない関係ってあるんです。10代の方には、学生時代につくる関係とはまた違う、素敵な出会いが将来待っているはずだと伝えたいですね」

あの村上春樹だって、小説家デビューしたのは30歳。人生は長距離走である

仕事を通して、10代と接する機会も少なくないという辻さん。その印象について「年齢という数字より、その人が持っていいる視点が大事だと思うので、若いなぁというより、成熟してるなぁとリスペクトを感じることのほうが多い」と語る。

「質の高いアウトプットをしている人も多いし、パンデミックを経験する中で『自分たちはどうやって生きるべきだろう』と考えて、ひとつひとつの意思決定を丁寧にしている人が多いと思うんです。

でも一方で、すごい同年代のことをSNSでたくさん見ることができちゃうから、『何者かにならなければ』と昔よりも不安になりやすいのでは、と心配にもなります

そんな10代に対して、最後にこんな言葉を残してくれた。

「先を見据えて目標を立てることは、自分を奮い立たせて前に進む上ですごく大事。でも、目標を立てたからといって、計画どおりに実現できるかどうかは、誰にもわからないんです。それはきっとイチローさんであろうと、あいみょんさんであろうと、みんな一緒(笑)。意外と人生は、行き当たりばったりだったりするものなんだと思います。でも、そんな偶然とか予想外の出来事が、自分の可能性を不意に切り開いてくれたりする。だから、どうか焦りすぎず比べすぎず、今日1日を大事にしてほしいと思うんです。

村上春樹さんが小説を書き始めたのは20代後半で、デビューしたのは30歳。人生は長距離走であることを忘れず、自分の本当の声に耳を傾けながら、一歩一歩を積み重ねていってほしいと思います」

3回にわたって、自身のルーツとなる学生時代を振り返り、いまの10代に向けて、愛とパンク精神にあふれるメッセージを残してくれた辻さん。これから走り出す10代も、人生の長距離走のどこかで、辻さんと一緒に走れる日が訪れるかもしれない。

Photo:Aoi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh

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Ayuka Moriya

エディター

1999年生まれ、秋田県出身。東京外国語大学 国際社会学部在学時よりライター・エディターとして主にインタビュー記事の執筆、ディレクションに携わる。Steenzでは、2021年ローンチ当初より「気になる10代名鑑」のコンテンツ制作を担当。

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