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切なくって踊っちゃって Johnny Sais Quoi『Love On Ice』【22歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

切なくって踊っちゃって Johnny Sais Quoi『Love On Ice』【22歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

22歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」。
今回紹介するのは、最近ちょっとお疲れ気味な渡辺を癒した、切なさ込み上げる快作現行DIY・ディスコ。喝!な、熱血感&実直さが時にしんどい人に聴いてほしい音楽です。

ちょっと現実逃避中、痺れちゃった音楽。


バイト終わりの帰り道、超疲れてるのに混んでいる電車では座れないし、吊り革を持つ腕もしんどくて、最寄り駅までの時間が永遠に感じる時。そんな時は好きなものに没頭してしまうのが良い。抱えてしまったモヤモヤや、考えても特に答えが出るわけではない悩み事から一瞬解放される瞬間。現実逃避とも言う。

Johnny Sais Quoi。Googleに頼ると「ジョニーは何を知っている?」と翻訳される意味深な名前のアーティストを見つけた時もそんな帰り道だった。

80年代のイタロ・ディスコからの影響がモロに感じられる、怪しげでわざと洗練されすぎないようにつくられたような音に痺れるし、飾りっ気なんてないのに印象に残るジャケット(これはレーベルの美学が反映されている可能性が大いにあるけれど)も、「あれこれ語る必要なんてありません!」と言っているようで、最高にイカして見えるのだ。

Love On Ice

『Love On Ice』は、彼自身の環境の変化から得たエネルギーの渦の中で作られたという。見えづらいだけで誰しもが激動の人生を送っているこの世界。その中で起こる移り変わりや出会い、別れ。そんな普遍的なテーマは、冷静なエレクトロサウンドの中に、一粒の温かみも、哀愁と癒しも、そして目がまわるような夜遊びをした晩の思い出のような感覚も呼び起こさせてくれる。

イタロ・ポップとニューウェーブから影響を受けたと説明される今作は、「さあ、これから夜のとばりを下ろしますよ」と言わんばかりのぐにょ〜んとした重厚なシンセから幕を開け、アーバンなシンセウェーブが心地よい『Mistaken Man』で早くも心を掴まれる。

アルバムタイトルにもなっている『Love On Ice』は、ほのかに不穏な印象をちらつかせながら、脈打つようなキックと印象的なベースラインが、クラブ仕様でめちゃめちゃに踊れそうでありながら、どこか自分の部屋と地続きなようにも感じられ、インディー・シンセポップ的な聴き方をしても全く違和感がない。

アルバムのラストを飾る『Let’s Find A Home』は、曲名からも想像できるように、移り変わる環境の中で、旅の終着点を見つけたかのような暖かみのある1曲だ。全7曲、22分のEPが見事に締めくくられる。

ダンスミュージックと切なさって、近しい存在?

このアルバムを聴いていると切なさが込み上げてくる瞬間がある。そして、ダンスミュージックと切なさってとても近しい存在なのではないかと思えてしまう。

それは中学生の時に見た『トレインスポッティング』や岡崎京子の漫画で描かれていたようなクラブの中で起こるあれこれ、その刹那的な関係や情動、朝起きたら夢中になった相手のことなんて忘れてしまうようなバカバカしさに、憧れを抱きまくっていたからなのか。

『Love On Ice』の冒頭2曲のなかで繰り返され、曲名にも使われている「No Guilty Pleasures」=「罪悪感のある悦びはない」というフレーズがある。

「踊っている今、この瞬間くらい罪悪感なんて考えなくて良いんじゃない?」と私なりに解釈してみる。

ダンスは、脳にドーパミンとセロトニン、いわゆる幸せホルモンと言われる物質を作り出すらしい。

夜の匂いと煙たさの似合う、享楽的にも聴こえる音楽には、日々蓄積したしんどさを一瞬、ほぼ強制的に心の底に沈めてしまう力があるのだ。

キンとした冷たさ

ちなみに、『Love On Ice』をリリースしているレーベルであるMusic From Memoryはニューエイジやバレアリック好きの中では名の知れたレーベルで、「そういった音楽が好きだな〜」と思っているのなら是非チェックしてみて欲しい。

今回紹介したJohnny Sais Quoiは、今作がデビュー作ということもあり情報が少なく、なかなか掴めない存在。以前は「Speedboat」というシンセ・ポップデュオとして活動していたようで、こちらはニューウェーブ風味が効いたポップな作風。

個人的に、最近のイタロ・ディスコと想像すると音に暖かさを感じる作品が多い印象なのだけど、
今作ではもっと原初的というか、ジョルジオ・モロダーの生み出したピコピコしたスペーシーな世界観や、ニューウェーブからの影響だろうが、キンとした冷たさが注入されている(アルバムタイトルが『Love On Ice』だしね)感じが新鮮に聴こえた。

次にどんな曲をリリースしてくれるのか、早くも待ち遠しいアーティストです。

 

注釈
「No Guilty Pleasures」
このフレーズはJohnny Sais Quoiのインスタの投稿でも引用されており、アルバムの中核を担う言葉なのでは?と私は思っています。

SpeedBoatというシンセ・ポップデュオとして活動していたよう
残念なことに現在は活動停止。

 

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引用

https://johnnysaisquoi.bandcamp.com/album/love-on-ice

https://www.asahi.com/sdgs/article/14966952

Edit: Himari Amakata

Writer: 渡辺青

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WATANABE AO

ライター

渡辺青(わたなべ あお) 2003年生まれ。家業の大家を継ぎつつシェアスペース「空き地さんかく」の主宰&レコード屋と古本屋で働くなど、一体何屋なんだか不明な生活を送る。2025年の目標は、DJをできるようになる事。

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